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1章
シルヴィアの決意
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レイフォードの部屋から一言も発する事無く、自室に戻ったシルヴィア。
部屋の真ん中まで進み、ピタリと止まる。
何をするでもなく、只そこに佇んでいる。
数分後、
「・・・レイフォード様に、・・嫌われてしまっ・たわ・・ね。」
弱々しくシルヴィアは漏らした。
扉の前で待機していたソニアがシルヴィアに近づく。
「シルヴィア様・・・。」
ソニアは自身のスカートのポケットからハンカチを取り出し、シルヴィアの頬をはらはらと伝う涙をそっと拭う。
「ふ、ふふ。ありがとう。ソニア。部屋に、戻るまでは泣か、ないように我慢、して、いたから、」
「もう、大丈夫ですよ。ここはシルヴィア様のお部屋ですから、我慢しなくて。」
「ふっ、く、ううううああああああああああ!」
顔を両手で覆い、その場に座り込む。
堰き止めていたダムが決壊したかのように、大粒の涙が止めどなく溢れ出る。
ソニアは蹲るシルヴィアに覆い被さるように抱きしめて、シルヴィアの背中をさする。
しばらくそうしていると、シルヴィアも大分落ち着きを取り戻してきた。
「・・・あの男を殺す事は簡単なんですけど「そ、そんな駄目よ!!」・・・そう言われるでしょうから、しませんよ。」
ソニアの殺害宣言に完全に涙が引っ込み、シルヴィアが食い気味にソニアの腕を掴み制止する。
ソニアは穏やかに微笑みながら、シルヴィアの目尻に残った涙を指で掬う。
「冗談ですよ。シルヴィア様があの男に愛想を尽かしていれば話は別ですが、私には理解しかねますがシルヴィア様はまだあの男への愛情はあるようですしね・・・。本当に理解できませんが。」
ソニアは肩を竦め、おどけてみせる。
「貴女が冗談を言う時は、本当に怒っている時に自分の感情を抑えようとしている時よね?」
「・・・・・」
「大丈夫よ、私。この身体になって沢山酷い事言われたから、言葉では傷ついたりはしていないの。
レイフォード様に失望させてしまった事が辛くて、悔しいの。」
少し目を腫らしたシルヴィアが悲しく笑う。
「悔し涙だから、大丈夫。私は平気。それよりも結婚証明書に署名しましょう。これを教会に提出すれば、一応レイフォード様と夫婦になれるわね。婚約を破棄されて家に戻らずに済んで良かったわ。」
「そうですね。破談になってビルフォード家に戻れば、あのおと・・レイフォード様の命が本当に保証されませんからね。まあ、それでも私は良いのですけど。」
にやりと悪い顔でソニアは笑う。シルヴィアは小さく溜息を付いて
「もう、あなたは本当に・・。お父様やお兄様はそんな事しないわよ。凄く心配性なのは認めるけど。」
(いや、本当に殺されますよ、あのお方たちを怒らせれば。シルヴィア様には見せないだけで、今までシルヴィア様を嘲笑した貴族子息達の制裁を私に命じてきたのは貴女の御父上ですよとお伝えしたい。)
ソニアの長い沈黙に首を傾げるシルヴィア。
「取り敢えず、お家から持ち込んだ荷物の荷解きをしなくてはね。と言ってもそんなに荷物は多くないからすぐに終わりそうだわ。」
寝台の横に置かれた三つの旅行鞄。一つはソニアの荷物なので実際にシルヴィアの荷物は二つ。
「本当にこれだけの荷物で宜しかったのですか?」
ソニアの問いかけに、シルヴィアは苦笑交じりに答える。
「ええ、私は元々そこまで自分の持ち物は無かったし、少しの身の回り品とお洋服が何着かあれば充分。不足があればお父様がいつでも取りに帰って来なさいって仰ってたから、本当に今必要な物だけあればいいのよ。」
(シルヴィア様絶対会いたいだけですからね、それは。)
小物を鞄から取り出し、ドレスをクローゼットにしまいながら、ソニアの脳内で呟く。
数十分で荷解きが終わり、ソニアはお茶の用意を始めた。
ソニアの用意をぼーっと眺めているシルヴィアはレイフォードに言われた事を思い出しながらこれからどうしようかと考えた。
「レイフォード様をどう呼んだらいいかしら・・」
「顔だけ男、無駄金髪野郎、性格悪男、後何がありますかね?」
ソニアが紅茶を淹れたカップをシルヴィアの前に差し出す。
「・・・貴女、真面目に考えていないわね?」
「私は大真面目です。」
「ふふ、いいわよ。自分でちゃんと考えるから。うーん、ご主人様、主様、お館様、・・・」
シルヴィアは顎に人差し指を添えて、ソニアに淹れて貰った紅茶を一口飲む。
「旦那様よねぇ・・・一番しっくりくるのは。そうね、旦那様ね。決まり。後は、レイフォード様に妻として認めて貰うためには、病気に罹る前の体型に戻した方がいいわね。ねえ、ソニアまた前みたいに稽古を」
「駄目です。あれはジュード様にバレて大目玉を喰らったでしょう、次にまた行うなら私はシルヴィア様の侍女を解雇されます。それでも良いのですか?」
「そ、それは嫌。ソニアが居なくなるのは絶対嫌。じゃあ、どうしたら・・。」
握りしめた両手の拳を胸に当てシルヴィアは懇願する。
「まあ、あの稽古じゃなく、普通に体を動かす程度の運動位なら、ジュード様も何も言わないでしょう。」
「うん・・・それ位しか無いわよね。・・・・よし!明日から頑張るわよ!!レイフォード様に妻だって認めて貰うために!」
拳を空に掲げシルヴィアは決意表明をする。
「では、本日はもうお休みになられてください。私は湯浴みの用意をしてきますので。」
ソニアはシルヴィアの部屋を退室して、シルヴィア一人になる。
今日は色々な事があった、レイフォード様は想像以上に美しくなられていた。でも、嫌われてしまった。
夫婦にはなれたけれど、認められていない。美しいレイフォード様の側に美しくあらねばあらぬ。これからの目標は決まった。それを遂行する為に努力するだけだ。大丈夫、努力するのは得意。頑張れる。
シルヴィアは自分の姿を鏡で見る。
「貴女はこれから変わるのよ。」
鏡の自分に手を当て話しかけた。
暫くして、地鳴りがして何かが倒れる音にシルヴィアは慌てて窓の外を見た。
湯浴みの準備に向かうと退室したソニアが倒れた大木の傍に立っていた。
首を傾げ、まあきっと何か用事があったのだろうと、ソニアが準備を終えるのを待った。
部屋の真ん中まで進み、ピタリと止まる。
何をするでもなく、只そこに佇んでいる。
数分後、
「・・・レイフォード様に、・・嫌われてしまっ・たわ・・ね。」
弱々しくシルヴィアは漏らした。
扉の前で待機していたソニアがシルヴィアに近づく。
「シルヴィア様・・・。」
ソニアは自身のスカートのポケットからハンカチを取り出し、シルヴィアの頬をはらはらと伝う涙をそっと拭う。
「ふ、ふふ。ありがとう。ソニア。部屋に、戻るまでは泣か、ないように我慢、して、いたから、」
「もう、大丈夫ですよ。ここはシルヴィア様のお部屋ですから、我慢しなくて。」
「ふっ、く、ううううああああああああああ!」
顔を両手で覆い、その場に座り込む。
堰き止めていたダムが決壊したかのように、大粒の涙が止めどなく溢れ出る。
ソニアは蹲るシルヴィアに覆い被さるように抱きしめて、シルヴィアの背中をさする。
しばらくそうしていると、シルヴィアも大分落ち着きを取り戻してきた。
「・・・あの男を殺す事は簡単なんですけど「そ、そんな駄目よ!!」・・・そう言われるでしょうから、しませんよ。」
ソニアの殺害宣言に完全に涙が引っ込み、シルヴィアが食い気味にソニアの腕を掴み制止する。
ソニアは穏やかに微笑みながら、シルヴィアの目尻に残った涙を指で掬う。
「冗談ですよ。シルヴィア様があの男に愛想を尽かしていれば話は別ですが、私には理解しかねますがシルヴィア様はまだあの男への愛情はあるようですしね・・・。本当に理解できませんが。」
ソニアは肩を竦め、おどけてみせる。
「貴女が冗談を言う時は、本当に怒っている時に自分の感情を抑えようとしている時よね?」
「・・・・・」
「大丈夫よ、私。この身体になって沢山酷い事言われたから、言葉では傷ついたりはしていないの。
レイフォード様に失望させてしまった事が辛くて、悔しいの。」
少し目を腫らしたシルヴィアが悲しく笑う。
「悔し涙だから、大丈夫。私は平気。それよりも結婚証明書に署名しましょう。これを教会に提出すれば、一応レイフォード様と夫婦になれるわね。婚約を破棄されて家に戻らずに済んで良かったわ。」
「そうですね。破談になってビルフォード家に戻れば、あのおと・・レイフォード様の命が本当に保証されませんからね。まあ、それでも私は良いのですけど。」
にやりと悪い顔でソニアは笑う。シルヴィアは小さく溜息を付いて
「もう、あなたは本当に・・。お父様やお兄様はそんな事しないわよ。凄く心配性なのは認めるけど。」
(いや、本当に殺されますよ、あのお方たちを怒らせれば。シルヴィア様には見せないだけで、今までシルヴィア様を嘲笑した貴族子息達の制裁を私に命じてきたのは貴女の御父上ですよとお伝えしたい。)
ソニアの長い沈黙に首を傾げるシルヴィア。
「取り敢えず、お家から持ち込んだ荷物の荷解きをしなくてはね。と言ってもそんなに荷物は多くないからすぐに終わりそうだわ。」
寝台の横に置かれた三つの旅行鞄。一つはソニアの荷物なので実際にシルヴィアの荷物は二つ。
「本当にこれだけの荷物で宜しかったのですか?」
ソニアの問いかけに、シルヴィアは苦笑交じりに答える。
「ええ、私は元々そこまで自分の持ち物は無かったし、少しの身の回り品とお洋服が何着かあれば充分。不足があればお父様がいつでも取りに帰って来なさいって仰ってたから、本当に今必要な物だけあればいいのよ。」
(シルヴィア様絶対会いたいだけですからね、それは。)
小物を鞄から取り出し、ドレスをクローゼットにしまいながら、ソニアの脳内で呟く。
数十分で荷解きが終わり、ソニアはお茶の用意を始めた。
ソニアの用意をぼーっと眺めているシルヴィアはレイフォードに言われた事を思い出しながらこれからどうしようかと考えた。
「レイフォード様をどう呼んだらいいかしら・・」
「顔だけ男、無駄金髪野郎、性格悪男、後何がありますかね?」
ソニアが紅茶を淹れたカップをシルヴィアの前に差し出す。
「・・・貴女、真面目に考えていないわね?」
「私は大真面目です。」
「ふふ、いいわよ。自分でちゃんと考えるから。うーん、ご主人様、主様、お館様、・・・」
シルヴィアは顎に人差し指を添えて、ソニアに淹れて貰った紅茶を一口飲む。
「旦那様よねぇ・・・一番しっくりくるのは。そうね、旦那様ね。決まり。後は、レイフォード様に妻として認めて貰うためには、病気に罹る前の体型に戻した方がいいわね。ねえ、ソニアまた前みたいに稽古を」
「駄目です。あれはジュード様にバレて大目玉を喰らったでしょう、次にまた行うなら私はシルヴィア様の侍女を解雇されます。それでも良いのですか?」
「そ、それは嫌。ソニアが居なくなるのは絶対嫌。じゃあ、どうしたら・・。」
握りしめた両手の拳を胸に当てシルヴィアは懇願する。
「まあ、あの稽古じゃなく、普通に体を動かす程度の運動位なら、ジュード様も何も言わないでしょう。」
「うん・・・それ位しか無いわよね。・・・・よし!明日から頑張るわよ!!レイフォード様に妻だって認めて貰うために!」
拳を空に掲げシルヴィアは決意表明をする。
「では、本日はもうお休みになられてください。私は湯浴みの用意をしてきますので。」
ソニアはシルヴィアの部屋を退室して、シルヴィア一人になる。
今日は色々な事があった、レイフォード様は想像以上に美しくなられていた。でも、嫌われてしまった。
夫婦にはなれたけれど、認められていない。美しいレイフォード様の側に美しくあらねばあらぬ。これからの目標は決まった。それを遂行する為に努力するだけだ。大丈夫、努力するのは得意。頑張れる。
シルヴィアは自分の姿を鏡で見る。
「貴女はこれから変わるのよ。」
鏡の自分に手を当て話しかけた。
暫くして、地鳴りがして何かが倒れる音にシルヴィアは慌てて窓の外を見た。
湯浴みの準備に向かうと退室したソニアが倒れた大木の傍に立っていた。
首を傾げ、まあきっと何か用事があったのだろうと、ソニアが準備を終えるのを待った。
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