げに美しきその心

コロンパン

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5章

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ダイオンの屋敷に到着した二人。

ドアマンがシルヴィアの姿を見て赤くなったが、
横に居るのがジュードだと分かると、
顔色を青くさせ、直ぐ様扉を開ける。

ロビーを通り、広間に入る。
瞬間、時間が止まったように其処に居た貴族達が、
静まり返る。

シルヴィアは辺りを見回す。

(レイフォード様、居ないわ。先に出られた筈よね?)

まさか自分が注目をされているとは、思っていないシルヴィア。
レイフォードの姿を探す。


「何て美しい女性なんだ・・・。」

「あんな人前から居たか?見た事ないぞ。」

「おい、隣に居るのビルフォード伯爵じゃないか!?」

「本当だ。煉獄の鬼神だ!」

「あの女性、鬼神の知り合いか?」


口々に周りの貴族は囁き合う。


「やはり、騒がしい害虫共はシルヴィアを放ってはおくまいか。」

ジュードは忌々しそうに周囲の貴族を見渡す。

「お父様?どうかなさったの?」

ジュードの顔が険しいのに気づいてシルヴィアが声を掛ける。

「ん?ああ、いやなんでもないぞ。
それより、シルヴィア。今日はこの父の側をあまり離れてはならんぞ。」

「はい。お父様。」

ざわつく貴族達。
ジュードは態と周囲に聞こえる声で、『父』という言葉を強調した。
鬼神の娘であるなら、余程でない限りシルヴィアに寄って来る男は居ないだろう。
普段は鬼神などという馬鹿げた名など嬉しくもなんともないが、
この時ばかりは存分にその名を利用させて貰おう。そうジュードは考えた。



「鬼神の娘!?」

「伯爵に娘が居るのは聞いた事があるが、あんなに美しい娘だとは知らなかった。」

「伯爵は恐ろしいけれど、どうにか話が出来れば・・・。」





「・・・・?」

何か、いつもと違う。
公の場で、シルヴィアを嘲り、蔑む様な視線を受ける事はあった。
今日は違う。

視線を受けているのが分かるが、今までとは違うねっとりとした物に少し背筋が震えて

(やっぱり、肩を出したドレスだからかしら、いつもより寒く感じるわ。
帰ったら、温かい飲み物を頂いてから寝た方が良いわね。)


その視線に色が含まれているとは、シルヴィアは知らない。



「すっかり注目の的だね、シルヴィア嬢。」

穏やかな声でエリオットが近づいてくる。
シルヴィアは微笑み、カーテシーをする。

「ごきげんよう、エリオット様。」

「いつも美しいけれど、今日は一段と麗しいね。
こんなに艶やかな姿で現れたら、周りも色めき立つのも頷ける。」

「ええ!?エリオット様、またそんな・・・。
私を揶揄わないでくださいな。」

「本当の事だよ。周りの殿方は
君と話がしたくて堪らないみたいだよ?」

「うう・・・。そんな事ないです・・・。」

ほんのり顔に紅が差し、伏し目がちに俯くシルヴィアの様子に
周りの貴族の男達はごくりと唾を飲み込む。
恥じらう顔を間近で見ようと、近づこうとする者が居たが
ジュードの睨みで、ある一定の距離までしか近づけなかった。

「先生もお久しぶりです。」

気安げにエリオットがジュードに挨拶をする。
憮然とした態度のジュード。

「相変わらずだな、エリオット。
シルヴィアにちょっかいを掛ける暇があるのなら、
もっと剣の腕を磨いたらどうだ?」

肩を竦めてエリオットが大袈裟に話す。

「ああ、怖い。挨拶するだけでそんな風に威嚇されるなんて思いませんでしたよ。」

「威嚇などしておらんだろうが。」

「していますよ。その瞳。炎の様に真っ赤ではないですか。」

ビルフォード家の瞳は特殊で、感情によって色が変化する。
ジュードは平静時は、薄めの赤色で
感情が高ぶると血の様に濃く、深い赤色になる。

「その瞳の色からすると、大分ご機嫌ななめですね。」

「ふんっ。」

エリオットはジュードと長い付き合いのため、何となく瞳の濃淡で、ジュードの気分を読み取る事が出来るようになった。

「お前の事だ、何か用があって来たのではないのか?」

早く要件を言えとばかりにジュードは、エリオットに急かす。

「え?用事?無いですよ。強いて言えばシルヴィア嬢に会いに来た、かな?」

首を傾げ、あっけらかんと話すエリオットにジュードは訝しげに見据える。
そしてエリオットに顔を近づけて、シルヴィアに聞こえないように小声で話す。

「お前、まさかとは思うまいが。」

「そのまさかですよ。いやあ、レイフォードがちょっと、自覚し出しましてね。
焦っているのかなあ。」

「なら、何故あの時に断った?
あの時点で、お前が候補に上がっていたのに。」

「まさか、先生の娘がこんなに美しい女性だと教えてくれたら、是が非でも貰い受けるつもりでしたけどねえ。
誰かさんが、自分によく似ていると言うものだから、真に受けて鬼神と似ているなんて、
当時の僕には恐怖でしかなかったですから。」

エリオットがシルヴィアに笑いかける。
シルヴィアも二人が仲が良いなあと思いながら、にこりと微笑む。
またジュードに顔を戻し、

「まぁ、無駄な足掻きでしょうけどね。
彼女は本当に弟に夢中だから。
血斑症?って言うのですかね、弟がかかった病をほぼ不眠不休で看護したらしいですね。」

「ああ、あの病は我々ビルフォード家にとって、シルヴィアにとっても、忘れ難いものだからな。
自分の使命だと感じる事もあったのだろう。」

渋い顔をするジュード。
ふうと息を吐き、シルヴィアを見て
ジュードはシルヴィアの手を取る。

「シルヴィア嬢、父上にも言われると思うけれど、
弟を救ってくれて、本当にありがとう。
貴女が居なかったら、弟は助からなかったとゴードンから聞いたよ。
本当にありがとう。」

シルヴィアは首を横に振り、眉根を寄せる。

「いいえ、私は妻として当然の事をしたまでです。
救ったなど、そんな大それた事。
それに・・・もっとあの病について調べていれば、旦那様の肌も。」

「男の肌なんて気にしなくていいよ、アイツも気にしていないし。」

「それならばいいのですが・・・。
あの、ところで旦那様はどちらにいらっしゃるのでしょうか?」

「ん?アイツは控室でうだうだしているよ。」

面白くて仕方がないという風に、エリオットは笑う。





「どうやら、違う病を発症しているみたいだよ。」








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