げに美しきその心

コロンパン

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7章

本当に来た。

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街から帰ってきたシルヴィアは、レイフォードと別れ自分の部屋へと戻る。

とは言っても、入るまでに中々手を離してくれず、
部屋の前で数十分手を繋いだままでいた。

見兼ねたソニアがレイフォードの手を引き剥がし、
シルヴィアは漸く解放された。




「ねえ、ソニア。」

「何でしょう?」

「私・・・、そんなに危なっかしいのかしら?」

「そうですね。」

一切の迷いなくソニアが肯定する。

「そうなのね・・・。だから、なのね。」

「どうされましたか?」

シルヴィアは一人で納得する。
ソニアは大体予想は出来たが、敢えて聞いてみた。

「今日ずっとレイフォード様と手を繋いでいたの。」

「はい、そうですね。」

ソニアは気配を殺してシルヴィアとついでにレイフォードを警護していた。
万が一破落戸に絡まれた時に処理する為だ。

その時にレイフォードの友人とシルヴィアがちょっとした接触事故が起き、
そこから、何やら妙な小競合いが発生。
友人と別れた後、レイフォードがシルヴィアの手を取りそのまま歩き出した。

「私、街でレイフォード様の御友人のライオネル様にぶつかってしまったの。
前を向いていなかった馬鹿な私を、ライオネル様は許して下さったわ。
そこからなの、手を繋がれたのは。
子供が一人で走り出さないように、親が手を繋ぐ感覚になられたのよね、きっと。」

「・・・ふっ。」

「だって、また私が一人でキョロキョロして、誰かとぶつかってしまったら、
もう本当に目も当てられない失態よ。
レイフォード様とのお出掛けが嬉しくて、
完全に浮かれていたもの、私。
今思えば、そうなる前に私を諌めてくださったのよ。
レイフォード様、本当に素晴らしい方だわ。」

「ふっ、くくくく。」

シルヴィアがうっとりとした表情で話し続ける。
ソニアは肩を震わせ、笑いを堪えるが漏れ出てしまう。
またもやシルヴィアは見当違いの結論を出した。


「ああ、でも。
今度の植物園でのお出掛けの時、私自分の興奮を抑え込む自信が無いわ・・・。
また一人で浮かれて、暴走してしまうかもしれない。
だって、沢山の植物をレイフォード様と一緒に見る事が出来るなんて、
あの時に見た夢が現実に・・・。」


そう言って顔を両手で覆い、ベッドに倒れ込む。

「いいえ、夢よ、夢。
あんな事、絶対起こりえる筈がないわ。
レイフォード様は、お好きな方が居ないのよ。
そんな不誠実な事なさるなんて有り得ないわ。」


「ぶはっ!!」

とうとう耐えきれずソニアは吹き出した。

「ソニア?どうしたの?」

「い、いいえ。お気になさらず。」

「そう?」

(今の言葉あの坊ちゃんが聞いたら、どんな反応をするのか興味深い。
今はともかく、以前は不誠実が服を着て生活していたのに。)



「取り敢えずシルヴィア様、洋服を着替えましょう。
今日は色々お疲れでしょうから、早めにお休みください。」


「ええ、分かったわ。
興奮して中々眠れないかもしれないけれど。」

「それでも眠ってくださいね。
寝不足の顔を御当主に見られたくないでしょう?」

「それは嫌だわ!ちゃんと眠るわ!」




シルヴィアの部屋を出て、ソニアは使用人達の部屋へ。

そこにはアンやテーゼ等がお茶を飲んで談話していた。


「あ、ソニアさん。どうしたんですか?
何か嬉しい事があったんですか?」

テーゼがソニアの顔を見て言う。

「ああ、顔に出てましたか。
嬉しいというか、非常に愉快な事がありまして。」

「うわぁ、気になりますねぇ。」

テーゼは興味津々で、身を乗り出す。

「秘密です。」

「ええ!嘘!?教えてくださいよぅ!!」

ソニアはうっそりと微笑み、部屋の奥へと進む。
大きな声を出しテーゼそれにが続く。


「・・・レイフォード様とシルヴィア様絡みな気がする・・・。」

アンだけがお茶を飲みながら、ひっそりと言葉を溢した。











翌朝、レイフォードとシルヴィアは朝食後、食卓で談話をしていた。


そこへゴードンが少し慌てた様子で入ってくる。


「レイフォード様、お客様がお見えになっております。」

「・・・こんな時間に誰だ。」

途端に不機嫌な声になるレイフォードに、ゴードンは言いにくそうに述べる。


「それが・・・、ファンブル侯爵家のライオネル様と、マクスウェル侯爵家のミゲル様です。」


「アイツ等、本当に来たのか!!」

ガタンと勢い良く立ち上がり、声を荒げる。

「まぁ、ライオネル様とミゲル様が。」

シルヴィアはパッと花が綻ぶような笑顔を見せる。

「・・・・・。」

レイフォードは恨めし気な目線をシルヴィアに送る。
しかし直ぐに目を瞑る。

「分かった。直ぐに行く。」

ゴードンに嫌々答え、席を立つ。

「レイフォード様、私もご一緒に・・・。」

シルヴィアも席を立つが、レイフォードはそれを手で制す。

「いや、大丈夫だ。シルヴィアはゆっくりしていてくれ。
あの二人の相手は俺がしておく。」

「え、ですが・・・。」

レイフォードはシルヴィアを極力男と接触させたくない。
シルヴィアはレイフォードの妻として夫の友人を持て成すべきでは無いのだろうかと考える。

先日、忠告したにも関わらずあの二人はのうのうと此処へやって来た。
目当ては確実にシルヴィアだろう。


「アイツ等はシルヴィアの持て成しを受ける必要は無い。」

シルヴィアの肩に手を置き、真剣な眼差しでシルヴィアを見る。

「そ、そうなのですか?」

「ああ、アイツ等に近づいたら、駄目だ。シルヴィアが汚れる。」

「人をばい菌扱いしないでくれるかな?」

扉付近からの声。

「ちっ。」

レイフォードが舌打ちをする。

「俺は昨日言ったからな、今日お前の家に行くと。」

「俺は了承していなかった。」

ミゲルの言葉にレイフォードは不機嫌に返す。

「おっ!シルヴィア嬢、今日も麗しいな!」

レイフォードを無視してシルヴィアの方へ歩み寄るミゲル。

「ミゲル様、おはようございます!」

弾ける笑顔をミゲルに向ける。
ミゲルは一瞬止まる。
そして眉を下げて自嘲気味に笑う。

「本当に、勿体無い事をした。俺もシルヴィア嬢の婚約者候補だったのにな。
君の様に美しい妻なら、レイフォードが過去を清算するのも頷ける。」

「おいっ!!」

レイフォードは声を荒げる。

「レイフォード様の過去?」

シルヴィアはきょとんとする。
レイフォードは慌てて、シルヴィアの気を逸らそうとする。

「シルヴィア、お茶のお代わりはどうだ?
今日のお茶は父上から頂いたものだが、シルヴィアは気に入ったか?」

「まぁ!そうなのですか?
とても爽やかで飲みやすくて美味しいです。」

ニコリと微笑むシルヴィア。
あ、と思い出した後、更に笑みを深くする。

「そうです!昨日、街で買って来たお茶請けをお持ち致しますわ。
レイフォード様、宜しいですか?」

「ああ、そうだな。」

「では、直ぐにお持ち致しますね。」

そう言ってシルヴィアはゴードンと共に部屋を出て行った。




「どういうつもりだ。」

ミゲルを睨み、唸る様な声を出すレイフォード。

「何がだ?」

「とぼけるな。シルヴィアに変な事を吹き込むな。」

「吹き込む?本当の事だろう?
可哀想に、シルヴィア嬢は何も知らないみたいだな。」

「お前!!」

ミゲルの胸倉を掴む。

「ミゲル!レイフォード!」

ライオネルがミゲルとレイフォードを引き剥がす。

「諍いを起こす為に今日は来た訳では無いだろう。
レイフォード、済まないな。
ミゲルはお前が最近顔を見せないから、拗ねていたんだよ。」

「ライオネル!俺は別に拗ねてなどいない。」

ミゲルは慌てる。
ライオネルは柔和な笑みを浮かべる。

「前にレイフォードが付き合い悪いって、やけ酒していたのは誰だったかな?」

「あ、あれは!別にそれが理由な訳では・・・。」

ミゲルが口籠る。

「ふ。レイフォード、ミゲルはお前と少し話がしたかっただけなんだ。
シルヴィア嬢をどうこうするつもりは無いから、そう構えないでくれ。」

ライオネルが笑みをそのままに穏やかに話す。
レイフォードは毒気を抜かれて、ふう、と溜息を吐く。

「まぁ、今日は特に何も用事は無いから、少しだけなら付き合ってやる。
重ねて言うが、シルヴィアには変な気を起こしてくれるなよ。」

「分かっているって。」

「お前もだ、ライオネル。」

「勿論だよ。」

終始笑顔のままのライオネルに一抹の不安を覚える。


(ミゲルは兎も角、ライオネルは何を考えているか分からない。
用心に越した事はない。)






「レイフォード様!お待たせ致しました。」

絶妙なタイミングでシルヴィアが戻って来る。



どうか、何事も無い様に。
神に祈る様な気持ちでシルヴィアを見つめるレイフォードは、
同じ様にシルヴィアを見つめるライオネルの視線に気づく事が出来なかった。




















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