神を喰らい、君を隠す

才賀ゆう

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 黒焔の指が頬から離れた瞬間――次に触れたのは、水澄の顎だった。
 ひやりとした指先が、そっとその輪郭を持ち上げる。動こうにも、腕は頭上で固定されていて逃げ場がない。黒焔の顔が、すぐ目の前に迫っていた。

「……っ、なに、して……」

 その問いの続きを、黒焔は待たなかった。顔がすっと近づき、次の瞬間――唇が塞がれる。それは口づけとは到底呼べない。ただ一方的に奪われた感触だった。

 熱も、優しさもない。けれど、強引に押しつける力もない。ただ、迷いのない静かな接触。その異様な静けさが、かえって水澄の思考をかき乱した。

(なにを……してる……?)

 心臓が大きく跳ねる。頭の中が真っ白になって、拒絶したいのに身体が反応できない。

 一度、黒焔の唇が離れる。けれどそれは呼吸の隙を与えるためではなかった。ただ間を置くように、わずかに距離を取ったかと思うと、黒焔は再び唇を重ねた。
 今度は、舌が容赦なく口腔をこじ開けて侵入してくる。水澄の口内を蹂躙するように、湿った熱がゆっくりと動いた。

「っ……ん……は……っ」

 喉の奥から漏れる声は、かすれていて、息を吸うたびに引き裂かれるようだった。
 まともに呼吸ができない。肺が酸素を求めて軋み、意識が遠のきそうになる。限界が近づいた、その瞬間に黒焔の唇が、ふっと離れた。

「……っは、……ぁ……っ……や、だ……やめろ……黒焔……っ……!」

 水澄は、喉の奥で掠れた声を無理やり吐き出す。必死に空気を求めて浅く息を吸うたび、肩が小刻みに震えた。肺に酸素は届いているはずなのに、胸の奥はまだ苦しい。

 そんな様子を見ても、黒焔は一切動じる事なく静かに、水澄の襟元に手を伸ばす。指先が布に触れゆっくりと、躊躇いも、焦りもなくそれをはだけていく。

 ひやりとした空気が肌に触れた瞬間、水澄の身体がびくりと跳ねた。

「やだっ……やめろ……やめろって……!」

 懇願にも似た叫びは、薄暗い空間に虚しく響いた。
 けれど黒焔は応えない。ただ喉元から鎖骨、そして胸元へと、無言のまま唇を這わせていく。
 拒絶しているはずの身体が、じわじわと熱を帯び始める。その変化が恐ろしくて、水澄はさらに身体を強張らせた。

(――どうして、こんなことを)

 水澄の思考が追いつかないまま、ようやく黒焔が口を開いた。

「霊鈴の反応を消す方法が、ひとつだけある。神気の流れを遮断すれば――霊鈴は反応しない。つまり、お前は神憑きではなく、ただの人間として、生き延びることができる」

 静かに、しかし決定的に。

「それを、今からお前に教える」

 その言葉が落ちた瞬間、水澄の鼓動が大きく跳ねた。

「……え……?」

 掠れた声が漏れる。
 意味を――理解できなかった。いや、理解したくなかった。この状況で、教えるという言葉が、何を意味するのか。思考が必死に拒否しようとする。

 けれど黒焔の手は、もう水澄の下半身へと伸びていた。水澄の衣の合わせ目に添えられた指が、布を滑らせるように解いていく。その動きは、まるで儀式のようにゆっくりで、逃げ場のない静けさがあった。
 
「……嘘だろ……」

 呟くように声が漏れる。
 けれど黒焔は否定しない。露わになった下腹部の、柔らかな肌に――黒焔の唇が、そっと触れた。
 
「っ……」

 水澄は必死に身をよじった。鎖が激しく揺れ、金属同士がぶつかる甲高い音が室内に響く。だが――黒焔の身体は微動だにしない。
 そのとき、ふと彼の腰に吊られた霊鈴が、淡く赤く脈打ちながら、じりじりと明滅しているのが見えた。霊鈴が、反応している。水澄の神気を、確かに察知しているのだ。

 このままでは、他の誰かが気づき部屋に踏み込んでくるかもしれない。黒焔だけでは済まなくなる。
 そんな焦燥がよぎったその瞬間、黒焔が水澄の両脚の間へと膝を差し入れる。拘束された身体の上に、その影が覆いかぶさってきた。
 
「神気は人間と交わることで、一時的に希釈される。肉体に人の精が宿ることで、霊鈴の識別が鈍る」

「……そんな……っ……!」
 
 水澄は必死に逃れようとして、肩を強く揺らす。

「やめろ……! こんなこと、俺は……っ」

 水澄は叫んだ。太腿に触れる手のひらが、異様に熱い。拒絶するほど、それが肌に染みるように伝わってくる。

「やめろ、黒焔……お願いだ、やめてくれ……っ!」

 振り払おうと暴れても、鎖が重くのしかかる。
 繋がれた手首は、わずかな余地しか残さず、思うように動かせない。黒焔は、水澄の叫びにも、暴れにも、ひとつとして答えなかった。
 ただ、無言のまま指を肌へ這わせる。太腿の内側、敏感な場所を、荒くも繊細な手つきでなぞる。

「……っ」

 声が震え、喉が裂けそうだった。黒焔は、そんな水澄の頬にまたそっと手を添えると、真っ直ぐ目を見据えて言った。

「このまま霊鈴が灯り続ければ、お前は見つかる。俺以外の焔狩に、命を奪われる」

 低く淡々とした声。それなのに、確かな焦りのような熱が言葉の端々に滲んでいた。

「それでも……っ、こんなの……!」
「なら――他に方法を教えてくれ」

 黒焔の声が重く落ちる。その目は、選択肢などないと語るように、まっすぐ水澄を見据えていた。

「俺はお前を生かしたい、それだけだ。手段を選ぶ余裕なんか、既に無い」

 静かな声だった。けれどそこには、凍てついた仮面の奥に潜んだ必死さが確かにあった。言葉ではなく、ただ生かしたいという執着のような想いが、痛いほど滲んでいた。

 言葉を終えると同時に、黒焔の舌が太腿をなぞり、徐々に奥へと侵入する。

「……っ、ん……」

 抵抗の言葉は、熱に沈められるように掠れていった。
 黒焔は舌と指先で、水澄の秘所を舌でなぞって、円を描くように、まるで何かを教え込むように、じらすようにしながら開いていく。

「やっ、あ……やだ……そんなの……っ、汚……」

 舌が這い、唾液が何度も垂らされるたび、そこが、柔らかく、熱を帯びていく。

 堪えきれず、涙がこぼれた。黒焔は舌を離し、柔らかくなったそこに指をそっと挿し込んでくる。ゆっくり、慎重に。けれど容赦なく、侵入してくる感覚。

「っ……あ……っ、やっ、や……ぁ……っ」
 
 くちゅ、といやらしい音を立てながら長い指に掻き回され、舌よりも深くまで入り込んでくる感触に、水澄の喉がひくついた。
 水澄の耳まで熱くなる。羞恥と、苦しみと、奥底の何か――その全部が絡み合って、涙が止まらなかった。
 抵抗しているはずなのに、身体がわずかに跳ねる。
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