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第1回 プロローグ 聖騎士『ランスロット』の受難 (上)
しおりを挟むザクセン州ベーメン自治領近衛騎士団の聖騎士ランスロット。死の呪いに朽ち果てるの巻。
錆びくれの重い鎖に繋がれた我が両腕と両の足。抗う事は容易ではない。そして、喉の奥からは声にならない声・・・カルーッアジィーㇲ・・・
喉奥の血だまりに張り付いたその声は、悲鳴の後々の枯れ果てた微かな吐息。もう幾刻ほど此処にこうして繋がれている事か!?
『カルーーーㇲ』『アジィーㇲ』
声にならない我が詠唱。
今や、
意識は脳裏に漂う深い霧の中。記憶は、薄れかけた意識と共に風前の・・・正に消えかけの灯。
私は両肩、そして右肘の関節部位及び両膝と背中から腰の辺りにかけ深い刀傷を負っていた。しかし今は・・・痛みすら感じない。
半開きの眼で周囲を伺う。
整然と積み上げられた大小様々な岩の削り出しの壁。その壁と同種の低い天井は、中腰の私の窮屈な身の丈に等しく・・・
つまり私は、
閉ざされた牢獄に幽閉され、今にも息絶える寸前だった。其処はセーラム城の南西の物見の塔。苔むした螺旋の石段を下った地下の区画。
城砦のガードの兵士の多くが、その存在すら伺い知れ無い隠し通路の更に奥。
『我が名はランスロット。願わくば我が天の主よ・・・どうか答えたまえ・・・』
其の声にならない言葉こそが、聖騎士としての我が禱術。
『カルーッアジィーㇲズクサン。トリュモテユフㇲ』
即ち初歩の癒しの禱術。聖騎士としての初歩。
そうなのだ・・・確かに私は駆け出しの禱術を操る身。
今、この術が果たされても・・・
時と場合によっては、この深手を負った刀傷。癒されるどころか、其れへと塩を送るが如しな災いを招くやも。
其の時・・・
牢獄の朽ちかけの木屑と苔に塗れた扉が微かに軋んだ。私からは到底触れることの叶わぬ(両腕及び両の足を鎖に繋がれているが故)その扉の蝶番が、やがてゴトリと外れる音がした。
床石と木屑がギシシと激しく擦れ合う音。開いた扉の隙間からは松明の灯りがグラリと揺れ惑う・・・それは、鉱油の香りを伴い、牢内の其処かしこに広がり始める。
死臭である。
松明の灯りを掲げる者。その者は薄汚れた朱色のローブを纏う者。松明の取っ手を湿った岩壁の隙間に器用に突き刺し、何やら牢内を見渡す。
その僅かの後・・・牢獄の中央に歩み寄り、床に呪符らしき絵を獣油と紅の染料を羊皮紙に載せ描いた。
その間、黙々たる姿勢。まるで私の存在など無・・・の如し・な・・・
ユラリと揺らめく灯りに浮かび上がる、フードの隙間から見え隠れする表情。それは半身オークの老呪(まじな)師。
男女の見分けすら叶わない不浄で不貞の輩。どす黒い麻布袋から3体分の女の頭部を取り出し、描いた呪符に規則的に並べる。
「こいつらァ!!分かるかァ・・・?」
半身オークの老呪(まじな)い師が、私の視線を避けつつ、不快な声色の人語を吐いた。
「こいつらァ、おめェと同じ種だァ・・・みんな魔女さァ。そうさ、首を跳ねられた」
息も絶え絶えな私は言葉を返す事すらままならず、只々その老呪(まじな)い師を訝るのみ。
「おらの役目はなァおめェに呪いをかける事さァ・・・死しても尚彷徨う哀れな亡者のなァ」
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