屍士 SHIKABANESHI (改:聖騎士と魔法使い及び、盗賊と踊らない踊り子のロールプレイングな旅)

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第1回 プロローグ 魔術師アーレン 初陣の戦(いくさ)場より逃亡す (下)

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我らが小部隊。その前衛補佐の中堅位置に控えるプリースト(司祭)の『ノア』・・・ノーム族である。クラッカス王国の西北アラキア領に古(いにしえ)より根付いた種族である。小振りな体躯に老いた表情。それは一見、伝説のドワーフ族と見紛う節もあった。異様なまでの信心深さは他に類を見ず、更に器用さと狡猾さに於ける彼等の目覚ましい働きは、正しく戦場において目を見張るモノがあった。それは所謂(いわゆる)彼らが唱える癒しの術『デュオス』の多大な恩恵。つまりは・・・
我らが小隊が如何(いか)に傷付こうとも、司祭(プリースト)の精魂尽きる限界まで『痛み』は『再生』を果たすのであった。
それは、何時いかなる時も形勢逆転の好機をはらんだ・・・正しく、彼の存在こそが敵側の最大の脅威であった。

司祭(プリースト)ノアは、僕を見ていた。忙(せわ)しなく術を唱えカインの負傷(切り離された指の再生は不可能なようだ)を癒しながらも・・・
ノアは僕を見ていた。
役立たずで哀れな『名ばかり魔術師』のこの僕を・・・
後方の安全地帯。岩の小山が至る所に点在する巨大な岩陰に僕はへたり込み、前線に背を向け、つまりは悲惨な戦場(いくさば)から目を背けていた。

我が兄ウォルトは既に三度(みたび)火炎の術を吐いていた。消耗は目に見えて著しく・・・
彼は前線の小康状態を期に、倒れた大木の影に身を潜(ひそ)めた。周囲は正しく深い霧。前線から吹き上がる白煙と
相まって、腕を伸ばしては手探りの敵も味方も見迷う有様だった。
多勢に無勢の窮地に置かれては、この霧の情景はただひとつの幸運とも言えなくもない。
ところが・・・
そうなのだ!!!もっと早くに気付くべきだった。ノアの癒しの術を受けながら傭兵カインは激しい殺戮の後々の狂喜と興奮と混乱する意識からフッと我に返った。物心付いた時分から常に感じてきたソノ気配。
其(そ)の気配が・・・無い。
「兄者!!!!!」
カインの野太い声が霧の中でこだまする。
「アニジャァァァ!!」
再び呼びかけたが・・・返事が無い。

カインの怒号が辺りで響く度ごとに前線の辺りの霧の中、至る所から獣どもの唸る罵声が飛び交った。
「アニジャァァァ!!」
カインの怒号。
その時、
「カイン!!静まれ・・・!!」
冷静にして穏やかなるその声の正体は・・・
小路(こみち)の脇に有る幾ばくかの木々の中から、我らの最後の友軍・・・
エルフの射手『タリス』であった。


      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


             

司祭のわりに仰々しい装いのノア。そしてエルフの女弓使いタリス。両者の肖像。

狂乱の傭兵カイン!!!
弓使いタリスの「静まれカイン!」の言葉を無下に遮(さえぎ)り敵の潜(ひそ)む前線へと駆け出した。
『こいつはァいけねえ。いけねえぜ兄者・・・兄者がァこんな雑魚(ざこ)どもに負かされるいわれはねえ』
火炎術の焼け跡や先程までの激しい肉弾、果ては木々や土塊の荒れ果てた様(さま)。そして無惨な骸(むくろ)・・・激しい戦いの残り香が辺りに今だ漂う中、カインは既に悟っていた・・・

一時的休戦の只中の戦場(いくさば)にカインの怒号と地を蹴(け)る地鳴りが響く。向かう先には霧中に見え隠れの幾多の敵影。
・・・奴らの静寂は絶たれた。
霧中に潜む不機嫌な不浄の群れがカインの面前に勢い飛び出す。2体のゴブリンと単いつのオーク。それぞれの口角
からは滴(したた)る涎(よだれ)に赤い血の筋。
             

捕食者は・・・
常より獲物を逃さない。転がる骸(むくろ)に喰らい付き空腹らしき腹を満たす。哀れ。獣等の猟場から転がり出(い)でしはケンドルトンの喰い破れ千切れた無惨な骸(むくろ)だった。パルム(魔法学校)の幼き学徒ケンドルトン・・・傭兵カインは逆上する。
彼は声にならぬ言葉を幾度ともなく叫んだ!!!
『・・・アニジャァ・・・!』
彼は悟てっいた。

重剣ハルバードが空を切る。元来両手で支える大剣を軽々と片腕のみで支え持つ。しかし、カインの利き腕に鈍い電激が駆け巡る。傷口が圧に耐え兼ね開いたのだ。流れ湧き出る血飛沫(ちしぶき)。
利き腕の肩の辺りから二の腕にかけて、そして指先。
終(つい)ぞ・・・
その利き腕の痛みは一瞬遠のいていた。カインは激しい心臓の鼓動を感じた。
それは、オークの動きを征する。
オークの、小さく下段から突き上げる鋲(びょう)付きの棍棒を躱(かわ)し・・・
『今!!』瞬時の閃(ひらめ)き。
頭上に振り上げた大剣の反動を受けそれを力に転じる。
激しい怒号と肉と骨が軋(きし)む音。肉塊と化すオーク。肩から腰へ真っ二つ。かろうじて・・・尾骶(びてい)骨の辺りで大剣の切っ先は留まっていた。
辺りは正しく一瞬の赤い豪雨。
カインはオークの骸(むくろ)を見下ろし、利き腕の更なる激しい痛みに耐えていた。
そして、
アニジャは死んだ・・・カインは悟っていた。


元々が小振りのノーム族の司祭ノアではあるが、ただならぬ不穏な状況に及んで、更なる中腰でウォルトの背後へピタリと付いた。
「お判りかウォルト殿・・・奴らはただの野盗の類(たぐ)いではない。ワシらが関わるモノとはちと様子が違うようじゃ」
「おっしゃる通りです。司教さま」
ウォルトは天を仰ぎ瞼(まぶた)をきつく閉じ・・・静かに呟いた。
「疲労が過ぎているようですなァウォルト殿」
ノアは自身の羊皮の腰ベルトに下がった小袋から幾多の煎じの薬を取り出しウォルトに与え・・・
「これじゃ・・・飲みなされ。やがて生気が湧き立ち術も癒えるじゃろう」
「ありがたい司教さま。・・・いただきます」
「かなりな手練(だ)れがあの霧の最中に潜んでおるようじゃ。しかし、わしらはなァウォルト殿・・・
カインにザックそしてタリス。ただの雇われの傭兵崩れじゃが、いかなる時も仕事を全(まっと)うの心根じゃ・・・安心してくれい」


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