屍士 SHIKABANESHI (改:聖騎士と魔法使い及び、盗賊と踊らない踊り子のロールプレイングな旅)

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第1回 プロローグ 踊り子キキ。聖騎士の亡骸(なきがら)を求め彷徨 (さまよ)う (下)

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「夕食は?・・・ロック」
闇中の商い区画の馬屋である。その牧草地に建つ納屋の入り口。月明りを背に踊り子キキは佇(たたず)んでいた。
「おうッ。お帰りキキ・・・どうだったァ!?守備は万全かい?」
「そんな事より夕食だ。私はクタクタな上に空腹なンだ」
「おおゥ。俺も腹ペコだァ。待ちかねたぜ」
納屋の薄闇の中、か細いランタンの揺蕩(たゆた)う藁(わら)ぶきの上に・・・チョコンと一匹の豚。
「私の目に狂いが無いなら藁(わら)の上に偉そうに踏ん反り返ってるヤツは今夜の夕食だねェロック。」
「あああゥ。俺もそのつもりだったわなァ」
「ロック!!!私はお前に言ったはず・・・食事の準備は任せたってねェ」

『キキの奴ァやけに不機嫌だ。こりゃ面白くねェ事があったんだぜきっと・・・おまけに俺の嫌いな暗い面(つら)ァしてやがる。恐らく守備は最悪の八方塞がりって事だァ。これだけ手掛かりが得られねェんじゃあなァ・・・
諦めて引き上げるのもひとつの策だァ。ランスロットの奴ァ死んじまったんだぜ。今更って事さ・・・引き上げたほうがいいにきまってる。俺はそう願いてえ』面目なさげに首(こうべ)を垂れる従者。心の声が呟いた。
『俺はキキが心配なンだ。ただそれだけなンだ。だってよう・・・何だか嫌~な予感がするんだ』

「ああゥ。待ってくれキキ・・・俺が今から裏山ァひとっ走り行ってくる。木の実でも何でも取ってくらァ」
「私はそいつを所望だ。然(しか)も今すぐ・・・焼くなり煮るなりはお前に任せる」
「ちょいと待ってくれるかいキキ。こいつはァそのうなんだァ。ちょいと違うンだ」
「何の事だ!?」
その刹那(せつな)荷ほどきに勤(いそ)しみながらキキは気付いていた。
ロックとその一介の豚が会話を交わす。しかし、キキにはその会話が理解出来ない。
何故なら、いわゆる・・・
『獣の言葉』
ロックはただのオオカミではない。古(いにしえ)より続くライカン族の最たる高みの存在。
言わば、
大凡(おおよそ)生きとし生ける獣の言葉に精通していた。
「いやァなんだなァ。驚いたことにこいつァ中々の博識なンだ。そんでもって俺の心の有りどころってもんを俺に授けてくれた」
「何の事だ!?」
「だからァ・・・例えばそのゥ俺のキキに対する・・・」
「それがどうした。ロックは私に従ってのみその生きる意味をなす。あえて語る事か?分かり切った話しだ」
「あゥゥ。そうじゃねェキキ。その事とは・・・」

短い、そして静かな時が流れる。それは解(ほつ)れた糸を解(ほど)くかの如く。馬屋の中、か細いランタンの揺蕩(たゆた)う宵闇(よいやみ)。風の音と時折嘶(いなな)く馬の吐息。

「キキさんとやら・・・」
やおら豚が語りだす。キキにも理解の及ぶ人族の語りである。
「キキさん!」
キキは面食らっていた。一瞬だが言葉を失った。
咄嗟(とっさ)に、
「何者だ!!!」
やおら叫んで、キキは腰ベルトの短剣に手をかけた。
「どうか鎮(しず)まり下さい!!!キキさん・・・私は決して怪しい者ではありません」
「何故我らの言葉を操る」
「私の血筋はみなあなたの言葉を操れます・・・当たり前の事なのです。」
「信じ難い・・・そんな戯言(たわごと)を私が簡単に・・・」
「お待ち下さい。どうかキキさん。血筋についてはいずれ話しましょう。それより先程までロックさんよりあなたの話しを伺(うかが)いました・・・それであなたは大それた事を起こそうと考えておられる」
キキはロックを睨(にら)み付け、更には鞘(さや)から短剣を抜き放った。
「どうか私の話しをお聞き下さい。あなたの事情をくんだ上で・・・キキさんに早急にお伝えしたい事があるのです」
一介の豚はキキの目を真っ直ぐに見て、そして静かに呟いた。
「それはセーラム城の事・・・」




カーマイン卿。『パラディソ・オーエン』の領主にしてセーラム城の主。
『カーマイン家の領主としての指針。
崇高なる規律を重んじ、平安なる日々を恙(つつが)なく治め、おおよそ民への害を忌み嫌い穏やかなる日々を旨(むね)とした』
・・・連載第2回より抜粋。


            

霧深き闇中。セーラム城謁見の間。
「お呼びですか。兄様」
黒騎士カニンガム・・・
身の丈は人のおおよそ二回り半。全身を鉛色の分厚い甲冑で包み、黄金の大剣を携えていた。
一見その幼い面表は敵方の油断を招く。しかし、その鬼気として獰猛な目の奥。それは既に幾多の屍を超えてきた証。
「他愛ない事じゃ」
「どうされた?兄様・・・」
「最近我が領内で不穏な動きがある」
カーマイン卿は何やら楽しんでいる。壮麗なる貴族設(しつら)えの装いを流麗に翻(ひるがえ)し末弟のカニンガムに呟いた。
「少し遊んでまいれカニンガムよ・・・うるさいハエを払ってまいれ・・・」



                  
長閑(なだらか)な田園地帯。麗(うるわ)しき月に照らされた小路を、ひとつの巨大な影が月明りの中を揺蕩(たゆた)っていた。影が向かう先は踊り子の隠れ屋。
しかし、
とうに『隠れ屋』の体(てい)など語るに及ばず・・・
何故なら、影は迷うこと無く『隠れ屋』への道を真っ直ぐに歩んでいた。
その者。身の丈は人のおおよそ二回り半。その威容は巨人族と見紛(まご)う体躯。その表情には、威容に反して幼さが覗(うかが)える。
         
以外にも、鉛色の分厚い甲冑を纏(まと)う戦いとは無縁な・・・殺気を棄(す)てた麻布を纏(まと)った普段の装い。更には武器の携帯も覗(うかが)え無い。
                     


踊り子は・・・といえば、呆れた事に危険な立場にも関わらず、深い眠りの中にいた。
ここ数日の徒労の探索により、精も魂も尽き果てていた。
しかし守備は万端整っていた。思わぬ急報(豚の助言)により大きな進展を得た。
『オオカミ』たる従者は・・・近隣の港町『パラディソ・オーエン』のギルドへと赴(おもむ)いていた。傭兵の確保である。守りの要である戦士と経験豊富な盗賊を欲していた。彼が何故その任を得たのか・・・?
すなわち、
『獣』たる彼(か)の従者は鼻が利く。いわゆる真意を見抜ける鋭い嗅覚を備えていたのである。
その時、
豚は飛び起き激しく震え出していた。
「起きて下されキキさん」
豚はひどく焦っていた。短い豚足でキキの頬(ほほ)を激しく叩いた。
「起きて下され!!!」
「ムウ~ン!」
キキは呻(うめ)き声をあげ不機嫌な面持ちで豚を睨み付ける。
「大変です・・・キキさん!!!しっかりしてっ!」
やがて鈍い地鳴りは木戸の前でピタリと収まり・・・
その時、納屋の木戸が静かに開いた。
やおら、
巨体の黒い影が窮屈に低く身を屈(かが)め納屋の中へとかい潜(くぐ)って来た。
「ごめん」
 影が呟く。
キキは面食らい寝ぼけ眼(まなこ)で藁(わら)から飛び出した。
月の光を受け煌(きら)めく幾筋もの藁(わら)の乱舞。
「お前は・・・」
「僕はカニンガム」
「・・・カニンガム?」
「何とも・・・あなたは寝ておいでか・・・」
カニンガムは巨体を揺さぶり笑い出した。
「余裕ではないか・・・まったく」
尚(なお)も笑い続ける。
納屋の奥、繋がれの馬が暴れ唸り声を上げる。咄嗟(とっさ)の事に混乱のキキ。寝ぼけ眼(まなこ)が短剣の在り処をつかめない。
その時、踊り子はただ立ちはだかるのみな素手の出で立ちであった。
「まあ・・・落ち着くのだ。おんな・・・」
「お前。いったい何者?」
「僕はセーラム城の者さ」
その瞬間・・・
キキに絶望と苦渋の表情が浮かび上がる。
「安心しろ。僕はお前に助け舟を出しに来たのさ」
「何を言っている!?」
「僕は無益な殺生は性に会わない。本当の事さ・・・話しを聞き及んで僕なりに考えあぐねてた。僕はこれでも騎士の端くれ。おんなを斬る事は意思に反する。」
「お前をここで殺してやる」
「威勢が良いのは良いが・・・お嬢さん。僕はまったくヤル気がないんだ。素性も目的にも興味を覚えぬ。だから逃がしてやる」




その頃。
遠く離れた悠久の地帯。腐臭漂う森の奥。周囲を不浄の者が彷徨う地帯。
墓場であった。
無数の骸(むくろ)の小高い山。人や獣の死骸が積み重なる頂(いただ)きに・・・
やがて蠢(うごめ)く一体の骸(むくろ)があった。
天を仰(あお)ぎ・・・
今は無き魂の苦悶の叫び声を上げた。

                  

『ランスロット』である。




キキは短剣の在り処を探っていた。ただ、到底勝ち目のない事は悟ってはいたのだ。
「我が兄様はお前を仕留めろ等と言う。僕は戦さならともかく・・・こんな馬屋の隅で女を殺(あや)める事は・・・」

見紛う事はない。それは正しくキキの従者の一団が、なだらかな農地の斜面をを駆け降りてゆく。
俺ァ戻ってきたんだけどよォ!キキ!まったく!まったくよゥ!

やばいぜコノ気配!!!

ロックは納屋入口へと駆け出した。早鐘のように心臓が暴れだす。

『こりゃァ!!この気配はあいつら(バンパイア)にちげえねェ!!無事でいてくれキキ!!』
パラディソ・オーエンでの雇われ戦士と盗賊を従えロックは一気に木戸を蹴り開けた。

黒騎士カニンガムはロックに振り向きざま憎しみの雄叫(おたけ)びを上げていた。
「おおおゥ。ライカン(人狼)だとォ!!!!!!」
刹那!
カニンガムの、その口端は・・・みるみる耳元まで裂け始める。
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