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私とお母様を愛してくれないお父様なんかもう要らない!
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「ねぇお母様…お父様は今日も遅いのね。明日は私の5歳の誕生日よ…お父様は覚えているわよね?明日こそは早く帰ってきて下さるかしら?」
「っ、そうね…お父様はお仕事が忙しいのよ。リリカの誕生日にはきっと沢山のプレゼントを抱えて帰ってきて下さるわ!だからもう…お休みなさいな」
「はぁい。お休みなさいお母様…」
リリカはもぞもぞとベッドに潜り込み瞼を閉じるとすぐに寝息を立てて夢の中へと旅立った。彼女の母ブレンダは眠りについたリリカの頭を撫でながら溜息をついた。
「………こんなに可愛い娘を放ったらかしにしてあの人は何やってるのよ。あぁ…本当に口惜しい。あの卑しい母娘の所に入り浸って妻の私とリリカを蔑ろにしてっ……」
ブレンダの夫ケイパーは公爵家の一人娘である彼女の婿養子として迎えられた。結婚した当初はそれなりに夫婦仲も良かったけれど娘のリリカが産まれて数年経つとケイパーとブレンダはすれ違いの生活をおくるようになった。
ケイパーに女の影が見え隠れするようになって早々にブレンダは公爵家に仕える密偵に夫とその相手の調査をさせた。結果は真っ黒だった。
報告書にはケイパーの不貞の証拠がありありと記されていた。盗撮された写真には仲良さげに寄り添う夫と平民と思わしき三十路半ばくらいの女性とその娘と思われるリリカより少し年上の少女が写っていた。
他の写真にはその女性と手を繋ぐケイパーや少女を肩車して笑顔で見つめ合うケイパーと女性、一見すると仲睦まじい家族のような3人の姿が大量に撮られていた。
ケイパーはブレンダとリリカにこんなに楽しそうな笑顔を見せたことは一度も無く夜会以外で3人揃って何処かへ出掛けた事はほとんど無かった。
浮気相手の女は数年前に夫を病で亡くした未亡人だった。今は場末の酒場で働きながら10歳の病弱な娘を一人で育てているらしい。夫は公爵家の金庫に手を付け未亡人の生活の面倒を見ていた。
ほとほと夫に失望したブレンダは今すぐにでも離縁出来るように諸々書類を用意して夫の実家の伯爵家にも手紙をしたためていた。けれどどうしても最後の踏ん切りがつかないままモヤモヤとした気持ちのままで居た。
そして結局リリカの誕生日もケイパーは家に帰ってこなかった。プレゼントすら無かった。
……………
そんなある日ブレンダがリリカと街に出掛けた先でケイパーと例の母娘にバッタリ遭遇してしまった。真っ青な顔をして固まるケイパーを不思議そうに見上げる未亡人と少女。
「っ!!あっ……」
「ケイパー?顔色が悪いけどどうかしたの?」
「おじちゃん大丈夫?お腹痛いの?」
母娘と寄り添う父親を見つけたリリカはブレンダの静止を振り切りツカツカと3人の前に進み出た。そしてキッ!とケイパーを睨みつけておもむろに口を開いた。
「ねぇ…お父様?私、ずっと疑問に思っていたのだけれど私は本当にお父様の子供なの?もしかしてお父様ではない違う人の子供じゃないのかしら?」
ブレンダは慌てて駆け寄るとリリカの肩を両手で掴みドレスが汚れるのも気にせずその場にしゃがみ込んだ。そしてリリカと目線を合わせて泣きそうな顔で告げる。
「リリカ?貴女は正真正銘…私とお父様の間に産まれた子よ!」
「そ、そうだぞリリカ!お前のお父様はこの私だっ…お前は私の可愛い娘だよ!」
ブレンダに続けてケイパーもこの時ばかりは父親気取りでリリカの言葉を否定した。しかしリリカは冷たい目で彼を見つめながら言葉を続ける。
「じゃあどうしてお父様は私よりもその子の方を可愛がるの?私はお父様の実の子供なのに。いつも家に居ないしたまに顔を合わせても話もしてくれない。私を抱き締めて「愛してる」ってキスもしてくれない。私の誕生日だっていつもいつも忘れてるじゃない!」
「っ、リリカ……」
「ちょっとケイパー!どういう事なの!話が違うわ!貴方は独身だって言ってたじゃないの!私を騙してたの?!酷いわ!!!」
未亡人がギャーギャー大声で騒ぐとリリカは彼女を睨みつけて子供とは思えない口調で黙らせた。
「ちょっと貴女!私はいまお父様と大事な話をしているの。いい大人がみっともなく大声で喚かないで下さるかしら?お里が知れるわよ」
「なっ……」
リリカは未亡人から父親に視線を変えると彼と同じ緑色の瞳からポロポロ涙を溢してしゃくりあげながら言葉を続けた。
「…お父様はその子にはプレゼントを買ってあげたりお誕生日を祝ったり抱き締めてキスしたり、肩車をしていつも遊んであげてるんでしょ。お母様から聞いて私は全部知ってるのよ。本当の子供の私には何もしてくれなかった癖に…」
「……お父様は私よりもその子の方が大事なのね。お母様よりもその女の人を愛しているのね。よぉく分かったわ。もういい…もう要らない!私とお母様を愛してくれないお父様なんかもう要らないわ!」
「っ!!違う、違うんだリリカ!そうじゃない…」
リリカは泣きながらブレンダに抱き着いた。ブレンダは静かに涙を流しながらリリカを抱き上げて正面からケイパーを見据えた。
「……決定的な事をたった5歳のリリカに言わせてしまった私は母親失格ね。でも……これでやっと私も決心がついたわ。毎日毎日帰宅は遅いし一緒に住んでいても顔を合わせることも無ければ話をすることも無い。私の事を蔑ろにするのはまだ許せたわ。でも貴方は娘のリリカにまで無関心だった。こんなクズな父親でもリリカは貴方を必死に求めていたのよ!それなのに…赤の他人の子の誕生日は盛大にお祝いしたんですってね。それならその母娘と本当の家族になれば良いじゃない。私は貴方と離婚します。婿養子の貴方には速やかに屋敷から出ていって貰います。貴方がその母娘の為に持ち出した我が公爵家のお金は何があろうと絶対に返済して貰いますからね」
「っ!!!ブレンダ!私が間違っていた!待ってくれ!悪かったっ…、彼女とは別れるっ!これからは心を入れ替えて君とリリカのことを一番に考えて君達を大切にする!だから離婚はしないでくれ!」
「っ!ケイパー!聞いてた話と違うじゃないっ!婿養子ってどういう事?!私との結婚は?貴方は公爵家の当主じゃないの?!」
「やめろ離せ!!ブレンダお願いだっ、話を聞いてくれ!!」
「……今更だわ。何もかも…もう遅いのよ」
ブレンダは土下座して足元に縋り付くケイパーを振り払い馬車に乗り込み去っていった。その後ケイパーが息を切らせて公爵家に帰ってくると彼の荷物が門の前に置かれていた。いくら彼が呼びかけても門が開かれる事は無かった。
夫有責の離婚手続きは滞りなく進みブレンダはケイパーとの6年の結婚生活にようやくピリオドを打った。
ブレンダとリリカに捨てられたケイパーは実家に戻ったものの父親に伯爵家の面汚しと散々罵られ勘当された。更にはあんなに面倒を見てやった未亡人母娘も金の無い男は用無しと言わんばかりにケイパーの前から姿を消した。
「ごめんねリリカ…貴女にあんなつらい事を言わせてしまってお母様は情けないわ。それと貴女からお父様を奪ってしまってごめんなさい」
「謝らないでお母様!私は愛してくれるお母様が居ればそれで良いのよ!他人の子供を可愛がるお父様なんか居る意味ないもの。それにお母様はとっても綺麗で優しいからまたすぐに新しいお父様が見つかるわよ!」
リリカは完全にケイパーを見限り初めから居なかったものと割り切った。そしてリリカの言った通りにブレンダには再婚の打診が次々と舞い込んだ。ブレンダは程なくして同じ公爵家の二男と再婚してリリカの義兄妹となる双子の男女を産んだ。義父はリリカと実子を差別せずどちらにも平等に愛情を注いだ。
それから十数年の月日が経ちリリカはこの国の第一王子と婚約して今日結婚式を挙げた。リリカは義父とバージンロードを歩きながら「私の本当の父親はこの世でお義父様ただ一人だけですわ」と呟いた。義父は目に涙を浮かべてリリカに微笑んだ。
「っ、そうね…お父様はお仕事が忙しいのよ。リリカの誕生日にはきっと沢山のプレゼントを抱えて帰ってきて下さるわ!だからもう…お休みなさいな」
「はぁい。お休みなさいお母様…」
リリカはもぞもぞとベッドに潜り込み瞼を閉じるとすぐに寝息を立てて夢の中へと旅立った。彼女の母ブレンダは眠りについたリリカの頭を撫でながら溜息をついた。
「………こんなに可愛い娘を放ったらかしにしてあの人は何やってるのよ。あぁ…本当に口惜しい。あの卑しい母娘の所に入り浸って妻の私とリリカを蔑ろにしてっ……」
ブレンダの夫ケイパーは公爵家の一人娘である彼女の婿養子として迎えられた。結婚した当初はそれなりに夫婦仲も良かったけれど娘のリリカが産まれて数年経つとケイパーとブレンダはすれ違いの生活をおくるようになった。
ケイパーに女の影が見え隠れするようになって早々にブレンダは公爵家に仕える密偵に夫とその相手の調査をさせた。結果は真っ黒だった。
報告書にはケイパーの不貞の証拠がありありと記されていた。盗撮された写真には仲良さげに寄り添う夫と平民と思わしき三十路半ばくらいの女性とその娘と思われるリリカより少し年上の少女が写っていた。
他の写真にはその女性と手を繋ぐケイパーや少女を肩車して笑顔で見つめ合うケイパーと女性、一見すると仲睦まじい家族のような3人の姿が大量に撮られていた。
ケイパーはブレンダとリリカにこんなに楽しそうな笑顔を見せたことは一度も無く夜会以外で3人揃って何処かへ出掛けた事はほとんど無かった。
浮気相手の女は数年前に夫を病で亡くした未亡人だった。今は場末の酒場で働きながら10歳の病弱な娘を一人で育てているらしい。夫は公爵家の金庫に手を付け未亡人の生活の面倒を見ていた。
ほとほと夫に失望したブレンダは今すぐにでも離縁出来るように諸々書類を用意して夫の実家の伯爵家にも手紙をしたためていた。けれどどうしても最後の踏ん切りがつかないままモヤモヤとした気持ちのままで居た。
そして結局リリカの誕生日もケイパーは家に帰ってこなかった。プレゼントすら無かった。
……………
そんなある日ブレンダがリリカと街に出掛けた先でケイパーと例の母娘にバッタリ遭遇してしまった。真っ青な顔をして固まるケイパーを不思議そうに見上げる未亡人と少女。
「っ!!あっ……」
「ケイパー?顔色が悪いけどどうかしたの?」
「おじちゃん大丈夫?お腹痛いの?」
母娘と寄り添う父親を見つけたリリカはブレンダの静止を振り切りツカツカと3人の前に進み出た。そしてキッ!とケイパーを睨みつけておもむろに口を開いた。
「ねぇ…お父様?私、ずっと疑問に思っていたのだけれど私は本当にお父様の子供なの?もしかしてお父様ではない違う人の子供じゃないのかしら?」
ブレンダは慌てて駆け寄るとリリカの肩を両手で掴みドレスが汚れるのも気にせずその場にしゃがみ込んだ。そしてリリカと目線を合わせて泣きそうな顔で告げる。
「リリカ?貴女は正真正銘…私とお父様の間に産まれた子よ!」
「そ、そうだぞリリカ!お前のお父様はこの私だっ…お前は私の可愛い娘だよ!」
ブレンダに続けてケイパーもこの時ばかりは父親気取りでリリカの言葉を否定した。しかしリリカは冷たい目で彼を見つめながら言葉を続ける。
「じゃあどうしてお父様は私よりもその子の方を可愛がるの?私はお父様の実の子供なのに。いつも家に居ないしたまに顔を合わせても話もしてくれない。私を抱き締めて「愛してる」ってキスもしてくれない。私の誕生日だっていつもいつも忘れてるじゃない!」
「っ、リリカ……」
「ちょっとケイパー!どういう事なの!話が違うわ!貴方は独身だって言ってたじゃないの!私を騙してたの?!酷いわ!!!」
未亡人がギャーギャー大声で騒ぐとリリカは彼女を睨みつけて子供とは思えない口調で黙らせた。
「ちょっと貴女!私はいまお父様と大事な話をしているの。いい大人がみっともなく大声で喚かないで下さるかしら?お里が知れるわよ」
「なっ……」
リリカは未亡人から父親に視線を変えると彼と同じ緑色の瞳からポロポロ涙を溢してしゃくりあげながら言葉を続けた。
「…お父様はその子にはプレゼントを買ってあげたりお誕生日を祝ったり抱き締めてキスしたり、肩車をしていつも遊んであげてるんでしょ。お母様から聞いて私は全部知ってるのよ。本当の子供の私には何もしてくれなかった癖に…」
「……お父様は私よりもその子の方が大事なのね。お母様よりもその女の人を愛しているのね。よぉく分かったわ。もういい…もう要らない!私とお母様を愛してくれないお父様なんかもう要らないわ!」
「っ!!違う、違うんだリリカ!そうじゃない…」
リリカは泣きながらブレンダに抱き着いた。ブレンダは静かに涙を流しながらリリカを抱き上げて正面からケイパーを見据えた。
「……決定的な事をたった5歳のリリカに言わせてしまった私は母親失格ね。でも……これでやっと私も決心がついたわ。毎日毎日帰宅は遅いし一緒に住んでいても顔を合わせることも無ければ話をすることも無い。私の事を蔑ろにするのはまだ許せたわ。でも貴方は娘のリリカにまで無関心だった。こんなクズな父親でもリリカは貴方を必死に求めていたのよ!それなのに…赤の他人の子の誕生日は盛大にお祝いしたんですってね。それならその母娘と本当の家族になれば良いじゃない。私は貴方と離婚します。婿養子の貴方には速やかに屋敷から出ていって貰います。貴方がその母娘の為に持ち出した我が公爵家のお金は何があろうと絶対に返済して貰いますからね」
「っ!!!ブレンダ!私が間違っていた!待ってくれ!悪かったっ…、彼女とは別れるっ!これからは心を入れ替えて君とリリカのことを一番に考えて君達を大切にする!だから離婚はしないでくれ!」
「っ!ケイパー!聞いてた話と違うじゃないっ!婿養子ってどういう事?!私との結婚は?貴方は公爵家の当主じゃないの?!」
「やめろ離せ!!ブレンダお願いだっ、話を聞いてくれ!!」
「……今更だわ。何もかも…もう遅いのよ」
ブレンダは土下座して足元に縋り付くケイパーを振り払い馬車に乗り込み去っていった。その後ケイパーが息を切らせて公爵家に帰ってくると彼の荷物が門の前に置かれていた。いくら彼が呼びかけても門が開かれる事は無かった。
夫有責の離婚手続きは滞りなく進みブレンダはケイパーとの6年の結婚生活にようやくピリオドを打った。
ブレンダとリリカに捨てられたケイパーは実家に戻ったものの父親に伯爵家の面汚しと散々罵られ勘当された。更にはあんなに面倒を見てやった未亡人母娘も金の無い男は用無しと言わんばかりにケイパーの前から姿を消した。
「ごめんねリリカ…貴女にあんなつらい事を言わせてしまってお母様は情けないわ。それと貴女からお父様を奪ってしまってごめんなさい」
「謝らないでお母様!私は愛してくれるお母様が居ればそれで良いのよ!他人の子供を可愛がるお父様なんか居る意味ないもの。それにお母様はとっても綺麗で優しいからまたすぐに新しいお父様が見つかるわよ!」
リリカは完全にケイパーを見限り初めから居なかったものと割り切った。そしてリリカの言った通りにブレンダには再婚の打診が次々と舞い込んだ。ブレンダは程なくして同じ公爵家の二男と再婚してリリカの義兄妹となる双子の男女を産んだ。義父はリリカと実子を差別せずどちらにも平等に愛情を注いだ。
それから十数年の月日が経ちリリカはこの国の第一王子と婚約して今日結婚式を挙げた。リリカは義父とバージンロードを歩きながら「私の本当の父親はこの世でお義父様ただ一人だけですわ」と呟いた。義父は目に涙を浮かべてリリカに微笑んだ。
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