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一章
虚空の毒
しおりを挟む──朧気な視界に、とぐろを巻く白い色がぼやけて映り込む。
嗅覚を取り戻した鼻を擽るきつい匂いに、背中を接ぐ異物感。少し動くと項の辺りを細い突起のようなものが擽った。そこで、ただのシーツで寝ていなかった事がはっきりと分かる。
異物感の正体と理由は、横に目を寄越した瞬間見えた物で思い出した。
それは、立派な花弁を捻じ曲げて咲かせた、白い百合の花。
思い出したことで、急に起き上がる気力が湧かなくなり、深いため息を一つ、部屋に響かせた。
「・・・・・・また、失敗した」
もう、何度失敗したのだろうか。
世界の終わりの予感まで感じそうなくらい、気分が落ちぶれる。
ぽつりと呟き、再び現実を歩いて行かなければならない義務の大岩を背負う事になった。
うだうだしてから、上半身だけ起き上がらせる。
そして下を向いて、シーツを覆い尽くす百合を小さく睨みかます。
この百合は俺の望みを叶える為の方法の一部だった。百合は毒素を持つと言われていると聞いていた筈なのに、こんなにも簡単に潰されてしまうとは酷な話だ。意識を失うとか、三途の川が見えるとか、多少の手応えを感じても良いというのに。
ネットでもそういう方法がある、と言っていたから試す為にこうして昨日花屋でわざわざ買ってきたのだ。
しかも花は買うと高い。そういう事もあって、自分にはかなり損失をしてしまったようだ。
ぶつぶつ不満を言いながら花を片付け始める。片手から胸が花で満たされていくと、今後のこれらをどうしようか考えた。
捨てるには勿体無いし、捨てるにしてもこの量は抵抗がある。
こんな最悪な気分で嗅ぐ花の匂いの不快さときたら。
再びため息を吐き、集めた百合を机の上にとりあえず置いてみる。どうするかは二の次に、カーテンをざっと開ける。途端、眩しい朝日が部屋の一部を明るく広めた。机の上の百合も光の粒が舞う中で、その純白を美しく見立てた。
カーテンはきちんと開けなさいと、じいちゃんに何度も言い聞かされていた。開けて陽光を浴びれば、健康的に過ごせるから、だって。
俺は真逆な事を望んでいたので、本来は開けるのが嫌だし、面倒くさくて適わないのだが、開けていないと時々文句を言われるので、やむを得ない。
じいちゃんはまだ七十五歳と、そこまで歳食ってはいないのだが、日常の何気ない事のこだわりに古くささがあった。例えば、朝ごはんのメニューは毎朝味噌汁じゃないといけない。隣がパンでもご飯でも関係ない。そこに、お気に入りメーカーの白菜の漬物を付けるのが定番だった。
それから好きな番組も、大抵いつ放送してたのか分からない時代劇やいつのものか分からない演歌のオンパレードなのど自慢とか。
そういうの以外だと、別に洋風でも何でも良いそうだ。
そんなじいちゃんはだらしない孫を起こす為に、これくらいの時間帯になると必ず起こしにやって来る。毎朝六時半過ぎ、床下からぎしぎしと木の軋む音がする。
ガタッと何かにぶつかる音を立てながら、ドアが開かれた。
「ほれ春哉、そろそろ起きい・・・お、起きとるみたいだな」
白髪の混ざった薄毛が寝癖のままでいるじいちゃんが、俺の姿をまじまじ見て言った。
そうだよ、と俺が相槌を打つと、次に机の方に視線を傾けたので、一瞬どキリとした。
「何やね、その百合は。これから告白か?」
肩を撫で下ろしながら、俺はその冗談混じりの質問に否定を入れた。
「んなわけないだろ。昨日、花屋を通ったら、処分するから持って行ってってくれたんだよ。どうしようかって思ってて」
当然ながら嘘だ。もしそうなら良かったのに。
「んならそれ、わしが飾るぞ。丁度何か景気づけが欲しかった所だったんだ」
「いいけど、こんなにあるけど、全部飾るの」
いやぁ、とだけ最初に応えて、そそくさと百合をかき集める。じいちゃんが近くを通った刹那に漂ったきつい臭気が更なる不快を呼び寄せた。思わず素早く枕を取ってばふっと顔を埋めてしまう。鼻に引っ付いた匂いを移そうと、グリグリ顔面を押し付ける。
「これだけあるなら、あちこちに飾れるな」
マジか、と今更後悔する。
「んあ?なんで顔埋めてんだ」
「臭いがやだ」
こうしてじいちゃんが花を携えて出ていくのと同時、俺も朝の支度に取り掛かる。ほんの少し換気の為に窓を開けておいて、着替えは後に一階に降りる。
軟体動物にでもなった気分でふらふら歩いて、洗面所に着いてから、ふと壁に埋め込まれた鏡に目が止まった。
小さいゴミや水垢の溜まった鏡に映るのは、癖毛をあちこちに飛ばして、死んだ魚の目をして此方を見つめる自分の姿だった。
乱れた髪を横にあったクシでといてみても、大して変わらない。整えても整えなくても、結局だらしないのが己だということに他証明出来ない。
俺は当然ながら、自分の顔が憎たらしくて仕方ないと思っている。この希望も何も無い、情けない顔。その上に自負しているこの卑屈な性格が、更にそれを泥で醜く飾り立てている。こんなものが人間であって良いものかと、心底嫌気を覚える。
この顔は長年の経験から造り上げられた、皮肉である意味での芸術作品だ。
報われない哀れなろくでもない人生経験。それがよく物語った、最高で最低な作品だろう。
あー、やだやだ。
今すぐ呪い殺してやりたい。
さっさと顔を洗って洗面所を後にする。廊下を渡った先から、味噌汁の香りがほんわりと立ち上ってきた。それによって知らしめられる新たな目下の存在を感じるのがこの上なく憂鬱だった。
リビングに着いて、テレビをつける。朝っぱらから資金を稼ぐ為に元気よく喋り続けるアナウンサーの声を耳に通しながら、席に着く。目の前の炊きたて白米と濃い色味の味噌汁が湯気を立ち上らせていた。それに添えられたアンバランスな洋食のおかず。
白い皿の上に、ウインナーとスクランブルエッグ。
俺が朝食に手を付け始めると、自分の分のご飯を置いてからじいちゃんも席に着いた。
席は俺とじいちゃん、そして無人の椅子の三脚だけ。
毎日寂しく、ここで二人、隠居の真似事をして朝と夜の食卓を共にしている。
ばあちゃんは七十二という歳、若くして数年前にがんで他界してしまい、両親という概念も皆無であったので、こうやってやり過ごすことも何ら容易い事だった。
両親に関しての情報は何もかも記憶に無い。物心ついた頃から息子という立場ではなく、孫としての立場で祖父母たちを身内に付けてきた俺にとって、彼らの作り出した今に至るまでの経緯だけを把握して、残った存在の重要さは気にもならなかった。
記憶に残らない限りの事は所詮そんなものの域だ。
ただ、自分をつくづく気の毒な奴だとは思っているけれども。
今朝のスクランブルエッグは少し塩気が強いように舌が捉えたようだ。前々からそこまで甘いとも感じていなかったけれども、今日は特別、焦燥に数分浸して作ったような味がした。
じいちゃんは基本的な料理はそつなくこなすのだが、卵料理は僅かに苦手意識があるようだ。味加減がいまいち決まらず、これ以外の卵料理も日によってばらつきがある。
作ってもらっている身だから文句など言えたものではないのだから、出来れば甘味を安定させてほしいと直接頼むのではなく、ひっそりと願っているのだ。
基本的に、俺はじいちゃんにあれこれ口出しすることはない。身内とはいえ祖父と孫。その関係性の底には、繋げられない蟠りが障壁を貼り付けている。
じいちゃんは人間性に長けた良人だ。しかし、それに甘えて好き放題を出来る程、人を何でもかんでもと受け入れようとはしない慎重な面がある。だからこそ、身内とはいえ一定の距離を保っていないといけない。
食べ切った食器を流し台に移してから、重たい足取りで支度を始める。
ズボラな俺はいつも身支度を朝に済ます。帰ってからは基本、パソコンやゲーム、それとある事について調べたりしていて、カバンや制服には見向きもしない。宿題に関しては学校で済ますから特に問題も無く、無駄に向こうの事を考えていたくない一心が身体に影響して、自然にプライベートの物体にしか目が通そうとしないのだ。
けど、また朝が来ると身体はすっと治まって、代わりにぞわぁと胸にまで迫る憂鬱感に襲われる。
しかめっ面で制服に着替えて、下を向いた先に見える緑のネクタイを睨みながら、攻撃するようにため息を吐いてみせた。
鞄を肩に下げ、一階のリビングのこたつ机に置かれた弁当の包みと水筒を隙間に押し込んで、玄関へとのろのろ歩き出す。
すっかり履き慣れたスニーカーの踵部分が、潰されたように跡が付いて汚れきっていた。
そういえば、これを履いて学校に行くのも一年を過ぎている。高校のデビュー時に買って貰った白いスニーカーで、今の今まで買い換えるなんて考えてもいなかった。
もうそろそろ変えなければいけないだろうか。そう考えながら、ゆったりフィットする足の感覚に安心感を覚える。
うーん、・・・まだいいか。
普通科の学校へと進学して高校二年と六ヶ月が過ぎ、相変わらず望みを果たせないままでいる意気地無し、それが俺だった。
何度やっても失敗して、失敗が繰り返されて、それでもやっぱり成功の道が開かない。
だからまだ、こうやって嫌な生活を強いられている。
百合の花にまんまとやられていたら、どんなに良かっただろうに。
はっきり自分に言い聞かせる。
俺は、今も昔も凄く、死にたがってる。
世間で言う、自殺志願者だ。
✣✣✣✣✣✣✣
六月だというのに、今日という今日まであまり湿り気を感じない。初夏の真っ只中、本格的な夏の身支度の段階を踏んでいる筈なのに、今年は早くからからりとした暑さを噛み締めている。
湿気の多いむさ苦しい暑さからもかなり精神的にダメージを喰らうのだが、ジャストな暑さも中々大変な目を覚えさせられる。
それが昼からならまだ許せるのだが、不幸なことに朝からほぼ同じ気温が続いているのだ。
背中から出た汗がするっと勢いをつけて滑っていく。ハンカチで顔を拭おうとすると、首元にまで汗が溜まっていることに気づいた。
あぁ、暑いなぁ。
そう思うと、階段を登る足音もやけに近くから聞こえてくるようで、途端にうざったくなった。
教室の手前まで着いてから、大袈裟な欠伸が浮いて出てきた。その時ふと、今朝の百合の香りの存在がまだ鼻をつついているような気がして、不安になった。髪や背中、主に後ろ半分のどこかしらは匂いに侵されている箇所があると考えるけれど、消臭スプレーでも持っていなければどうしようもない。それに、特別それを人目から避ける必要も傍から無いわけで。
俺という存在を何かしらの形で認識する奴など、この学校ではほとんどいない。彼らは彼らが独自に作り上げた正義と快楽の世界を生きていて、本物の現実には無頓着で、無責任だ。要は盲目なのだ。
しかし、それが社会であり、個人から見ても正しい行いだと思う。
人間は必要な物しか受け入れない。
つまり、いらない物はどれだけ粗末に扱っても良いということ。例えそれが命を持っていたとしても。
そして俺がその、いらない物の一つだった。
いずれ捨てられないとならない、等身大の粗大ゴミ。
俺は人間的にも社会的にも受け入れられることのない条件を全て持っているのだ。
それならば、こっちだって願い下げだ。
捨てられる前に自分で自分を捨ててやる。死なせてやる。
だけど、今の今までその手応えでさえも一度も感じることはなかった。
何食わぬ顔で教室に入っても、誰一人として俺を見ることはない。しかし、ごく稀に此方を見る姿も見られるが、大抵その人は何故学校に来たと不満を言わんばかりに冷たく白けた目を向けてくるのだった。
席に座り、彼らのけたたましいざわつきを掻き消す為にイヤホンを耳に差し込んでから、スマホのソーシャルゲームを適当につつき回して遊んでホームルームの開始を待った。
誰とも話さず、誰からも相手にされない。
傍観者から見たそれは孤独と表される。俺のような人間を呼ぶにはその一言に尽きるだろう。文字通り、俺の心にそのナイフが深くまで突き刺さって、気がつけばそれがどろどろに溶けて外見にまで液が溢れ出している。それは今に始まったことでは事足りない。その結果がこの見た目を作り出す際の一部の過程だろう。表情は独りでいる時でさえ出ない。それどころか、生きている感情はごく僅かで、後残り全ては先に死んでしまっている状態だった。
生きている感情は、無、怒り、焦り、驚き、困り。
それ以外はもう、何も出なかった。
昔は確かにあった。全てがあった。
しかし、元からあったわけでもない感情まで葬り捨てることになった。
過去の彼らに会うことが無くなっても、一つでも生き返ることはなく、今もひたすら無を貫く毎日。
『不気味だ。』
自分でそう誇りに思える程はっきりと言えることだった。
俺が死を求め始めたのはもう随分と昔の話。
今の頃がまだマシだと思える程酷い義務教育時代だった。何があったなんて思い出したくもない。ただ、あえて言うとしたならば、所謂言葉にも言い表せないいじめが九年ものの間続いていたとでも言うとしよう。過去にどうにも粘って生きていた感情が、何度か希望の期待を試みていたようだったが、それは最初だけ。自らの死を願い始め、ほとんどの感情が失われた後、当然、人間にあるポジティブ的思考は砂と化した。高校どころか中学の時点で現在の俺の形は出来上がってしまっていた。
友達もいないといったなら、当たり前に人と話す機会も少ない。自ら作る気力も無くて、部活にも入ったこともなかった。ずっと帰宅部を飾って、暗い自室だけを自分の世界にして、余った長い時間で、生きることを逆さ吊りにしようと必死になっている。
次の曲に変わる瞬間、少しだけ間が空いた時、ふと近くのグループから何かの話し声が聞こえた。
クラスには俺以外、独りでいる奴はいない。皆、基本的に誰かと繋がっていて、飽かず四六時中ベラベラ話をしているようだった。スマホの様々な音が飛び交い、隅の方では狭い教室なのに二人でスマホ相手に踊りながらはしゃいでいる奴もいた。
ここにはもう敵はいない。しかし、味方もいないのだ。
思う存分、自分を殺しにかけることが出来る。
スマホの検索履歴を見たら分かる、自分の異常さ。
『簡単に死ぬ方法』
『自殺の方法 一覧』 他。
絶対に人には見せられないだろうなぁ。
それを何となしに開こうとした瞬間、予鈴が鳴って慌てて閉じた。音楽を止めてイヤホンを取って電源を切る。
他の奴らもそれぞれにスマホをしまっていくが、女子の一部はまだ何かのアイドルの曲を流してその世界に夢中になっているようだった。
やがてチャイムが鳴り響き、ようやく全員がスマホをどこかにしまったのと同時に担任が入ってきた。
若い男の先生だ。いつも洒落た格好を心構える、今だけの若さを堂々と主張する奴。今日は青いストラップ柄のシャツで、余程暑いのだろう既に薄手の半袖だった。
先生が何事かを言って、いつもの如く室長が号令をかける。
今年からの室長は眼鏡をかけ、見るからに真面目そうな奴だった。名前は忘れてしまったが、どうやら人情に厚いらしく、度々彼が皆の手助けをしている所や友達同士でわいわい会話する姿を見られる。とはいえ、彼自身が嬉々としている様子はあまり見受けられないけれども。
こうして学校での時間がスタートする。朝の日射しと共に、死んだ目でそれを迎えた。
✣✣✣✣✣✣
学校生活において、授業を受講する以外のぽっかり空いた隙間というのは、子供時代の人生で一番無駄な時間だ。
そう言うと教育的な意味でシビアな人間が己を正当化させたいがために弁論する言葉だろうと思われるかもしれない。だけど、俺にはそんな風に感じられるのだ。
授業中は各々の方法で勉強する。隣の奴と喋りながらノートをとるだけや、こっそりスマホをいじるばかりでろくに話を聞きやしなかったり。しかし、その間の空間は、意外にも学校を思わせる場ではない。何せ黒板から聞こえてくるうだうだした話を聞いて、ノートをとるだけ。彼らも机に隔てを作らされ、この時だけは話をしながらも孤立した状態になる。
だが、それ以外の彼らは自由の身だ。
皆、事ある毎に何かの話題でそこら中を埋めようと仕掛けてくる。
元から俺は人混みと騒音が苦手で、孤独感はそっちのけに、その不快感がどうしてもストレスとして圧されてしまうのだ。
原因となるそれらは、俺にとっては無駄な時間でも、有効に隙間なく使う為にどうしても必要なものらしい。
それを嫌でも免除されている俺にはただ、苦行と言わざるを得なかった。
本当なら今日もいつも通りに放課後は即帰るつもりだった。放課後は特に喧しくなる時間だったし、何より必要以上に学校にいたくなかったのだ。
しかし、今日のいつかの時間に、担任から集めた提出物を職員室に持ってくるよう命じられてしまった。不幸にも今日は集配係が休んでいた上、その時たまたま担任の近くにいてしまっていたのだ。
早く終わらせて帰ろうと思いながら、渋々に提出物を抱えて急ぎ足で職員室に持っていく。声が聞こえていないせいで気づかれるのが遅く、ようやく出せてほっと肩を撫で下ろしたのだが、ついでに持って来た鞄にもう一つある筈の弁当箱の袋が無いことに気づいた。
(あぁ、そうだ。今日はあそこにかけたまんまだったんだ・・・)
余計な手間を作ってしまった自分を恨み、重だるい足取りで教室に戻る。
教室にはまだ幾つかグループが残っていて、メイクをし合ったり、何かの動画を見て耳障りな奇声を発していたり、その様は恰も動物園のままだった。
扉の前に固まった男子グループの近くを横切って、早急に机のフックから袋を取って帰ろうとした。
その時だった。
「なぁ、ちょっと良いかな」
自分に言われてないと思いつつも振り返ると、身体がざわめき立った。目の前に同級生の一人がいたのだ。
「・・・何?」
何の言いがかりをつけられるのだろうと気を重くしていると、次に彼は後ろを振り向き、あのグループの全員を呼び寄せた。どうやらこの人はあの中の一員らしい。ニコニコと気味悪く笑って、全員で俺を捉えた。
何かされるのか、と緊張感で自然と身体が硬直していく。行くんだけど、怖いの平気なら、ついてきてくれない?」
肝試し?この季節に?
そう聞き返したい気持ちがあったが、彼らと話した事はきっとこれが初めてだっただろうし、何よりコミュニケーション能力の欠如が丸見えで、そう易々と思いつきの一言を返すことは出来なかった。
ホラーものなどには特に抵抗はない。本物の廃校にも行こうと思えば行けるだろうし。
ただ、引き受けるかどうかはこれからの自分の思考と勇気次第だ。「別に・・・怖いのは平気だけど、」
「あ、ほんと?なら頼む!相生がどうしてもこの人数じゃ不安だってしつこくてさ」
なるほど。つまり、自分たちのくだらない遊びの厄介事を解決する為だけに、巻き込んで犠牲にしても良いような奴として俺に声をかけたわけか。
彼らの意向などお見通しだ。しかし、すぐに断る口が開かず、冷や汗をかきながらずるずると考え込んだ。
あまり行きたくない。ここで断ればその面倒事には関わらなくてもいいんだ。いやだと彼らにきっぱりと言う自分を想像する。
だが、いくら想像したとしてもやはり甘くはない。
答えるだけの行動なのに既に疲労が溜まっているような感覚だ。
早く何か言わないと、視線が気になってどうしようもなくなってしまいそうだ。
「・・・・・・分かったよ、行く」
自分自身を恨みながら、ガチガチに角張った声で応じてしまった。
彼は計画の順調さに、さも嬉しそうにパッと目を輝かせてみせた。
「悪いな。サンキュ!っことで、土曜の十時までに、○○駅の前に集合な。よろしくっ」
そう告げた彼は俺の肩を強く叩き、仲間と共に元の位置に戻っていった。
間もなくして、再びグループで何かの話題についてで盛り上がり始める彼らを見ていると、ついさっきの出来事は一瞬の夢だったのかと錯覚してしまう。
しかし、言われてしまって、それに応答してしまったのは真新しい記憶で、他に無い程潔く憂鬱な現実なのである。
「はぁ・・・」
とぼとぼと教室を出てから、深く息を吐き出す。
その後思いついたようにこみ上がってきた嫌悪感に、たまらず腕を鷲掴み、壊してやる想いで締め付けた。
こんなのアホとしか言い様がない。何故やりたくもない事に、一言でも謝絶や文句を言ってやれないのだ?
貧弱。臆病者。なのに、未だに死ねていないだなんて、まるでおかしいではないか。
これは後悔や嫌悪を引き起こす度に自分を罵る、単なる癖だ。
その日と金曜はひたすら落ち着かない時間が続いた。当日の事を予想していると、それによって逐一生まれる嫌な気分に苛まれてろくに寝られたものではなかった。
どうか早く終わってくれと祈りながら、俺は今後待ち受けている運命の獣道の訪れを、この侵食の進んだ不安と共に迎える準備を始めたのだ。
都合の悪い予定がある期間の時の流れは残酷なまでに急速だ。その期間が短いと、特に。
頼みを承諾した一昨日の話の流れがくっきりと脳内で再現出来る。でも、脳内の彼らの企てられた笑みは実物よりもおどろおどろしく歪んでいるようだった。妄想だというのに、身体が勝手に震えてくる。
皮肉に新鮮な夜の汽車を降りて、集合場所だという駅の改札を通ると、入口前の自販機に例の奴らが集まっている姿をすぐに発見した。
直に声を掛けられないので、気づかれるようにわざとらしく床を強く踏み鳴らすと、手前にいた一人が此方を見てから、最初に話しかけてきたあの彼に知らせた。どうやら彼がリーダーらしい。よそよそしくも明るく手を振って俺を迎えた。
「やぁ、どーも。来てくれてありがとう」「あっ、うん・・・」
その後リーダーはポケットからスマホを取り出して、何度かスワイプを繰り返した。そうして突然画面から外れて仲間に振り向くと、こう切り出した。
「この駅の先にあるんだよな、あそこ。とりあえず地図出したし、行くか」
仲間が口々に応答し、一斉に外へと向かって歩き出した。彼らの後を急いで追いかける。
空は黒雲に覆われて、轟々と音を立てて唸っていた。
ついて行くままに辿り着いた場所は、ぽつぽつと並ぶ住宅のある麓を分け入った山の中の中学校だった。一昨日言っていた通り、いかにも廃校の装いらしく校門が錆びれた鎖で閉場され、その先で置き去りにされた校舎もグラウンドもボロボロに廃れてしまっているようだった。もう長年誰も足を踏み入れてはいないのだろうけれども、泥棒でも誰でも楽々出入り出来そうな無防備さだった。
「この街の近くに○○中学校ってあるだろ。ここは旧校舎らしくてさ、移動したみたいなんだとよ」
侵入する前に、リーダーが全員にそう言った。他の仲間は皆、同じようなことを呟いて頷いていた。
楽々と中へと入り込んだ後、リーダーがスマホを出して突然声を張り上げた。
「はいっ、どーもみなさーん!暑いですね~。今回は友達と一緒にね、まだちょっと早いけど肝試しに廃校に来てまーす!ここはどうやら────」
いきなり何を言い出したのかと思って戸惑うと、他の仲間もスマホに向かって何事か言い出すので、自分の中で勝手に状況を考察した。
恐らく彼らは動画サイトで動画を出しているのだろう。そういう類があちこちで流行っているから、同年代の奴もやっているのかなぁとは思っていたが、まさかこんな目の前にその一部が現存していたとは驚きだ。
彼らのペースに既についていけていない俺はどうすれば良いのか分からずにとりあえず待っていると、不意に背中に人の気配を感じて、盗み目で伝っていくと仲間の一人のクラスメイトが俺の背後で不安げに眉を震わせていた。
「ねぇ、やっぱり怖いから止めようよ~・・・」
そう猫なで声で仲間に訴えるが、撮影に夢中で誰も聞き耳を持とうとしない。
だからと言って、俺に何かを持ちかけるということはなかった。ただ子供のように俺の服の一部分をしっかり握り締めて、仲間が1秒でも早く現実に引き戻ってくるのを待っているようだった。
恐らく、俺はこの子の世話要員としても呼ばれたのだろう。じゃないとああやって楽しくなるには厄介者だろうから。
彼らが視聴者にここについて説明した事を要約すると、この学校には様々な怨念を持った霊達があちこちに潜んでいるらしい。何らかの原因で自殺した生徒の霊が、人を襲って呪うなんていう噂もあるそうだ。当時には真新しいだろうコンクリート製の典型的な型をした校舎だけど、その幽霊の呪いであっという間にここまで仕立て上げられたとか。そのせいで廃校になったのか、前なのかは知らない。
「・・・さてねっ、早速入っていこうと思いますんで、そこまでカットでーす」
そこで彼らは一度スマホから顔を離した。
「よぅし、城島。入る所はどこだ」
「ん、じゃあついてきて」
名前を呼ばれた一人が一同を引き連れて向かったのは、校舎の裏側だった。黒ずんだカビと自由気ままに生い茂った雑草が地と駐輪場とを覆い尽くし、ホコリかぶった臭いを立ちこませている。正面からは見えなかったが、この学校は別棟があるようだ。それと本館を繋ぐ渡り廊下の屋根が今にも崩れそうだ。一体いつの時代の学校なのだろう。廃校として長く時間を経たら、ここまで古く廃れてしまうのが普通なのだろうか。
城島が「ここだ」と言って、奥側から三番目の窓の前で止まった。
彼が窓の戸を引くと、当たり前のようにすっと開く。
「こんな所よく見つけたな」
「片っ端から確認してってさ。たまたま。ガラス割れてるとこも無いみたいだし、丁度良いだろ」
「こんなボロボロなのに窓は割れてないなんて変だな。ま、いいか。よぅし、入るぞ」
床に着いた足元から、カツンと硬い音が辺り一面を響かせた。その残響は、不気味な静寂に気圧されてすぐ様途切れてしまった。リーダーが再びスマホを掲げ、今度はボソボソと喋り始めた。
「はいっ、今校舎に入った所です。今ね、きっしーが懐中電灯を持ってるんで暗くて何も見えていませんけど、これからこれだけを頼りに散策していこうと思いまーす」
リーダーが城島から懐中電灯を受け取って、左右に照らした。
見える限り、意外にも綺麗なままのデスクが整列してあるようだ。奥を行くと、壁に空白の予定表の書かれた黒板と、埃を被った黄ばんだプリントが山積みになっていた。その横には、放送室と刻まれたプレートのついた扉がある。
同じようにこの場の状況を実況しているリーダーの推測によると、ここは職員室らしい。それっぽいものがあるから、けして間違ってはいないだろう。リーダーとその仲間はその後もとにかくスマホ相手に喋りまくっていた。何かある度にゴテゴテとコメントしていっているようで、中々スムーズに散策がいかない。
「あぁ・・・嫌だなぁ、早く帰りたいなぁ」
猫なで(名前を忘れたのでこの名称で)は相変わらず俺の背中でぶつくさと言っていた。自分のすぐ側であれこれ言われる不快さが鼻について、幽霊が出現する云々を煽る雰囲気の中にいても、偽りの恐怖さえも感じることが出来なかった。
そうこうしていると、リーダーとその仲間が黒板の横のボードに鍵が吊るして陳列されているのを見つけた。遠くから見てみる限り、錆が溜まってきているようだが、使う分には問題なさそうだ。ほぼ全ての部屋の鍵が並んでいるが、彼ら曰く玄関と屋上、そして校長室の鍵は無いらしい。何故ここまで都合良く鍵が放置されているのか不審に思ったが、とにかくここから進めるとなればやれやれだ。
「よっし、これで色んな部屋を見て回るぞ」
飽きもせずカメラをまわしながら、彼らは開けられるだけの部屋を次々探っていった。かちりと鍵を開ける音とくだらない無駄なトークが延々と連なり、ちっとも肝試しらしさが無い。ようやくそれ相応の雰囲気を思い出させたのは、二階の理科室だった。正しくテンプレートじみているが、宵闇に照らされた、埃まみれの人体模型や骨格標本には流石に皆圧されている様子だった。あの猫撫でに至ってはいつの間にか別の奴の背後で震えて今にでも泣きそうな目をしていた。しかし、圧されようとも彼らは若い。すぐ体勢を整えて、またスマホを相手にし始めた。
自分たちの住処に侵入された挙句これだけ騒がれているのだから、多少は駆逐しにかかってもおかしくないというのに、噂の幽霊たちは誰一人として現象を起こそうとしなかった。折角の理科室もただ放置されたままの標本に驚いただけで、その他の教室にも虚しいくらい異変が無かった。
何しに来たんだろうなぁとそろそろ嫌気がさしてくる頃の一行は、三階の資料室で散策を続けていた。ファイルが詰み込まれた様がちらちらと伺えるダンボールがずらりと棚に並んでいるようだ。しかし、奥まった隅々まで見に行っても、リーダーたちがそこで写真を撮ってみても、やはり静寂だけが返ってくるようだった。
その時の俺の存在は既にそこら辺の埃と一体化していたようで、グループメンバーだけで写真を撮っている間、俺はスマホの灯りと共に近くのダンボールの中身を何気なく確かめていた。何の変哲もない、余ったプリントと底に黄ばんだコピー用紙の束が山積みになっているだけだ。プリントの内容を見てから、ふと資料室に誰もいなくなっていたことに気がついた。
あの間のどの隙に部屋を出たのだろう。ガヤガヤとはしていたけれど、扉を開ける音はしなかった。単に声で音がかき消されていただけなのかもしれないけれども。
何れにせよ、彼らとはぐれてしまったことが現実である事を受け入れなければいけない。
しかし、だからといって急いで合流する気は起きなかった。彼らがどれくらい遠くに行ってしまったか分からないし、下手に探して結果的に彷徨う羽目になっては元も子もない。
鍵を持っていないから、他に移動できる場所も無いわけで。彼らの声が近くに来るまでここで待機してタイミングを見計らった方が良いかもしれない。来ないという可能性も無きにしも非ずだが、どうにか願うしかない。
ライトを頼りに出口を把握しておいてから、適当な棚から丈夫そうなダンボールを引き抜きそこに座り込んだ。
そこで片方だけイヤホンをして、ひたすら時間を潰すことに専念することにした。
✣✣✣✣✣✣
・・・妙な感触を覚えて、ハッとした時、俺はいつの間にか眠りこけてしまっていた事に気づいた。
尻のみに貼り付いていたガサガサしたダンボールの心地があった筈なのに、半身に広がるふかふかした感触がした。横たわっていた身体を少し起こしてみると、革のソファーが目に止まった。
どういう事だろう。徐々に戸惑いが芽生え、周囲を見渡すと、辺りは外からの月光でぼんやりと確認することが出来た。
光を灯す窓と共に貫禄を見せつける立派な机と黒い椅子。机の中心で、校章らしきものがその貫録を自慢げに見せびらかしているようだった。
そういえばスマホとイヤホンはどうしたのだろう。そう考えて、ふと椅子の前のローテーブルに気を向けると、そこに目的のものが置かれていた。イヤホンを耳に当ててみると、流石に何も聞こえなくなっていた。
それを外した次の瞬間。
部屋の外から、突然無数の叫び声がした。
もしやあのグループの物だろうか。それに悲鳴に混じって、「出たぁ!」などと言っていた気がした。
まさか、今更幽霊が出てきたというのだろうか。遅すぎる登場の様が如何なものなのか気になったが、よく考えると俺も似た状況になっているのかもしれない。
彼らには直接でのお出ましで、俺には幻覚を見せて幽閉。一人だけでいるには驚かせる価値も無いのか、随分悪質な方法を使ってくるものだ。しかし、こんなもので怯みはしない。無論戸惑いはしているが、その割合的に冷静さの方が上回っていた。
それは単に、感情を思うがままに操れない故なのだろうけれど。
・・・さて。とりあえずここから出てみた方が良いのかな。
開いているかどうかは不明だが、他に為す術もない。
扉に行こうと振り返る。
────その時、俺はこの部屋にはある筈も、いや、どこにもある筈もないモノがあることに気づいた。
「これ・・・」
天井からぶら下がった一本の太い縄。
垂れ下がる先端が輪っか状となっていて、肉眼では見づらいくらいの微動でゆらゆら動いている。ふと縄の真下を見ると、そこに黒い髪の毛が疎らに落ちていた。
これは、まさか。
「・・・・・・自殺用の、」
誰かがここで死んだのか?
俺と同じように、死を望んだ奴が。
首吊り。ぎちぎちと首を締め上げる、自殺行為の代名詞。
その残骸は死体のように青白い色彩を放ち、時折じんわりと赤みを帯びている。足元の髪の毛も刃物のような鋭い光を宿して、この有様に対する威嚇を試みているようだった。
何故こんなものまで落ちているのだろう。しかしその経緯を考えていく前に、自然と俺の手が残骸へと吸い寄せられるように伸びていった。
こんな所なら気付く奴もいない。
誰かが既に使用したもので不謹慎極まりないが、見ているとどうにも気持ちがその方向へとぐらりと傾いていってしまう。
そしてこの手が縄に触れる瞬間。
「ハロー、少年」
突然、その陽気な声と共に黒い影が目の前に現れたのだ。
いや、これは影ではない。黒い、髪だ。
その髪がゆらゆらとしなやかに揺れ動いて、持ち主の正体を覆った幕が開かれた。
(・・・、女の子?)
どこかの制服を着た、中学生らしき少女が立っていた。
人間の物とは思えぬくらいに輝く黄金色の瞳が此方を見据えていたかと思うと、俺と目が合うとにこりと笑った。その突飛な事に、俺は応えられず目を背ける。
そのまま何も言えずにいると、不意に少女が顔をずいっと寄せて、こう切り出してきた。
「んー。流石に戸惑ってるよねぇ。ごめんよ、今からちゃんとご挨拶するからねー」
暢気に笑って、次の瞬間。
少女が足を軽く蹴り上げ、宙へと浮いた。
「え、」
少女は恰も波に揺られる船のように宙で自由に浮かび上がっている。驚く俺を見た少女が、今度は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「驚いた?ふふん。私ねー、幽霊だから空が飛べるのよん」
そう自慢げに胸を張る少女。
けれどこの冗談のような少女の言葉に偽りはないようだ。
さっきは気づいていなかったが、少女の全体をよく見ると、下半身が上半身からグラデーションとなって薄く、薄く溶けたようになっていた。足の先は薄らもせず、ふくらはぎの目立つ部分だけがうごうごとしていた。
そして彼女の全身の周りには、夜だからこそ目立っているのであろう謎のオーラが放たれていた。所謂人魂のような青白い光で、それが当たるとひんやりと気味悪い冷たさが伝わってくる。
しかし、当の本人はちっとも幽霊らしくない構えだ。それのせいか、はたまたおかげか、微塵も恐怖を感じなかった。逆に、この子がまだ生身の人間ではないかと疑ってしまう。それ程に異様に明るかった。
「私、雨宮琥珀ってゆーの。コハクちゃんだよ!」
名乗った後、コハクは子供のような仕草でピースをかました。やはり幽霊だとはとても思えない。だが、それを直接彼女に言える筈もなく、話すこと自体は生き物のそれこれ関係無く苦手で、それを僅かな間でも隠しておこうとただあっけに取られたフリをしていた。とりわけここまでテンションが違うと、どうしていいか分からない。
「うーん?まだ動揺してる?じゃあ、私が落ち着かせる為にサービスを持ってきて差し上げようではないか」
中を読めないコハクがそう言って俺から一度離れると、そそくさと部屋を当然よろしくすり抜けていった。
何をしに行くつもりなのだろう。俺が呆然としながら考えていると、しばらくしてどこかから再びあのグループの悲鳴が聞こえた。男とは思えないくらいの高い声だ。俺もあそこまで驚けたなら、あんな声が出せるのだろうか。
やがてコハクがふらりと戻ってきた。その手には、某有名高カロリースティックの箱が握られている。
「お待たせ~。いやぁ、あいつらろくな物持ってなくてさぁ、これしか奪えなかったんだけど、まぁ我慢してね」
そう告げて、俺に箱を渡した。受け取った箱越しに一瞬だけ、コハクの方からぞくりとする冷気が伝っていく。
あいつら、というのは例のグループのことだろう。どこかから響いたあの悲鳴も、コハクが驚かしたか何かで起こったものなのかもしれない。その間にこのカロリースティックを手に入れるだなんて、幽霊と言えど一体どんな手法を使えば成せるというのだろう。
無論のこと、幽霊から現物を受け取るという奇妙な状況におかれているという事実にも困惑しなければならないのだが、一気にあれこれ起きたせいか、はたまたコハクのペースに流されているだけなのか、気持ちが追いついていかなかった。
この子は生者とごく自然な対面を交わせられて、現物に干渉することが出来て、ここまで生きているように明るく振る舞えられる。この子には、見知らぬ人に対する警戒心や不審感を抱いたりしないのだろうか。
・・・それとも、油断させて後々襲おうとしているのか?
そう考えるが、目の前の少女は悪びれる様子も無く、「これ美味しいよねぇ」と暢気な口調で呟いている。
見る限りでは、襲うなんて表情ではないのだろうが。
「ねぇ、君の名前は?何ていうの」
俺を真っ直ぐに見つめて、そう尋ねてきた。宝玉に近い黄金が、太陽のように眩しかった。
「俺は、えっと、北沢春哉・・・」
その輝きに圧されながらちんまりと答えた。コハクは目を数回瞬かせて、「春哉君ね」と自分に言い聞かせるように呟いた。
「君のことはハルやんって呼ばせてもらうね。あっ、君も私のことは呼び捨てで良いからね!」
「え、あ、うん・・・?」
名乗って早々、そんな珍妙なあだ名を付けられても、俺は抵抗も無く頷いた。
この子から来る圧の原因は何なのだろう。やたらと元気に声を上げるところだろうか。こういう人間は学校には万といる。校内及び社会にとっての適合者であり、裏でその陰を脅かす存在。本来なら縁さえ作りたくもないタイプなのに、幽霊であるという点が反して、不思議と戸惑うだけで済んでいた。寧ろ、ほんの僅かに興味さえ唆られ始めた。
しばらくコハクからの一方的な会話が交わり、徐々に此方からも話す力が出てきた。
「・・・あの、コハク、はさ」
静けさの中、常時固く結ばれている口から言葉を吐き出すという作業は、俊敏に疲労をもたらした。コハクが此方に注目すると、小さく肩が跳ね上がる。
「その、君が俺をここに連れてきたのか?俺、さっきは全然違う所に・・・いたんだけど」
コハクは当然の如くにあっさり頷いてみせた。
「うん。そうだね、知ってるよ。だから連れてきたんだよ」
「えっ、ど、どうしてだ?」
「それはね、君が寂しそうにしてたからだよ」
その答えを聞いて、一瞬身体に鋭い痺れが走った。
寂しそうに?
そんな事はけして有り得ない。
少なくとも俺自身が実際にそれを肌身に当たり前としていたのはもう随分昔の話だ。
傍の一般人から見るからそう思うのだ。人の気も知れない単純な視点では、独りでいて暗い面持ちでいる人間を寂しそうという観点でしか見れない事が多いのだろう。
寂しいより、つまらない。
俺は気まずく言った。
「別に俺・・・寂しそうにしてたわけじゃないぞ?」
コハクは顔色も変えず「あら、そう?」と首を軽く傾げた。
「考えが甘かったのかな。でも、何だか本当に辛そうな雰囲気だったんだけどな」
「辛くもないし、寂しくもないよ」
頑張って反論しても、コハクは笑うだけだった。
「まっ、本人がそう言うなら良いけどさ」
そこで不意にコハクが、あの垂れ下がった紐の前へと歩み寄った。柳のようにゆったりと揺れる長髪が、外からの視線を誘う。
「ね、私、どうして幽霊なのか分かる?」
「え、」
唐突な上に困る内容な質問だ。
俺は急に言われてもと困惑しながらも、彼女の背後にある物をちらりと見て、細々口を開く。
「・・・自殺?」
「そうそう。でもね、私ここで死んだわけじゃないんだ。ここはあくまで住処なの」
すっと紐に手をかけた。
「この紐も自殺に使われたものだけど、私じゃない。ここにはここの、幽霊がいるんだよ」
意外な事実だ。恰もここの霊魂の一員であるかのように今まで接してきていたから。
「彼らはあまり驚かすの好きじゃないみたい。ただ迷惑そうではあるから、代行として侵入者にイタズラしてやってるんだ」
やれやれと言いたげに呆れた顔をして、コハクがそう続けた。その後、柔らかく俺の方を見やる。
「でも君は私に似てるようから、驚かさずここでお話聞かせてもらおうかと思ったわけ。普通に私のことも見えてるし、良かったわ~」
「似てる?・・・そうかな」
意識を暗く沈めて呟く。それから引き続き言葉を付け加えることに成功した。
「そもそも・・・なんでコハクは自殺したんだ。あまり、そんな感じしないのに」
ふふ、と苦笑いを一つ、コハクがこれだけ答えた。
「さっき言ったじゃん。ハルやんと似てるからだよ」
どこかに隠れた隙間から、温い風が足場を覆う。
コハクから告げられた言葉の意味を考えようとすると、
「君ってさ、死ぬ気でいるんでしょ」
一言、笑っていない瞳で投げかけられた。冗談で訊かれているわけではないという事が、はっきりと分かる。
心中を見抜かれ、胸の内がドキリといって鳴いた。この隠し事を他人から突きつけられるなんて初めてであったのだ。
「図星だよね?んふふ。似てるからこそ分かるんだから」
「・・・・・・」
すると、恐らく現在不服な表情をしているだろう俺を見兼ねて、コハクは何やら考えるようにして間を置いた。
「あっ、大丈夫。だからって止めになんか入らないから。君はそれで人を繋ぎ止めてるようには見えないし、私だって同じ事言われたら不快だもん」
不服である理由は大半がそれだ。
綺麗事を並べただけで他に情も無い言葉など絶対いらない。自殺志願者と知った奴に向けて、止めろと言う。それは己の自尊心と優越感を十分に満たしてくれる。ただ、それだけ。
自殺を経験したコハクは、確かにそれが読み取れることに間違いない。彼女自身が俺と似てると自称するのにも、多少は説得力があるのかもしれない。
「でもねぇ、流石に良いものだとは私も思わないね」
続けて放った矛盾に、息が詰まりそうになった。
「なんで」
「そりゃ死んだら、私みたいに楽になれるよ。そうなんだけどね、その為のリスクは重すぎるんだ。君もそれくらい知ってるでしょう」
手のひら返しに何を言い出すのだろう。幽霊だから綺麗事を並べても良いと思っているのだろうか。
リスクというのは、死んだ本人の周囲への支障の事だろう。
そのリスクが重すぎるだって?
存在価値の無い俺が死んだところで、誰が損をするというのだ。損どころか得も無いというのに。
「俺が死んだってリスクは発生しないよ」
「お、喋り出してきたねぇ。あっ、勘違いしないでね。これは自殺した感想だよ、個人的なね。私はやめた方がいいだなんて、一言も言ってないよ」
コハクが心にも無いような笑い方を向ける。
そんな表情で妙なことを言うコハクを不審に感じながらも、押し返す論を言えず黙り込んだ。
無論、俺だって自殺行為が美徳であるだなんて思いもしない。
しかし、この世での生きている意味が皆無であれば、無駄に死を恐れることも消えていく。やがて恐れは望みと変わり、生き抜くことを眼中に入れなくなる。
それが、俺にはもう何十年となりそうな程深く深く根付いてしまっていた。そんなものを容易に根絶やしにして正論を鵜呑みに出来る程、俺の意志は緩くない。
だが、あんな矛盾な言葉を向けていながら、コハクに行為を止める意向は無いようだ。それがどうにも有難くはあったが、どこか疑い深い。
「まぁ見たところ、今の君には『そこまで』リスキーな過去も無さそうだね。でも気をつけなよ、どこで君にそれが降り掛かるか分からないんだから」
「リスクなんて、これからも無い」
キッパリと言い返すと、コハクは動揺も無く「そう」とだけあしらった。
急に現れて、喧しく表情を変えて、訳も分からない言葉で惑わせてくる。この子は一体何がしたいのだ。徐々に苛立ちが募っていく。
ぎっとコハクを睨んでみても、まるで動じない。
「うーん、面白いじゃん。やっぱり私と気が合いそうだ」
何が面白いというのだろう。だが、そんな事を言われたのは初めてだ。
「ハルやんは死にたいの?」
「死にたいよ」
流暢に返答する。
「もしかして、いつもあれこれ自殺方法試してたりしてる?何だか、お花の強い匂いがする」
「試してる。花でのやり方、知ってるのか」
「知ってるよ。君みたいに実行した事は無いけど」
「・・・でも、死ななかった」
「みたいだね」
コハクが俺の全身を見回す。
「今までもこんな風にしてきたんでしょ。でも生きながらえてる。・・・死にたくても、死ねないってところ?それとも、痛い死に方は嫌?」
最初に言われたことで声が喉に詰まって、援護するように首を横に切るようにして振る。
「全然嫌じゃない。俺は今まで痛いやり方も何度もしてきた」
勿論嘘は吐いていない。
階段や高い所から落下したり、首を絞めたり、当然首吊りも昔経験してきた。
しかし、どの方法も尽く失敗してしまった。落下しても方向を間違えて下の植物がクッションになったり、別の場所でしかけたところでタイミング悪く人が入ってきたりしたのだ。首絞めや首吊りも同じこと。冗談抜きに、何故か奇跡的なくらいにいつも妨げられてきた。死にたい想いは強くあるが、人に見られて死ぬのは流石に無理がある。そんな事を思ってるからいつまでも生きてるのかもしれないが。
ここまで頑なに答えているから面倒臭い奴だなと捉えられるだろうと考えたが、コハクが不満そうな顔を浮かべることは無い。寧ろ、狂っているくらい陽気に笑っている。
「ねぇ、こんなのはどうかな」
コハクが人差し指を口元に当てて、不意にそう持ちかけた。それからまた顔を俺に近づけて、怪しげに目を細めた。
「私と予測してみない?」
「予測?」と思わず彼女を凝視する。
「私と一緒に自殺行為をしたら、君は満足行く死に方が出来るかな?って事。要は協力してあげるって話だから、悪いようには聞こえないだろう?」
私と一緒に?
この目の前の幽霊と自殺行為を?
そんな奇怪な提案、怪しまずにはいられないだろう。
「そんな事して、何かあんたにメリットがあるの」
「メリット?そんなん求めてないよ。メリットになる
のは、君だけよ」
「・・・俺が死んで、予測が当たったら?」
尋ねると、コハクは顎に手を置いて「うーん」と唸った。
「そうねぇ、まぁ、別に勝負がしたいわけじゃないし、当たれば自由の権利を手に入れられるから後は君の思うようにすれば良いと思うよ」
「んな適当な・・・」
そう言うと、コハクが肩を勢いよくバシバシと叩いた。とはいえ、そこに痛覚は無く、暑さにはもってこいな冷気だけが伝わった。
「まぁまぁ」
それから叩くのをピタリと止めて、「どうする?」と投げかけてきた。
俺はしばらく答えが出ずにいたが、コハクが俺が死ぬことを引き止めず、寧ろ協力してくれるとなるなら、何が最終的な目的であってもそれでも構わないと考えた。幽霊であり基自殺志願者であった彼女がいれば、最適な方法へ導いてくれるかもしれない。
「別に良いよ」
すると、コハクがパッと表情を明るく浮かべた。
「おっけぃ、成立だね!」
「よろしく」と握手を求めてきて、恐る恐る右手を差し出す。
「じゃあ、成立したので今後は私も同行します」
「えっ、同行?」
キョトンとする俺に、コハクは遠慮無く続ける。
「だって協力するのに別行動なんて難しいに決まってるじゃん!それに私朝でも真昼間でも見える人には見えるから、君とお喋りも出来るよ」
「マジかよ・・・」
確かに一緒に行動している方が比較的楽なのだろうが、それ以外のプライベートなものはどうだろう。幽霊とはいえコハクは異性であることに変わりはない。コハク自身もそれは考慮するべきではないか。
「あっ、もしやプライバシーっぽいの気にしてる?それは心配ご無用、始終なわけないじゃん!そこはちゃんと守るし、時々どっか一人でふらっと行ったりもするから」
どうやら考慮済みらしい。
プライバシーさえ守ってくれるならまぁ承諾するには容易い。実際にどのように生活に影響するかは計り知れないが、それもこれも自分の願望の為だと言い聞かせれば仕方ないことだ。
「分かった。・・・でも本当にそれは守ってよ」
「分かってる分かってる。君こそ私のプライベートは覗かないでねー」
「覗かないよ」
第一そんな趣味も無い。
「・・・そういえば、あの三人はどうしたんだろう」
話に一段落着いて、ふと例の奴らのことが頭に過ぎった。あれ以来悲鳴は一つも聞こえてこないが。
「ああ、あいつらなら倉庫に閉じ込めといたよ。物の配置を工夫して、時間経過で鍵が開くようにしてるけど、それまではそこで反省していただきます」
さらりととんでもない行動を白状したコハクに目を丸くした。
「あんた凄いな・・・」
「でしょ?」
ふふんと誇るようにコハクが笑みをたたえた。
「あいつらのことはほっといて、私達は帰りましょ」
そう言って上機嫌に鼻歌を歌いながら、俺を連れて最初に来た窓から外へと出た。正面をまわる途中には古い倉庫が建っており、そこから無数の嘆きが飛び交っていた。
彼らに哀れみの目を向けながら通り過ぎてから、コハクと共にそそくさと学校を後にした。
遠くで虫の声が微かに震えていた。単体のその声は程なくして枯れた花の弁のように前触れなく止んでしまった。
一つ分の砂利の音がしても、目の前には鮮明な人の形が浮遊している。彼女の身体を囲うほのかな青白い光が、暗闇のせいで一段と輝いているようだった。
現在午前一時手前。当然、終電は逃してしまっていた。
それに、コハクが良い案を出してくれるという。一体何なのかを知るのはこの後で、この子の幽霊であると称した力の強さを思い知ったのだった。
この少女が何者で、何故自殺して幽霊なるまでに至ったのか。
しかし、この先で俺が根本的なコハクの正体を知ることは無かった。
その暇が、あまり与えられなかったからだ。
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