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<甲斐性無し>

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「其れでは各自早速取り掛かってくれ。我は出掛けてくる」



「お供致しますわ、私はグレン樣の秘書ですので」



まるで散歩に行きたがる犬のように、ネズは尻尾を振っている。



「構わん、我は一人で行く」



此処は強く云っておかないと、付いて来られたら誤魔化すのに手一杯で何も出来なくなるのは目に見えている。



何とか配下達を遠ざけ、俺は一人で魔王城近くの森に移動した。



「上手くやったではないか、中々面白かったぞ」



そう言って意識内で元魔王の、笑う声が頭に響く。



まだコイツが居るのを忘れてたよ。

流石にどうしようもないので、諦めるしかない。

だが配下を遠ざける作戦自体は成功だ。



先ずは[職種・なんちゃって魔王]とやらの能力確認だ。



<骸骨兵使役>

自身MP使用にて骸骨兵を使役する事が出来る。



能力自体は一度確認したから何となくは解るが、問題は俺のMPで何体使役出来るかだ。



「使役するには骸骨が要るぞ、丁度良い所に冒険者の遺体が有るではないか」



丁度良かねーよ、強い魔物が居る証拠じゃねーか。



不安になりながらも、元魔王のアドバイスに従い<骸骨兵使役>を試しに使ってみる。

冒険者の遺体だった骸骨の瞳が光り、俺の意志で起き上がる。



取り敢えずブレイクダンスを踊らしてみようとしたが、カチコチと動きがぎこちなく。



どうやら簡単な指示しか受け付けないので、ダンスのように複雑で滑らかな動きは出来ないらしい。



一体につき1MP消費したので、俺は8体しか使役出来ない事が解った。



元魔王が居た頃の魔王城では沢山の骸骨兵に追いかけられたが、やはり魔王というだけの実力が有ったのだろう。



次に試したいのはコレ。

<魔王っぽい覇気>

自身MP使用にて魔王っぽい覇気を出す事が出来る。



敵が居ない所で試してもMPの無駄だから、取り敢えず骸骨兵を連れて魔物を捜し歩き始める。



理想は弱くて食べれるような魔物が良いが、異世界に来てからの不運続きを思うと期待は出来ない。



「此の辺はどんな魔物が出るんだ?まさか弱い魔物は出ないなんて事はないよな」



「弱い魔物しか出てこんよ、我に比べればだがな」



聞いた相手が悪かった、全く参考にならね~。



嘆いていても仕方がない。

牢屋戦で多少は強くなったはずだし、遭遇してから考えるとしよう。



そのまま歩き続け数分後。

遭遇した魔物は、中型犬位の大きさをした蟻だった。



蜘蛛と闘った時にも思ったが、虫がデカイと気持ち悪さが尋常じゃない。



早速骸骨兵と闘わせてみたが、予想よりも蟻の動きが速く骸骨は致命打を与えられてはいない。

このまま戦い続けていると、蟻が俺にも攻撃してきそうだからコレだ。



<魔王っぽい覇気>



使うと蟻の動きが止まり、骸骨兵が止めを刺す。



効果は大方予想どうりだったし、消費MPも1と少なく。

魔王っぽいなんて名前の割には使えるかもしれない。



そんな事を考えていると頭に機械的な声が響く。



キラーアント[擬態][能力擬態]の条件が整いました。

<感知>を取得しました。



魔物を探し歩き回るのに疲れていたので、感知を得たのは最高のタイミングだった。



早速感知を使ってみると、範囲は狭く種類は解らないという難は有るが魔物の居場所が解るようになる。



調子に乗らず近場で一体だけの反応に向かい、再び歩き進んでいく。



この調子で新しい能力を得ていきたいが、反応場所に居た魔物は再びキラーアントだった。



同様の手口でキラーアントを倒し、気を取り直し感知で魔物を探す。



だが夕方近くに迄探しても食料になるような魔物は見付からず、遭遇するのは何れもキラーアントばかりだった。



「ここら辺、虫ばかり多すぎないか?」



「弱い魔物ばかりで良かったではないか」



そういう事じゃねーよ。

食えね-だろ。



早くエミリに渡す食料を見付けなければ、甲斐性無しみたいじゃねーか。



結局危険だか反応が二体の場所に行き、角兎を仕留めLVも上がり魔王城に帰ったので何とか面目は保たれたのだった。



だがMPの少なさに因り骸骨兵が減った事で、新たな危険が迫っているとは思いもしていなかった。
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