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<各々の思惑>

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時は少し戻り、マオーがゴブドとガオンの修行に呆れ離れた頃。

「ガハハ、次は毒沼にでも入って泳いでみるかゴブド!」

止まる事を知らないガオンの無茶降りに、ゴブドが困っていると背後から女性の声が聞こえる。

「お初ニャ御目ニャ掛かりますガオン様」

そう言って微笑む猫人の御嬢様は、クーガーから降りて恭しく一礼する。

「お嬢様気が早いですぞ、私からの紹介がまだです」

同じようにクーガーから降りた山羊の獣人は、取り繕う様に丸眼鏡の位置を直す。

「改めましてガオン様。獅獣王国大臣の使いにてお迎えに参りました、此方は侯爵家令嬢のウルル様と執事のジトーにてごさいます」

白く立派な髭を揺らし、ジトーは頭を下げる。

「お迎えって……? 」

「ガハハ知らん。気にするな、では次の修行だ沼に行くぞゴブド」

ガオンは全く相手にしようとしないが、次の修行に危険を察知したのかゴブドは動こうとせず。

「同じ獣人だし、絶対ちゃんと聞いた方が良いですよ」

そう言って引き止めるゴブドに気圧され、ガオンは渋々立ち止まる。

「これは助かりましたゴブド様。 ガオン様も知っておられると思いますが、人簇が強力な毒の兵器を用いて。 我々獅獣王国の獣人は窮地に立たされております」

「ガハハ好きに戦えば良いだろう、俺様は戦争なんぞには興味が無いわ」

アプローチを間違えた事に気付いたのか、ジトーは長い髭を整え再び口を開く。

「修行と云えば、弟で在られるレオン様も随分強くなられましたな」

ガオンがバトル好きと見越した、ジトーの挑発だった。

まんまとジトーの思惑に乗った、ガオンの顔付きが変わる。

「ガハハ、面白いではないか。 ゴブドよ次の修行は俺様の弟、獅子の獣人と手合わせだ」

ジトーはしてやったり顔で、丸眼鏡の位置を上げている。

「ガオン様、お茶会ニャんかも面白いですわよ」

「ソレは強い奴が来るのか? 」

「強そうニャ人はそんなニャ見た事ないですけど、美味しい御菓子が出ますわ」

ウルルは自慢気に答えるが、ガオンは興味無さそうに。

「つまらん」

そう言って、鼻で笑い返す。

「お嬢様お気を落とさずに……」

すかさずジトーはフォローするが、ウルルはふくれた口元を更に膨らましジトーは笑顔を返す。

こうして各々の思惑は走り始め、ガオンとゴブドは獅獣王国に向かう事となるのだった。



一方。
マオーとピクニックの約束をしたエミリが、慌ただしく出掛ける準備をしていた頃。

「トウちゃん、ソレ取って」

「これで良いのか」

「うん、ありがとう」

たまに調味料渡す位しか、何も手伝う事が無いな。

エミリが楽しそうだから良いが、マオーめ。
エミリを狙って、グイグイ来やがる。

そんな事を考えていると、突然視界が真っ暗に変わる。

「トウちゃん……!?」

なっ、何が起きたんだ。

「コボルト調査部隊である。 取り急ぎ調査が必要なので、拘束させてもらった。 獅獣王国迄来てもらおう」

調査? 獅獣王国?
何を言っているのか解らないが。

もう視界どころか、身動き迄も出来ない。

「勿論、断る権利は無いがな」

「私も付いて行きます! 」

エミリの一言で、少しの沈黙。

「構わん、付いて来るが良い」

何も出来ないまま、話しが勝手に進んでいく。

「エミリ本当に良いのか、危険だぞ」

「大丈夫……。 きっとマオーさんなら、気付いて助けてくれる」

連行され静かになった厨房に、願いの様なエミリの声が響くのだった。
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