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<止む雨>

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此れは一体何が起きたんだ。

沸き上がる炎と同様に、力がみなぎり。

大きく変わった自分の姿に驚きを隠せないが、セトは眼中にも無さそうに笑ったままでいる。

小鳥が鷹位の大きさに変わろが、どうなろうが敵では無いと思っているのだろう。

明らかに、相手を馬鹿にした笑顔。

やはりコイツだけは許せない。

どうしても一矢報いて、其のニヤついた表情を止めないと気が済まない。

今ならエミリを抱え空も飛べそうな気もするが、当然コイツは待ってはくれないだろう。

其れにやられっぱなしの、自分の気も治まらない。

原理は解らないが姿が大きく変わったなら、攻撃する力も大きくなっているだろう。

試しに炎を噴いてセトを攻撃してみると、明らかに格段上の別物。

其れを証明する様に、炎を塞ごうとしたセトの触手を完全に溶かし。

セトの表情からニヤついた笑顔が止まり、視線が鋭く変わる。

ざまあみろと両拳を上げ喜びたいが、今は其れどころではない。

溶けた触手を再び成長さし、腕を復活させたセトが襲い掛かる。

やはり、敵対属性の相性は悪くないのだろう。

炎の当たり所次第では、化け物のコイツも死んでいたっておかしくはなかったはずだ。

今更だが、やっと自分を敵と認めたらしい。

セトは鬼気迫る表情で両腕の触手を伸ばし、自分に喰らい掛かる。

其の触手を炎で溶かし、セトの顔面目掛け炎を噴く。

勝った。
確実に当たる距離とタイミング、此れは避けきれない。

そう思った瞬間。
セトが口から噴いた毒霧と、炎がぶつかり爆発。

巻き起こる噴煙に視界を奪われる中、辺りに突然の雨が降り。

其の雨で視界が晴れ始め、セトを探す。

眼前に立っていたセトは、炎を塞ぎ切れず顔中が焼け爛れ。

今にも倒れそうだが、其の表情は何故かニヤついている。

其れと同時に、身体中に焼ける様な激痛が走り。

自分の身体を見ると、炎は弱まり全身が熔けだし立ち上がる事が出来ない。

都合の良い強化が、時間切れとでも云うのか。

自分は勝っていたはずだった。
何故だ、一体何が起きた。

足下の止み始めた雨を見ると、禍々しい紫色。

其れはセトが毒霧の後、間髪入れずに放った二射目。

雨と見間違う程に大量の、毒液だった。
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