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〈愛の力〉1
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あの花火をした日から数日が過ぎた休日、目前に迫る千夏の手術日よりも先に虎太郎にはどうしても済ませておきたい事が一つ有った。
「オウ、ほんまにそれでええんやな‥‥」
「ウッス‥‥、その時間でお願いします‥‥」
いつになく礼儀正しく話す虎太郎の電話相手は、鉄鬼のOB。
電話を切った虎太郎は無造作に置かれた特攻服を眺め、感慨深げに煙草の火を付ける。
だが落ち着いて其の煙草を吸う間も無く、携帯の着信音が自宅の狭い部屋に響く。
「虎ほんまに鉄鬼辞めるんか?」
連絡を聞いてすぐだったのだろう、社交辞令も無く竜也は慌てた様子で尋ねる。
「もう決めたんや‥‥」
一言そう言うと、虎太郎は逸れ以上言葉にはしない。
心残りが無いと言えば嘘になるだろうが、一度決めた事を簡単に変える男ではない事を竜也も解っていた。
「そうか‥‥、じゃあしょうがないな‥‥、まあ俺は虎ん家遊びに行くから変わらんけどな」
わざとらしくふざける竜也に「お前はもっと遠慮しろ!我が家ちゃうんやぞ」と虎太郎も何事も無かったかのようにふざけ返す。
互いに認め合う二人には、これ以上余計な説明等必要無いと言っているようだった。
「それよりも何か最近虎の事嗅ぎ回ってる奴がおるらしいから気をつけろよ」
噂話を気にかける竜也に、虎太郎は如何にも適当な返事を返す。
逸れを予測していたかのように「まあ見つけたら俺が退治したってもええけど、虎には必要無いやろ!」と話し続ける竜也は笑い話にしようとするが「イヤ、そうでもないんや、喧嘩せんって決めたからな」と虎太郎は柄にもなく困った様子で苦笑いを浮かべる。
「どうしたんや頭打ったんか?」
「違うわ!」
「解った!女やな~」
軽妙な口調でからかう竜也は、真面目に取り合う気が一切無い。
「‥‥まあ、約束したからな」
「へ~え、虎が約束ね~」
否定しない虎太郎を、竜也は明らかに面白がっていたが「しばくぞ」と言って虎太郎が笑うと、竜也は残念そうに笑い返す。
二人はゲラゲラと笑い話を繰り返し、結局電話を切ったのは一時間後だった。
夕方特攻服に着替えバイクに乗った虎太郎が向かった先は、鉄鬼のたまり場になっている立体駐車場の屋上。
「オオ~!久しぶりやん虎」
「辞めるってほんまなん?」
すでに集まっていた鉄鬼のメンバー達は、着いた虎太郎に思い思いの声を掛けていく。
「オウ、脱退式始めるぞ」
そう言ってメンバーを纏めたのは、今日電話で話していたOBだった。
「虎、前に出ろ」
メンバーで円陣を組まれた真ん中に虎太郎が立ち止まると、まるでステージのようにバイクのライトで照らしだされる。
バイクのエンジン音が響く円陣の中、一人が虎太郎の居る所に歩み寄って行く。
「中学の時喧嘩助けてくれてありがとうな」
言い終わると同時に、仲間の一人は虎太郎の頬を一発殴り。
殴られた虎太郎は怒るでもなく、次の仲間が来るのを待っている。
「辞めても俺は仲間やからな」
同じように次の仲間が一言贈ると一発殴る、これが歴代続く鉄鬼の脱退式だった。
「俺を鉄鬼に誘ってくれてありがとな」
「抗争なったら呼んだるわ、どうせヒマやろ」
最初は平然と立ち受け止めていた虎太郎も、何人か続くとフラフラとよろめき始めている。
「何で辞めるんや虎~!」
泣きながら殴る奴もいた。
それだけ鉄鬼の中で虎太郎の存在は大きかった。
もう虎太郎の顔は血だらけだが、全員が終わる迄誰も止めようとはしない。
両手で数えきれない程の拳を受け止めきると、最後の相手は竜也だった。
「またな‥‥」
短い一言で踵を返す竜也は、円陣の中に帰っていく。
辞める理由を全て知っているのは竜也だけだが、誰もが「頑張れよ」という気持ちを拳に込めているのは間違いなかった。
円陣を組み整列して待つメンバー達を一望した虎太郎は、左腕に巻いていた特攻隊長の腕章を外し竜也に手渡す。
逸れが脱退式と特攻隊長継承が終わった瞬間だった。
「行くぞ」
OBの一言で走り去るメンバー達は、誰も振り返ろうとはしない。
一人立体駐車場の屋上に取り残された虎太郎は、もう戻る事の出来ない光の渦を眺め煙草に火を付ける。
一人の男が一つのけじめを付けたこの日も、夜の街は変わらず輝いていた。
広いようで狭い彼等の世界では、虎太郎が鉄鬼を脱退した噂が巡るのは早かった。
逸れは虎太郎の存在が対抗するチームにとっても大きい事を示していたが、恨みを募らせていた連中にも知られるという事だった。
「オウ、ほんまにそれでええんやな‥‥」
「ウッス‥‥、その時間でお願いします‥‥」
いつになく礼儀正しく話す虎太郎の電話相手は、鉄鬼のOB。
電話を切った虎太郎は無造作に置かれた特攻服を眺め、感慨深げに煙草の火を付ける。
だが落ち着いて其の煙草を吸う間も無く、携帯の着信音が自宅の狭い部屋に響く。
「虎ほんまに鉄鬼辞めるんか?」
連絡を聞いてすぐだったのだろう、社交辞令も無く竜也は慌てた様子で尋ねる。
「もう決めたんや‥‥」
一言そう言うと、虎太郎は逸れ以上言葉にはしない。
心残りが無いと言えば嘘になるだろうが、一度決めた事を簡単に変える男ではない事を竜也も解っていた。
「そうか‥‥、じゃあしょうがないな‥‥、まあ俺は虎ん家遊びに行くから変わらんけどな」
わざとらしくふざける竜也に「お前はもっと遠慮しろ!我が家ちゃうんやぞ」と虎太郎も何事も無かったかのようにふざけ返す。
互いに認め合う二人には、これ以上余計な説明等必要無いと言っているようだった。
「それよりも何か最近虎の事嗅ぎ回ってる奴がおるらしいから気をつけろよ」
噂話を気にかける竜也に、虎太郎は如何にも適当な返事を返す。
逸れを予測していたかのように「まあ見つけたら俺が退治したってもええけど、虎には必要無いやろ!」と話し続ける竜也は笑い話にしようとするが「イヤ、そうでもないんや、喧嘩せんって決めたからな」と虎太郎は柄にもなく困った様子で苦笑いを浮かべる。
「どうしたんや頭打ったんか?」
「違うわ!」
「解った!女やな~」
軽妙な口調でからかう竜也は、真面目に取り合う気が一切無い。
「‥‥まあ、約束したからな」
「へ~え、虎が約束ね~」
否定しない虎太郎を、竜也は明らかに面白がっていたが「しばくぞ」と言って虎太郎が笑うと、竜也は残念そうに笑い返す。
二人はゲラゲラと笑い話を繰り返し、結局電話を切ったのは一時間後だった。
夕方特攻服に着替えバイクに乗った虎太郎が向かった先は、鉄鬼のたまり場になっている立体駐車場の屋上。
「オオ~!久しぶりやん虎」
「辞めるってほんまなん?」
すでに集まっていた鉄鬼のメンバー達は、着いた虎太郎に思い思いの声を掛けていく。
「オウ、脱退式始めるぞ」
そう言ってメンバーを纏めたのは、今日電話で話していたOBだった。
「虎、前に出ろ」
メンバーで円陣を組まれた真ん中に虎太郎が立ち止まると、まるでステージのようにバイクのライトで照らしだされる。
バイクのエンジン音が響く円陣の中、一人が虎太郎の居る所に歩み寄って行く。
「中学の時喧嘩助けてくれてありがとうな」
言い終わると同時に、仲間の一人は虎太郎の頬を一発殴り。
殴られた虎太郎は怒るでもなく、次の仲間が来るのを待っている。
「辞めても俺は仲間やからな」
同じように次の仲間が一言贈ると一発殴る、これが歴代続く鉄鬼の脱退式だった。
「俺を鉄鬼に誘ってくれてありがとな」
「抗争なったら呼んだるわ、どうせヒマやろ」
最初は平然と立ち受け止めていた虎太郎も、何人か続くとフラフラとよろめき始めている。
「何で辞めるんや虎~!」
泣きながら殴る奴もいた。
それだけ鉄鬼の中で虎太郎の存在は大きかった。
もう虎太郎の顔は血だらけだが、全員が終わる迄誰も止めようとはしない。
両手で数えきれない程の拳を受け止めきると、最後の相手は竜也だった。
「またな‥‥」
短い一言で踵を返す竜也は、円陣の中に帰っていく。
辞める理由を全て知っているのは竜也だけだが、誰もが「頑張れよ」という気持ちを拳に込めているのは間違いなかった。
円陣を組み整列して待つメンバー達を一望した虎太郎は、左腕に巻いていた特攻隊長の腕章を外し竜也に手渡す。
逸れが脱退式と特攻隊長継承が終わった瞬間だった。
「行くぞ」
OBの一言で走り去るメンバー達は、誰も振り返ろうとはしない。
一人立体駐車場の屋上に取り残された虎太郎は、もう戻る事の出来ない光の渦を眺め煙草に火を付ける。
一人の男が一つのけじめを付けたこの日も、夜の街は変わらず輝いていた。
広いようで狭い彼等の世界では、虎太郎が鉄鬼を脱退した噂が巡るのは早かった。
逸れは虎太郎の存在が対抗するチームにとっても大きい事を示していたが、恨みを募らせていた連中にも知られるという事だった。
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