水底からみる夢は

ネコノミ

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エピローグ

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 昨日の雑木林にたどり着いたアンルティーファとフランは昨日のたき火の残骸をあたりにまくと、その近くにある枯れ木の下から落ちた枝を拾い集めてきた。いつもと違ったのは、フランは当然のようにアンルティーファと一緒に枝集めをしてくれたことだった。そのことにお礼を言えば、困ったようにつんっとそっぽを向かれてしまったが。その尖った耳先はほんのり赤くなっていて可愛かった。
 乾いた枝を組み上げてその上に火をつけたマッチ棒を放り投げる。燃え上がった火とともにぱちぱちと木が燃える音とにおいがする。寄り添うようになめし革の敷物を敷いた上にフランと一緒に座る。足元の末枯れた草の葉を千切って、手持ち無沙汰に焚き火に放り込んだそれが一瞬にして灰へと変わるのを見てから。アンルティーファはドレスのポケットにしまいこんでいた切絵を取り出す。それをフランはただ黙って見ていた。黙り込んでいたという意味ではない。ただ、見守っていたというのが正しいだろう。
 ハンカチに包まれたアンルティーファの小さな手のひらにのるくらいのそれを、アンルティーファはまるで尊いものを捧げ持つかのように。なめし革の敷物の上から立ち上がって焚き火にぎりぎりまで近づきその上にかざすと。
 ぱっと手を離した。
 火の上に落とされたそれはやがてじわじわととけるみたいに端から火に呑まれていく。まるでエルフが食事をするときの情景によく似ていた。静かにそれを凪いだ目で見つめるアンルティーファを、フランは見守っていた。

「ママは……」
「なによ?」
「きっと、笑ってるだろうなって思うの。この切絵が天国にいるママに届いたら、きっと『ティファは天才ね!』って頭を撫でてくれると思うの」
「……おいで、ティファ」
「うん」

 果実を丸ごと使っているせいか、よく乾かして紙状にしても切絵紙は燃えにくい。ゆっくり火にとけるように端から灰へと変わっていく切絵に、アンルティーファがなにかを思い出すように愛おし気に呟く。そう、ルチアーナはいつもそうだった。今年の王家主催の切絵品評会に出す作品を作ったときも、『これじゃあっという間にティファに越えられちゃう。困ったわ』なんて頬に手を当てながら、まったく困ってない陽気な笑顔で言っていた。もう越えられない位置にいるルチアーナは、きっと天国で勝ち誇った顔をしているのではないかとアンルティーファは思うのだ。それくらい、お茶目なひとだった。
 一拍置いて、フランがアンルティーファを呼び寄せる。それに素直に頷いてフランの横に座れば、フランが身体を捻って抱きついてきた。痛くないように配慮して、でもできる限りぎゅうぎゅうしたいのを我慢している子どものようなそれにアンルティーファは思わず小さく笑ってしまった。口元に手をあててほのかに笑っているアンルティーファに、フランは眉をしかめて自分より低い位置にある顔の頬をつねった。

「ふりゃん、いはいお」
「ふん、ひとのこと見て笑ってる外道な小娘はこういう格好がお似合いよ」
「うー」
「……ふ、冗談よ。ティファ、お前は天才ね。それにとっても……きっとその馬鹿さ加減を、人間は『優しい』というのよね。優しい子ね」
「ばかさ加減ってなに? ばかさ加減って!」

 けっこう強くつねられたせいで言葉を話すのもままならないアンルティーファに、思わず笑いをこぼしながらフランはその手を離した。革手袋のひんやりとした感触が頬から離れてほっとしたアンルティーファは、フランの物言いにむっと頬を膨らます。なんだか褒められているはずなのにとても馬鹿にされた気分だった。
 握ったこぶしには力を入れずフランの胸元を数度叩けば、フランはふふっと小さく声を上げて目じりを下げた。その顔がとても優しかったから。とても愛おしいものを見るような顔だったから。だからアンルティーファは。

「それを言うならフランだっておばかさんなんだから! ……ふふー、でも大好きだからいいの」
「そうね、私もきっと大馬鹿よ。でも大好きだからいいわ」

 顔を見合わせて笑った二人で見上げた空のちょうど半分に欠けた月は、まるでフランとアンルティーファのようだった。二人でいなくては寂しくてたまらないというように。だからその日は手を繋いで眠った。天国にいるルチアーナに、もう一人じゃないんだと伝えるように。これからの日々は寂しくないんだと示すように。
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