幼女神の物見遊山観光記

ネコノミ

文字の大きさ
62 / 78

しおりを挟む
「それ、で」
「へ……あ、は、はい。シャーロットをお望みですよね。……そうですね、犯罪奴隷ですし、金貨二百枚といったところでしょうか」
「……ぼったくりすぎだろうが。犯罪奴隷の価値は大体金貨一から百枚だろ」
「しかしだね、若い女性で呪印もなくなったわけだし」
「そうしたのはこっちだ」
「君、は」

 シャーロットの金額について応酬しているティオヴァルトと館主の間で、咲也子はいまだにへたり込んでいるシャーロットへと口を開く。それになんとなくティオヴァルトが口を閉ざせば、館主もそれに倣った。

「君の信仰は敬意に値す、る。だから呪いを解い、た」
「はい、主よ」

 声をかけられたことにびくりと震え、へたり込んでいたシャーロットはあわてて拝跪した。腰までの長い銀髪がするりと広がる。手を胸の前で組み、目を閉じ祈りのポーズをとる。その手はかすかに信仰心に震えていて。しかし目は恐れではなく畏れでもって歓喜に美貌を輝かせながらシャーロットは咲也子の、自らの信仰する神の言葉を受け取っていた。

「なら、信仰以外に君はおれにどんな価値を示せる、の?」

 価値。例えばティオヴァルトだったら冒険者登録の推薦者という咲也子にとっては大きな価値があった。まあ努力が無に返されるのが嫌だという理由もあったが、それはほんの後付けだ。いまでもあの修道女の願いという要素はある。でもそれはあの修道女の価値から派生したもので、決定打には到底なりえない。
 ならばシャーロットの奴隷としての価値は、シャーロットが自分で作りださなければならないのだ。咲也子には、シャーロットが必要な理由なんてないのだから。
 どんな価値を示せるのかという言葉に、シャーロットの身体が硬直する。

 考えろ、考えろシャーロット。神殿の青目持ちの方々はどんなものに心惹かれていた? どんなものを好んでいた? どんなものを……‘強欲‘の青目持ちは食事に心惹かれるようだったが、いまのシャーロットにはそれは用意できない。しかも得意といえるほど料理はしたことのないシャーロットには無理だ。なら……最後に見たのは自分を見下ろす黒髪を結い上げた‘暴食‘の青目持ち。彼女は確か。

 逡巡するようにそれから五分は固まっていたシャーロットが、そっとその薔薇色の唇を開く。

「主神殿には、神殿付きの騎士にしか閲覧できない書物が五冊ございます。その中身を、主へと奏上させていただくことを許されるのなら、それを私の価値とします」
「採、用」
「はえーよ」

 フードの奥で‘暴食‘に青く光らせた瞳で速攻。親指を立ててティオヴァルトの呟きも何のその、咲也子は深く頷いた。
 どうやら正解だったらしいとほっとシャーロットは胸をなでおろした。‘暴食‘の青目持ちは知識のために生きていくための人間の三大欲求をないがしろにする勢いであることを、六年も主神殿に勤めていたシャーロットは知っていた。それはつまり、‘暴食‘の才能を持つキメラも同じかもしれないと考えたのだが、正しかったようだ。

「では、金貨二百枚でよろしいでしょうか?」
「ん」
「おい!」
「主よ、さすがにそれは……」
「知識はお金に変えられないの、よー」

 そういって、咲也子はほわりと空気を緩めさせながらウエストポーチから取り出した小花の飾りがついた財布から、金貨を一枚ずつ抜き始めた。


 シャーロットの荷物を受け取ったり奴隷印の所有者書き換えを行って奴隷商館を出るころにはすっかりお昼も過ぎていた。というか十四時。もはやおやつの時間の方が近いくらいである。
白いワンピースに青いミニのジーンズの下には黒タイツに茶色い膝までのブーツ。ワンピースやジーンズの裾には白いフリルという女の子っぷりである。奴隷商館に預けられていた私服で出てきたシャーロットに、こいつ連れて歩くのかよとばかりに嫌そうな顔をしたのはティオヴァルトだった。咲也子はきょとんとした後。

「かわいいの、ねー」
「あ、ありがとうございます。主よ」
「フリル、めずらしいの、ね」

 そういえば、町にいる時。フリルを付けた人々は見当たらなかったと咲也子は首を傾げる。

「ええ、主の身につけられているケープにはふんだんにあしらわれておりますが、フリルは貴族階級の流行でして」
「……貴、族?」
「あ……、申し遅れました。私シャーロット・ギルマンと言いまして。ギルマン公爵家の娘です。といっても出家した身なので姓はなかったのですが、奴隷になるなら世俗に戻るということで戻ってきました」

 ひくりと思わずティオヴァルトの頬が引きつったのは仕方がないことだろう。貴族の娘かよ、引き取って大丈夫なのかこれ。ティオヴァルトの心情が思考がだだ漏れの中、笑顔でよろしくお願いします、主よ! と元気に返事をしてくるシャーロットに。ああ、だからミリーは自分を貴族だと思ったのかなんて初めて会った時のミリーの様子が思い浮かぶ咲也子だった。とりあえず。とことことシャーロットに近づいて、きゅっとワンピースの裾に隠れた両手でその手を握る。

「よろしく、ね」
「はい! こちらこそ!」
「……それより、腹減ったから止まり木戻ろうぜ」
「ん」
「あ……」

 ティオヴァルトの言葉にするりと離れていった小さな手に残念そうに声を上げて、シャーロットはティオヴァルトを睨んだ。
 思い出したように咲也子は空中へと手を滑らせ、何かを取り出す作業をする。つまり【アイテムボックス】からなにかを取り出したわけだ。何かとは別に特別なものではない。シャーロットの犯罪奴隷と一目でわかる首輪を隠すために真っ白なマフラーを取り出したのだ。それをシャーロットに渡して首に巻いてもらう。
実はこれ最高級手触りのマフラーで、ずっと前にクロエが迷宮で取ってきて【アイテムボックス】の肥やしになっていたものである。二つ一組でティオヴァルトがつけている真っ黒なものと対のため実質おそろいである。ちなみにこの話を聞いたティオヴァルトは嫌そうな顔をして、シャーロットは主から頂いたもの! と感動半面やはりおそろいは嫌なのか複雑そうな顔をしていた。

「にしてもあんた、値引きさせるの上手いな」
「ティオのおかげ、よー」
「……」

 そう、結局シャーロットは金貨百枚で買われていた。
 にやりとあくどく口端をつりあげたティオヴァルトに手を広げて無言で抱っこをねだるほのほの雰囲気で笑う咲也子にそっとシャーロットは眉間を押さえた。
 どうやって値引きさせたか。簡単である。咲也子の隣でティオヴァルトが威圧を掛けつつ、咲也子はことさらゆっくり一枚一枚財布から金貨を取り出したのである。
 時間と威圧に消耗した館主はちょうど百枚目のところで音を上げた。
 案外持った方だなと咲也子は抱っこされつつその冷えた思考で考えた。予定だと五十枚くらいにさせるつもりだったのに。
 それはともかくとして。

「とりあえず、止まり木でお昼ご飯食べよう、ね」

 そういうことになった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...