2 / 29
第2話 嘘
しおりを挟む
コンコン。
この時間のドアの音は私の心臓も一緒に叩き上げる。
「失礼します。
こんにちは、佐々木 麗桜さん。
本日も担当します。河野 歩夢です、よろしくお願いします。
調子はいかがですか?」
好きな人からのいつもと同じ挨拶に、私は平然を装いながら返事をする。
「普通、かな。歩夢先生は?」
「麗桜ちゃんが元気なら僕も元気だよ」
歩夢先生の言葉の端々に私の体温が勝手にあがる。
それも毎日だ。
彼は私を担当している研修医であるため、入ってくる時は敬語で声がけをして、私の返事の後は私の年齢に甘えてか『麗桜ちゃん』と呼び、柔らかな常語に変わる。使い分けの仕方に、先生だと認識させられながらも歳の近い少し大人な男性だと勝手に認識してしまうのだ。
そして私はそんな歩夢先生に恋をしてしまった。
私はこの初恋を隠すために、歩夢先生といつも通りのやり取りを繰り返す。もちろんいつも通りの嘘も。
「麗桜ちゃん、なにか思い出せた?」
歩夢先生はいつも軽くそう言って、私がうつ枯れ病になったきっかけ、そしてこの病を治す手がかりを探っている。けれど私はその問いに「いえ。わかんないです」と本音を隠すのだ。
もちろん理由がある。正直に答えてしまえば退院に近づいてしまうのだから……。
退院したら私は普通に生きられるのだろうか……。退院したら……、歩夢先生と離れたら、また病状が悪化しまうかもしれない。そんな可能性を考えると、恐怖が心臓をがぶりと噛み付く。
でも一番の理由は私が初恋を捨てきれない17歳だからだ。この片想い入院生活を終えたくない。このまま終えるなんて……。
歩夢先生への憧れがすっかり恋心に変わった私は、歩夢先生を見るためだけに毎日患者を演じた。
──それでも私は少しだけ罪悪感を感じていた。答えられる質問に答えなくて、ずるい私にこのままでいいのかと問いかけていた。
しかし、何かをするにはきっかけが必要だ。病院から出る、未来の恐怖心がなくなる、そんなきっかけが──。
未来、未来か……。私がうつ枯れ病になった理由はたぶん『未来への不安』だったと思う。
私は今現在17歳。〝うつ枯れ病〟が発症した年齢は16歳、高校1年の終わりかけの2年生になる前の春だった。
──────
あの頃は「あと2年で受験がある」と耳にタコを作るほど聞かされていた。だからこそ、当時の私はこの高校に入ったことを後悔していた。
それもそうだ。親が行けって言うから入っただけの進学校。私が選んで通った場所じゃない。もっと楽しい生活があったかもしれないのに……。1年前の私はそう思ってた。
まあ、今になっては歩夢さんに会えたから後悔もしてないんだけど。
とにかく、あの頃は進学、未来の不安を散々学校に煽られて、私は未来から耳を塞ぎ、目を閉じたのだ。そして〝生きること〟から逃げようとして、それが〝うつ枯れ病〟になるきっかけとなったのだろう──。
ただ、悲劇はそれだけで収まらなかったのだ──。
この時間のドアの音は私の心臓も一緒に叩き上げる。
「失礼します。
こんにちは、佐々木 麗桜さん。
本日も担当します。河野 歩夢です、よろしくお願いします。
調子はいかがですか?」
好きな人からのいつもと同じ挨拶に、私は平然を装いながら返事をする。
「普通、かな。歩夢先生は?」
「麗桜ちゃんが元気なら僕も元気だよ」
歩夢先生の言葉の端々に私の体温が勝手にあがる。
それも毎日だ。
彼は私を担当している研修医であるため、入ってくる時は敬語で声がけをして、私の返事の後は私の年齢に甘えてか『麗桜ちゃん』と呼び、柔らかな常語に変わる。使い分けの仕方に、先生だと認識させられながらも歳の近い少し大人な男性だと勝手に認識してしまうのだ。
そして私はそんな歩夢先生に恋をしてしまった。
私はこの初恋を隠すために、歩夢先生といつも通りのやり取りを繰り返す。もちろんいつも通りの嘘も。
「麗桜ちゃん、なにか思い出せた?」
歩夢先生はいつも軽くそう言って、私がうつ枯れ病になったきっかけ、そしてこの病を治す手がかりを探っている。けれど私はその問いに「いえ。わかんないです」と本音を隠すのだ。
もちろん理由がある。正直に答えてしまえば退院に近づいてしまうのだから……。
退院したら私は普通に生きられるのだろうか……。退院したら……、歩夢先生と離れたら、また病状が悪化しまうかもしれない。そんな可能性を考えると、恐怖が心臓をがぶりと噛み付く。
でも一番の理由は私が初恋を捨てきれない17歳だからだ。この片想い入院生活を終えたくない。このまま終えるなんて……。
歩夢先生への憧れがすっかり恋心に変わった私は、歩夢先生を見るためだけに毎日患者を演じた。
──それでも私は少しだけ罪悪感を感じていた。答えられる質問に答えなくて、ずるい私にこのままでいいのかと問いかけていた。
しかし、何かをするにはきっかけが必要だ。病院から出る、未来の恐怖心がなくなる、そんなきっかけが──。
未来、未来か……。私がうつ枯れ病になった理由はたぶん『未来への不安』だったと思う。
私は今現在17歳。〝うつ枯れ病〟が発症した年齢は16歳、高校1年の終わりかけの2年生になる前の春だった。
──────
あの頃は「あと2年で受験がある」と耳にタコを作るほど聞かされていた。だからこそ、当時の私はこの高校に入ったことを後悔していた。
それもそうだ。親が行けって言うから入っただけの進学校。私が選んで通った場所じゃない。もっと楽しい生活があったかもしれないのに……。1年前の私はそう思ってた。
まあ、今になっては歩夢さんに会えたから後悔もしてないんだけど。
とにかく、あの頃は進学、未来の不安を散々学校に煽られて、私は未来から耳を塞ぎ、目を閉じたのだ。そして〝生きること〟から逃げようとして、それが〝うつ枯れ病〟になるきっかけとなったのだろう──。
ただ、悲劇はそれだけで収まらなかったのだ──。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていました~
あんねーむど
恋愛
栄養士が騎士団の司令官――!?
元社員食堂の職員・白城千鳥は、ある日突然「聖女」として異世界アルゼリオン王国に召喚される。
しかし期待された聖女の力はまったく発現されず、判明したのは彼女がただの一般人だという事実。
役立たずとして放逐されるかと思いきや、千鳥は王宮食堂で料理人として働くことに。慣れない異世界生活の中でも、栄養管理や献立作りを通して騎士たちの体調を支え、静かに居場所を築いていく。
そんなある日、問題児ばかりを集めた新設部隊アルゼリオン王国騎士団戦術騎士隊【アルタイル】 が発足。なぜか千鳥が司令官に任命されてしまう。
戦えない、魔法も使えない、指揮の経験もない。
困惑する千鳥を待っていたのは、王子である身分を隠している隊長のエドガー、年下で聡明だが一途すぎるノエル、俺様で口の悪い元衛士隊のクラウディオ、外見に反してドSでマッドサイエンティストのフェルナンド、癖も事情も抱えたイケメン騎士たちだった。
最初は反発され、軽んじられ、失敗も重ねる千鳥。それでも彼女は食事、生活管理、観察力といった〝戦えないからこそ持つ力〟で騎士一人ひとりと向き合い、少しずつ信頼を勝ち取っていく。
聖女でも悪役令嬢でもない。戦場に立つことすらできない彼女は、やがて隊員たちを導く司令官として成長していく。
★にキャラクターイメージ画像アリ〼
※料理モノの物語ではありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
一条さん結婚したんですか⁉︎
あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎
嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡
((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜
⭐︎本編は完結しております⭐︎
⭐︎番外編更新中⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる