16 / 29
第16話 言葉に迷う
しおりを挟む
「歩夢は先天性心疾患で、生まれつき、心臓に穴が空いている状態なんです」
「え……」
信じがたかった。嘘であってほしかった。
でも、大夢先生は嘘をつくような顔をしていなかった。
暗く、顔に影がかかるようにうつむいていた。
それでも大夢先生は話を続けた。
「心臓の穴は成長するにつれて、塞がったり広がったり、人によってさまざまだそうで……。内科については僕も知識が浅いので、何とも言えない状態です。
とりあえずでここに入れてもらい、応急処置をしてもらいました」
「そう、ですか……」
重たい空気が部屋に溜まる。
「お兄ちゃん、僕はだいじょう――」
「歩夢が倒れたって聞いたんだけど……っ!!」
歩夢先生の言葉を遮ったのは、息を上げているあのかわいらしい女性だった。
「優姫乃……」
大夢先生が落とした言葉にあの時の、先生たちのいとこだと確信を持たされる。
「あ、大夢もいたのね。そのっ、歩夢は大丈夫、なの……?」
上がった息を整えながら話す彼女は、少し悲しげだが、現実を受け止めているようなまっすぐな眼をしていた。
強い人なんだろう。私と違って……。
「大丈夫だよ、優姫乃」
歩夢先生の撫でるような言葉を聞いて、私は胸が痛んだ。
こんな時にまで私の心は羨ましい、と優姫乃さんに対して思ってしまう。
はぁ、はぁ……。
負の感情の連鎖は私の息を上げた。
「大夢、この子休ませてくる」
そう、私は手を取られる。柔らかい手のひらをぎゅっと握り返して、私は優姫乃さんに導かれるまま私の部屋に戻った。
「佐々木さん、大丈夫?」
「っ! どうして私の名前を――」
「部屋に書いてあったもの。前はこの部屋で会ったわね。
私は村瀬 優姫乃。
看護師になるために勉強をしている19歳なの」
看護師……。
聞いた途端、私は大夢先生に言われた進路の話が思い立った。
「優姫乃さん! 私、私……!」
言葉がまとまらないのに話し出した私を「ゆっくりでいいよ」とほほ笑みかけてくれる優姫乃さんに、私はやっとの思いでこう言葉を落とした。
「看護師になりたい」
看護師になって歩夢先生と一緒に仕事がしたい。
ここにきてたくさんの人が私を支えてくれたから、私も誰かを支える仕事がしたい。
誰かの役に立ちたい。
誰かに寄り添いたい。
人を、笑顔にしたい。私の分まで笑ってほしい。
ううん、世界でいちばん幸せっていう笑顔を私としてほしい。
そんなことが頭の中を渦まいて、言葉にできたのはたったの一言だけど、この一言が私の今後を変えた。
病によって与えられた選択肢は私を変えたのだ――。
「え……」
信じがたかった。嘘であってほしかった。
でも、大夢先生は嘘をつくような顔をしていなかった。
暗く、顔に影がかかるようにうつむいていた。
それでも大夢先生は話を続けた。
「心臓の穴は成長するにつれて、塞がったり広がったり、人によってさまざまだそうで……。内科については僕も知識が浅いので、何とも言えない状態です。
とりあえずでここに入れてもらい、応急処置をしてもらいました」
「そう、ですか……」
重たい空気が部屋に溜まる。
「お兄ちゃん、僕はだいじょう――」
「歩夢が倒れたって聞いたんだけど……っ!!」
歩夢先生の言葉を遮ったのは、息を上げているあのかわいらしい女性だった。
「優姫乃……」
大夢先生が落とした言葉にあの時の、先生たちのいとこだと確信を持たされる。
「あ、大夢もいたのね。そのっ、歩夢は大丈夫、なの……?」
上がった息を整えながら話す彼女は、少し悲しげだが、現実を受け止めているようなまっすぐな眼をしていた。
強い人なんだろう。私と違って……。
「大丈夫だよ、優姫乃」
歩夢先生の撫でるような言葉を聞いて、私は胸が痛んだ。
こんな時にまで私の心は羨ましい、と優姫乃さんに対して思ってしまう。
はぁ、はぁ……。
負の感情の連鎖は私の息を上げた。
「大夢、この子休ませてくる」
そう、私は手を取られる。柔らかい手のひらをぎゅっと握り返して、私は優姫乃さんに導かれるまま私の部屋に戻った。
「佐々木さん、大丈夫?」
「っ! どうして私の名前を――」
「部屋に書いてあったもの。前はこの部屋で会ったわね。
私は村瀬 優姫乃。
看護師になるために勉強をしている19歳なの」
看護師……。
聞いた途端、私は大夢先生に言われた進路の話が思い立った。
「優姫乃さん! 私、私……!」
言葉がまとまらないのに話し出した私を「ゆっくりでいいよ」とほほ笑みかけてくれる優姫乃さんに、私はやっとの思いでこう言葉を落とした。
「看護師になりたい」
看護師になって歩夢先生と一緒に仕事がしたい。
ここにきてたくさんの人が私を支えてくれたから、私も誰かを支える仕事がしたい。
誰かの役に立ちたい。
誰かに寄り添いたい。
人を、笑顔にしたい。私の分まで笑ってほしい。
ううん、世界でいちばん幸せっていう笑顔を私としてほしい。
そんなことが頭の中を渦まいて、言葉にできたのはたったの一言だけど、この一言が私の今後を変えた。
病によって与えられた選択肢は私を変えたのだ――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていました~
あんねーむど
恋愛
栄養士が騎士団の司令官――!?
元社員食堂の職員・白城千鳥は、ある日突然「聖女」として異世界アルゼリオン王国に召喚される。
しかし期待された聖女の力はまったく発現されず、判明したのは彼女がただの一般人だという事実。
役立たずとして放逐されるかと思いきや、千鳥は王宮食堂で料理人として働くことに。慣れない異世界生活の中でも、栄養管理や献立作りを通して騎士たちの体調を支え、静かに居場所を築いていく。
そんなある日、問題児ばかりを集めた新設部隊アルゼリオン王国騎士団戦術騎士隊【アルタイル】 が発足。なぜか千鳥が司令官に任命されてしまう。
戦えない、魔法も使えない、指揮の経験もない。
困惑する千鳥を待っていたのは、王子である身分を隠している隊長のエドガー、年下で聡明だが一途すぎるノエル、俺様で口の悪い元衛士隊のクラウディオ、外見に反してドSでマッドサイエンティストのフェルナンド、癖も事情も抱えたイケメン騎士たちだった。
最初は反発され、軽んじられ、失敗も重ねる千鳥。それでも彼女は食事、生活管理、観察力といった〝戦えないからこそ持つ力〟で騎士一人ひとりと向き合い、少しずつ信頼を勝ち取っていく。
聖女でも悪役令嬢でもない。戦場に立つことすらできない彼女は、やがて隊員たちを導く司令官として成長していく。
★にキャラクターイメージ画像アリ〼
※料理モノの物語ではありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
一条さん結婚したんですか⁉︎
あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎
嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡
((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜
⭐︎本編は完結しております⭐︎
⭐︎番外編更新中⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる