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きっかけ編
7話 忘年会
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最近、大きなニュースが入り、上条はそれの取材を任されているらしく、会社で会うことはあまりなかった。その代わりにメールがよく来るようになった。
[ジョセ:レンゲちゃん、ここの韓国スイーツが人気らしいよ!]9:50
[山下蓮華:OLみたいな会話ですね]10:14
[ジョセ:ねー、行こうよ!]10:15
[山下蓮華:行きません]10:15
メールで会話するのは、顔を見ないで済むので楽だった。
久しぶりに上条が午後出社したその日は「一緒に帰ろうよ」と言われて、上条と会社最寄り駅まで一緒に歩いて帰ることとなった。
うちの会社は駅近くのビルの3階を借りてオフィスにしている為、電車通勤の社員が多い。これまでは、同じ時間に仕事が終わっても会社を出るタイミングをずらすようにしていたが、初めて誘われて戸惑ったのもあり、何を話そうか考えていると、上条は思い出したように年末の忘年会のことを俺に聞いた。
「忘年会は来ないの?」
「はい」
「たしか……夏にやった飲み会は来てたよね。どうだった?」
「楽しかったです」
実際は楽しくなかった。無礼講だからといっても、遠慮のない人間には「山下くんって本当に暗いよね」と言われるし(飲み会って大体こういう人が一人はいる)、社員達の既に作られた空気に入っていくのもしんどい。もう会社の雰囲気も業務内容もくだらない噂話も知り尽くしてる人々だけで集まっていて、その内輪の空気を読めないといけない。これは自分には向いてない。
「来れないなら代わりに、これから俺と二人で忘年会やるっていうのはどう?」
そういえば今日は金曜日だと、俺は思い出す。
居酒屋のカウンターに並んで座って話していると、本当にただの(仲の良い?)同僚のようだと思った。
ビールと出される海鮮料理をつまみながら、俺は上条が話す仕事の話を聞いた。彼は意外と私生活のことをあまり話さないと思う。佐藤さんと同級生だったことも俺は知らなかったし、普段何しているのかもよく分からない。
「俺の母親、心配性でさ、全然結婚しないからもうお見合いしなさいって。俺のセクシャリティがバレたらやばいかも?」
そんな中で上条がふと漏らした話は、俺にとって晴天の霹靂だった。それを聞いて、自分がゲイだとバレたら両親が卒倒するかも、と上条が以前言っていたのを思い出す。
「お見合いするんですか?」
「しないよ。でも、実家に帰ればお見合いの話ばっかで」
「彼氏がいるって言ってみたら?」
「レンゲちゃんが彼氏役やってくれるの?」
「はい」
「即答でびっくりだよ」
何というか……。
「ジョセ先輩が望まないことを強要されるのは嫌です。だから……」
「だから?」
「ええと……お見合いしないで済む方法を考えたいと思います」
「彼氏役じゃなくて、彼氏にはなってくれない?」
「ええと……」
上条の視線を感じる。そっと見つめ返すと、テーブルに肘をついた彼は満面の笑みだった。
「俺の愚痴ばっかでごめんね。とっても楽しかったよ」
「……俺も楽しかったです」
「本当に?」
「本当です」
上条と別れて、一人で歩く。周りの街路樹には、もう葉が一つも付いておらず寂寥感がある。もうそんな季節か。寂しい感情はそのせいか。……俺、上条がいなくて寂しかったのか。
(久しぶりに話した……)
[ジョセ:レンゲちゃん、ここの韓国スイーツが人気らしいよ!]9:50
[山下蓮華:OLみたいな会話ですね]10:14
[ジョセ:ねー、行こうよ!]10:15
[山下蓮華:行きません]10:15
メールで会話するのは、顔を見ないで済むので楽だった。
久しぶりに上条が午後出社したその日は「一緒に帰ろうよ」と言われて、上条と会社最寄り駅まで一緒に歩いて帰ることとなった。
うちの会社は駅近くのビルの3階を借りてオフィスにしている為、電車通勤の社員が多い。これまでは、同じ時間に仕事が終わっても会社を出るタイミングをずらすようにしていたが、初めて誘われて戸惑ったのもあり、何を話そうか考えていると、上条は思い出したように年末の忘年会のことを俺に聞いた。
「忘年会は来ないの?」
「はい」
「たしか……夏にやった飲み会は来てたよね。どうだった?」
「楽しかったです」
実際は楽しくなかった。無礼講だからといっても、遠慮のない人間には「山下くんって本当に暗いよね」と言われるし(飲み会って大体こういう人が一人はいる)、社員達の既に作られた空気に入っていくのもしんどい。もう会社の雰囲気も業務内容もくだらない噂話も知り尽くしてる人々だけで集まっていて、その内輪の空気を読めないといけない。これは自分には向いてない。
「来れないなら代わりに、これから俺と二人で忘年会やるっていうのはどう?」
そういえば今日は金曜日だと、俺は思い出す。
居酒屋のカウンターに並んで座って話していると、本当にただの(仲の良い?)同僚のようだと思った。
ビールと出される海鮮料理をつまみながら、俺は上条が話す仕事の話を聞いた。彼は意外と私生活のことをあまり話さないと思う。佐藤さんと同級生だったことも俺は知らなかったし、普段何しているのかもよく分からない。
「俺の母親、心配性でさ、全然結婚しないからもうお見合いしなさいって。俺のセクシャリティがバレたらやばいかも?」
そんな中で上条がふと漏らした話は、俺にとって晴天の霹靂だった。それを聞いて、自分がゲイだとバレたら両親が卒倒するかも、と上条が以前言っていたのを思い出す。
「お見合いするんですか?」
「しないよ。でも、実家に帰ればお見合いの話ばっかで」
「彼氏がいるって言ってみたら?」
「レンゲちゃんが彼氏役やってくれるの?」
「はい」
「即答でびっくりだよ」
何というか……。
「ジョセ先輩が望まないことを強要されるのは嫌です。だから……」
「だから?」
「ええと……お見合いしないで済む方法を考えたいと思います」
「彼氏役じゃなくて、彼氏にはなってくれない?」
「ええと……」
上条の視線を感じる。そっと見つめ返すと、テーブルに肘をついた彼は満面の笑みだった。
「俺の愚痴ばっかでごめんね。とっても楽しかったよ」
「……俺も楽しかったです」
「本当に?」
「本当です」
上条と別れて、一人で歩く。周りの街路樹には、もう葉が一つも付いておらず寂寥感がある。もうそんな季節か。寂しい感情はそのせいか。……俺、上条がいなくて寂しかったのか。
(久しぶりに話した……)
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