蓮華は春に咲く

雪帽子

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それからの二人編

10話 朝はトーストと……

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 その日の夜は、亡くなった兄を夢に見た。自分の中で眠っていた存在の兄。上条との話に出したことで、俺は彼のことを思い出したのだろう。
 ……今の俺をどう思っているだろうか?
「レンゲちゃん、おはよう」
「ジョセ先輩、眠れましたか?」
「うん、よく眠れたよ」

 朝食はトーストに茸とほうれん草のソテー、ベーコンにはレタスが添えてある。モーニングみたいだ。
(上条と俺の人間力の差か……!)
 自宅に帰ってからもちゃんとした朝食を食べようと思った。
「今日はどこか行かない?」
「韓国スイーツ食べに行きますか?」



 上条と二人で訪れた韓国スイーツのカフェは賑わっていて、カフェに入るまでにかなり時間が掛かった。自分達と同年代、20代くらいに見える男女が、エプロンをつけて注文を受けている。
「ジョセじゃん」
 その男性は、目立つ青い髪色をしていたので、こちらの席に近づいてきていたのがよく分かった。それを見た上条の表情が暗い方に変わったように感じていて、おそらく元彼だと直感で思った。
「誰、この子? もしかして」
 男性は俺を見て、顎を触る仕草で考え込んだ。
「お前には関係ないよ」
 上条にそう返された男性はカッとなって叫ぶ。

「何だよ、ムカつくな! 俺、お前の元彼だろ? お前が誰にもバレたくないっていうから、ずっと我慢して家だけで会ってたのに、ある日急に飽きたのか、別れるってメールで言っただろ? この子は特別なのかよ……?」

「えっ、何の話?」
 その声に振り向くと、驚くことに宮口さんがそこにいた。偶然にも、この場に居合わせたらしい宮口さんは、バツが悪そうな顔をしている。
「あっ、いや、悪い。ジョセと山下くん、お疲れ。また会社で」
 宮口さんはカフェから出て行った。上条が彼の跡を追って出て行ってしまい、俺と青髪の男性は二人で残される。
「……ええと……あなたは大丈夫ですか?」
「俺はゲイだって、この店の人も皆知ってるから。……ごめん、あいつの好きな人だって思ったら意地悪しちゃった。ちゃんと話し合ってね?」
「はい」
 上条の元彼に挨拶をして、俺もそのカフェを出た。

 辺りを隈なく探して、やっと見つけた上条は、路地裏の隅で蹲ってうずくまっていた。手にはスマホを握っている。
「最悪だ……会社の人間に知られた」
 宮口さんがゲイについてどう思うのかは分からない。あとは、宮口さんは噂を周りに言いふらすような人間には見えないが、何かの拍子で上条のことを口にしてしまうこともあるかもしれない。
 社内の人間に秘密を知られたなら、人間関係がガラッと変わることももしかしたらあるのかもしれない。下らない噂で盛り上がったり、相手を追い詰めたり、どこにでもそのリスクは潜んでいる。

「そうだとして……ジョセ先輩は、ゲイだと知ったら離れていくような人に好かれたいですか? 仲良くしたいですか?」

「……好かれたいよ」
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