好きだといわせたい

雪帽子

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12話 ラブソング

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 秋頃、俺はポップバンドを組むことにした。メンバーは、俺以外は40・50代の男性。社長が引き抜いてきたベテランばかりで、俺よりも知名度のあるメンバーだ。その中でもリーダー的な役割を任された後藤は、その方向性について俺に話したいことがあるようで、呼び出された喫茶店で話を聞いた。
「Mauve(モーヴ)は、ラブソングを歌うバンドにしたい」
「ラブソング……?」
「お前と会った時、いや、もっと前に、黎のドラマの主題歌を聴いた時にそう思った。黎、恋愛の歌詞は書けるか?」
 歌詞は忍のことを。その時に思った。

 月野明つきのあかりは、俺や忍の所属する事務所の若手女優で、忍は去年撮影した映画で共演して以来、彼女と仲良くしているという話を聞く。月野は瞳が大きく、優しい笑い方もどこか忍に似た雰囲気の女性だ。
 忍がSNSに彼女との写真を載せていることがたまにあった。月野の方は、異性だからというのをあまり気にしていないのか、忍との写真をかなり頻繁に載せているのを見かける。

「こういう見た目してると、恋愛体質だと思われる。これって損じゃないですか?」
 新しいドラマの撮影現場で会った彼女にそう言われた。確かに俺もそんな印象で彼女のことを見ていたので、申し訳ないと思った。
「皆は、私がしののことを好きだと思ってるけど、別の人にずっと片思いしてるの。だから、他の恋愛をする気はないんです。しのにもこの話してて、仲良しだから……友達としてですよ?」
 月野は忍との交際疑惑がネットで囁かれていて、彼女が叩かれているのを目にすることもあった。
「それを何で俺に?」
「Mauve(モーヴ)の歌を聴いてたら、黎さんの好きな人は分かります。心配させたくなくて。黎さんにも、しのにも」
「しのにも?」
「私、しのが好きな人も何となく分かります。大切な人には、大切なもの、あげたらどうでしょう?」

 今まで人に何かをプレゼントしたいと思ったことがなかった。時計をプレゼントした夜、忍はMauveの歌が好きだと言ってくれた。

「……今度の黎の誕生日はどうする?」
「忍と一緒にいれれば」
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