好きだともういわない

雪帽子

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本編

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—以前、深夜ドラマで人気を人気を博した「Difficulty」のスペシャルドラマが今夜放送されますが、心境はいかがでしょうか?

黎:一年越しのスペシャル放送ということで、楽しみにしてくださっている方々の期待に応えられるような新作になっていますのでご期待ください。

忍:僕の誕生日(7月2日)に放送されるということで、黎さんや皆さんとお祝いできて本当に嬉しいです。ファンの皆さんに人生で一番忘れられない誕生日にしてもらいたいです。是非、SNSを盛り上げてくださると嬉しいです。黎、一緒に観ようね?
黎:もちろん。大好きだよ。

——お二人は「れいしの」というコンビの愛称で呼ばれていますね! お二人が仲良く旅をしたりお話したりしているYouTubeの再生数は、な、なんと億を超えているのだとか! 今回、大人気カップルの再共演ですが、心境はいかがですか?

忍:以前は黎と二人でYouTubeをよく撮っていて、再生回数がすごかったので、それでがっぽり儲けていたのですが……。(しゅんとした顔)

——おい!(※ツッコミ不在なので、私がツッコミます)

忍:最近は二人の時間が合わず、YouTube撮影できなかったので、れいしのファンの皆様に早く「Difficulty」をお届けしたかったです。本日、放送されるということで、とても嬉しく思っています。

——21歳になる忍くんを皆で応援しましょうね! お二人が印象に残っているシーンは?

黎:ラストのキスシーンですね。忍が光に照らされていて、背景の自然も色味が綺麗で、あの時の忍の表情が印象に残っています。
忍:僕は黎とのシーンは全部大切だよ?
黎:……可愛い。(照れ顔)

——仲良く手を繋いで、黎くんが忍くんの頬にキスを! 尊い~! では、二人がイチャイチャし始めてしまったので、私から。「Difficulty」スペシャルバージョン、どうぞご覧ください。

***

 ピコン。「みてみて、忍くんのSNS更新されてる!」

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また会えますように。
#れいしのforever

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***

 黎と同棲しているのが、週刊誌にバレた。お互い男性で、バンドのボーカルやモデルや俳優としての仕事もあって、こんなこと許されるわけがなくて。ずっと恐れていたことが起こってしまった。
「黎、別れてほしい。ごめんね」
「……何で?」
「他に好きな人ができたから」
 自分とは真逆の黎に惹かれた。自分にはないものを持っている人が好きで……会えば会うほど、離れたくなくなった。

***

 今日はLovLisa(ラブリサ)ことリサとのモデル雑誌の公式YouTube撮影だった。二人で読者から送られてきたアンケートに答えるというものだったけど、それだけでは堅苦しくなってしまうので、「時折二人の雑談を混ぜてください」とスタッフさんの指示があった。
「最近、ずっとモデルの撮影一緒だったよね。私のこと「リサ」って呼ぶの仲良い人達だから、忍もそう呼んでくれて嬉しい」
「リサとは、結構仲良くなったと思ってるよ?」
「でも忍はSNSに私との写真載せないよね」
 リサが寂しそうに目を薄める。
「そういえば!」
 リサが話題を変える。
「何で黎さんとの写真ばっかりSNSに載せてるの? 黎さんのSNSも忍との写真ばっかり……」
「……好き合ってるから?」
 リサと近くで顔を見合わせて笑う。彼女を覗き込むように、深い意味ありげに上目遣いで笑ったからか、一瞬リサの表情が固まったように見えたが、その後は何事もなく笑顔を返してくれた。
「私とも写真たくさん撮ってるのに」
「リサとの写真はスマホにいっぱいあるよ? あと裏垢にたくさん載せてるから」
 裏垢はリスクヘッジのために作ってなかったけど、リサは僕が冗談を言ったことを理解して、あはは、といつもの快活な表情を見せた。
「女性との写真はあんまり載せないように、社長から言われた気がするんだよね。黎さんもその時一緒にいて……今度リサとの写真も載せるね」
「ありがとう。実は私、「れいしの」のファンなんだよね。二人のYouTubeも見てる。二人とも超イケメンだからどんな話してるんだろうって気になって」
「黎さん見てると超イケメンだな~って思うよ! しかも、黎さんは頭も良いし、性格も良いし、ああいうのスパダリ? って言うの教えてもらった! 僕が完全にお世話されてる感じ。勉強とかも教えてもらってるよ」

 その後は、うちの事務所のツッキーの変人ぶりがやばいという話になり、事務所が違うリサに面白おかしく話して終わった。
「……それで、アンナとツッキーと撮影の合間にパン屋さんに行ったんだけど、ツッキーがそこにあったパンの耳をいきなり食べ始めて……」
「ええっ、ツッキーってそんな感じなの?」
「公では隠してるけど、事務所の人達と一緒だとやばいから、ツッキー。こないだ、黎さんの前でMauveモーヴの曲アカペラで熱唱して、黎さん引いてて笑っちゃった」
「あはは、でも事務所のムードメーカーなんだね~」
「うん、そんな感じ~」
 リサはモデルだけど擦れてなくて明るくて、美人で、人の悪口を言わない優しい人間だと思う。連続で撮影をしていたこの何日間でも、その印象は変わらなかった。

「でも、いいな~。私はパン屋さんとか連れてってくれないじゃん、忍」
「パン屋さん行きたかったの? じゃあ、今度行こうね」
 視線から、何となく彼女からの友情だけではない気持を察したが、僕は知らないふりをした。

***

「私、実はずっと恋愛とか苦手で……でも、初めて付き合いたい人ができたの」
 緊張しているのか、リサの手が震えている。彼女のことを可愛いと思う。黎のことを忘れるために、利用するのは気が引けるほどには。
「忍、付き合って」
 こくんと、頷く。機材等をバラして、誰もいなくなった真っ白い会議室で、リサと二人で並んで座っている。

 ガチャリとドアが空いて、黎が入ってくる。一瞬空気が止まった。
「……忍、事務所行くなら送る」
 昨日、別れ話をしたというのに、態度が変わらないのは、黎が大人だからなのか、それとも子供だからなのか分からない。そんな言葉に期待してしまう程には、黎のことがまだ好きで諦められない。
「……片瀬さんに送ってもらうから大丈夫。マネージャーさんもいるし、いつまでも面倒見てもらわなくて大丈夫だから」
 それが今できる最善の返答だった。

 黎はMauveモーヴとしての音楽活動と、俳優としての活動も順調で、しかも最近では番宣で出演するバラエティで、冗談の通じない黎のキャラクターが受けているようだった。僕はというと、事務所の制作する作品にしか出ないという契約があり、なかなか俳優としては希望の作品に出ることが叶わないので、俳優活動は見送っていて、モデルとして活動することにしていた。
 そんな僕を応援してくれている黎は、その契約を何とかできるように、社長に働きかけてくれているらしい。

 本当に黎は優しい。だから、離れなきゃと思う。

 黎、ごめんね。さようなら。
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