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24 まだ知らない自分
24
――夕刻。
大公の執務室。
「……では、ヴィオラ。先ほどの件について、貴女にいくつか確認しますが……いいですか?」
「はい。大丈夫です」
穏やかな表情の大公。
けれど、その眼差しはどこか厳しくて。
……なんだか居心地が悪い。
「貴女は、自分の歌に何か……特別なことをした覚えはありますか?」
「い、いえ……いつも通り、普通に歌っていただけです。なのに突然あんなことになって……大公殿下が駆けつけてくれなかったらどうなっていたことか……」
意図してなにかをしたわけではない。
本当にいつも通り、ただ歌っていただけ。
そもそも、私に意図してなにかできる能力はない。
小さな炎さえ私は――灯せないのだから。
「ふむ……」
「あ、あの。ルイスには魔力がないと以前お聞きしました。でも本当は魔力があった……ということですか?」
「いえ。ルイスに魔力はありませんよ、何度も神殿で調べました」
「でも、さっき!」
「ええ。にもかかわらず、ルイスは魔法を使った。私にはそれが不思議でならない」
大公は淡々としていた。
けれど、その言葉の中には確信があるようだった。
「……大公殿下は私の歌が、関係しているとお考えですか?」
「無関係とは……少々考えにくい。少なくともルイスが魔法を発動できたことはこれまで一度もない。魔法とは魔力を持つ者が術式と呪文の言葉を用いて発現させるものであって、魔力を持たない者がいくら呪文の言葉を口にしても、魔法を行使できないはずなのに……」
大公はそう言って、わずかに目を細めた。
「それって、つまり……?」
「貴女の歌が、ルイスに魔力を供給した……可能性があります」
「……え。供給?」
歌で魔力を、供給。
そんなことが、あるのだろうか。
聞いたことがない。
「もちろん、現時点ではこれはただの仮説に過ぎません。だが、現象としては筋が通る」
「私の歌が、魔力を誰かに与える? そんな……」
ありえない。
だって私は簡単な魔法すら使えないのだから。
「怖い、ですか?」
「え?」
「未知の力です。怖がるのも無理はありません」
こちらを見つめる赤い瞳は揺れていて。
私の事を心配しているように見えた。
「えと、少しだけ」
「ヴィオラ……」
怖くないと言えば、嘘になる。
でも。それ以上に。
「――でももし、本当にそんな力があるなら! 私はルイスの力になれるかもしれません」
「ルイスの?」
「はい。私が魔力を供給? すれば……ルイスは魔法が使えるということですから」
「……ならば。確かめてみるべきかもしれませんね」
「えと、確かめる? とは」
「王都にある神殿で、貴女の歌を調べてもらいましょう。魔力に関する調査機関として神殿は、最も信頼がおける場所です」
「あ、そっか。魔力量を調べるのも神殿ですものね!」
公爵家に引き取られたとき、公爵夫人に連れて行かれた。
だけど特になにか言われた記憶はない。
……でも、そういえば。
その後からだっただろうか、部屋を出ることを禁じられたのは。
「ええ。それに国王への結婚の挨拶もまだです。出向くにはちょうどいい機会でしょう」
「そ、そうですね……」
この結婚は王命。
国王陛下に無事結婚したと、ご挨拶しなければいけない。
けれど国王陛下との謁見なんて、考えただけで緊張してくる。
大丈夫だろうか。
「では王都に向かう準備を整えさせましょう」
「はい。よろしくお願いします」
――こうして。
私は王都へ向かうことになった。
まだ知らない自分のことを知るために。
――夕刻。
大公の執務室。
「……では、ヴィオラ。先ほどの件について、貴女にいくつか確認しますが……いいですか?」
「はい。大丈夫です」
穏やかな表情の大公。
けれど、その眼差しはどこか厳しくて。
……なんだか居心地が悪い。
「貴女は、自分の歌に何か……特別なことをした覚えはありますか?」
「い、いえ……いつも通り、普通に歌っていただけです。なのに突然あんなことになって……大公殿下が駆けつけてくれなかったらどうなっていたことか……」
意図してなにかをしたわけではない。
本当にいつも通り、ただ歌っていただけ。
そもそも、私に意図してなにかできる能力はない。
小さな炎さえ私は――灯せないのだから。
「ふむ……」
「あ、あの。ルイスには魔力がないと以前お聞きしました。でも本当は魔力があった……ということですか?」
「いえ。ルイスに魔力はありませんよ、何度も神殿で調べました」
「でも、さっき!」
「ええ。にもかかわらず、ルイスは魔法を使った。私にはそれが不思議でならない」
大公は淡々としていた。
けれど、その言葉の中には確信があるようだった。
「……大公殿下は私の歌が、関係しているとお考えですか?」
「無関係とは……少々考えにくい。少なくともルイスが魔法を発動できたことはこれまで一度もない。魔法とは魔力を持つ者が術式と呪文の言葉を用いて発現させるものであって、魔力を持たない者がいくら呪文の言葉を口にしても、魔法を行使できないはずなのに……」
大公はそう言って、わずかに目を細めた。
「それって、つまり……?」
「貴女の歌が、ルイスに魔力を供給した……可能性があります」
「……え。供給?」
歌で魔力を、供給。
そんなことが、あるのだろうか。
聞いたことがない。
「もちろん、現時点ではこれはただの仮説に過ぎません。だが、現象としては筋が通る」
「私の歌が、魔力を誰かに与える? そんな……」
ありえない。
だって私は簡単な魔法すら使えないのだから。
「怖い、ですか?」
「え?」
「未知の力です。怖がるのも無理はありません」
こちらを見つめる赤い瞳は揺れていて。
私の事を心配しているように見えた。
「えと、少しだけ」
「ヴィオラ……」
怖くないと言えば、嘘になる。
でも。それ以上に。
「――でももし、本当にそんな力があるなら! 私はルイスの力になれるかもしれません」
「ルイスの?」
「はい。私が魔力を供給? すれば……ルイスは魔法が使えるということですから」
「……ならば。確かめてみるべきかもしれませんね」
「えと、確かめる? とは」
「王都にある神殿で、貴女の歌を調べてもらいましょう。魔力に関する調査機関として神殿は、最も信頼がおける場所です」
「あ、そっか。魔力量を調べるのも神殿ですものね!」
公爵家に引き取られたとき、公爵夫人に連れて行かれた。
だけど特になにか言われた記憶はない。
……でも、そういえば。
その後からだっただろうか、部屋を出ることを禁じられたのは。
「ええ。それに国王への結婚の挨拶もまだです。出向くにはちょうどいい機会でしょう」
「そ、そうですね……」
この結婚は王命。
国王陛下に無事結婚したと、ご挨拶しなければいけない。
けれど国王陛下との謁見なんて、考えただけで緊張してくる。
大丈夫だろうか。
「では王都に向かう準備を整えさせましょう」
「はい。よろしくお願いします」
――こうして。
私は王都へ向かうことになった。
まだ知らない自分のことを知るために。
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