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麗しの碧ちゃん

水黄緑の君の幻想

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「あ、碧ちゃん!? あれ?」
 幻想的な景色が一気に吹きとぶ。

 そこは見慣れた神明大学の校舎の中。しりもちをついていたのは……碧ちゃん?

「ごめんね。大丈夫?? あたし、なんか急にぼおっとして、変なモノが見えたって言うか」
「変なモノってぇ?」
 聞き返されたほたるは、顔がぼっと熱くなる。
 
(絶対、言えない)

 初恋にピリオドを打って、まだそんなに経っていないというのに、こんないかがわしい幻想を見るとは。
 しかも、大学の校舎の真っ只中で。

 篤との初恋を忘れるため、ずっとつけていたフローライトのネックレスを思い切って外した途端、こんな白昼夢を見るとは、自分が考えている以上に、あたしは欲求不満なんだろうか?

「い、いやぁ、なんかトムソーヤに追いかけられた夢、みたいな。実践英語がつまんなすぎて、脳が溶けちゃったかも。あは、あはは、ハハハ」
 あたふた言い訳するほたるの顔をじぃっと覗き込んで「そう簡単には落ちないか」と、碧ちゃんが肩をすくめた。

「え?」
「なんでもなーい。大丈夫、僕は気が長いからねー」
「?」

 と、ともかく変な妄想がバレずに良かったと、ほっとしながら、ほたるはさっきのとろけるようなイケメンを思い出して、こっそり赤くなる。

(それにしてもかっこよかったなー。高貴な感じで、源氏の君みたいで。水黄緑色の着物だったから……水黄緑の君?)

 勝手に妄想イケメンに名前をつけて、恥ずかしくなって、こほんっと咳払い。

(冷静に。冷静に)

 キャンパスの中庭に出ると、これまた暇そうな男子学生たちがほたるたち、いや碧ちゃんの姿に次々ロックオンされていく。
 こんなに可愛かったら、世界が違って見えるんだろうな。
 まさしく、バラ色の人生を歩めることだろう。
 なんて、羨ましい。
 男子学生じゃないけど、確かに、碧ちゃんとあたしは不釣り合いだ。
 朱に交われば赤くなる。で、あたしも可愛くなれないかなぁ。

(そういえば、なんであたし、碧ちゃんと仲良くなったんだっけ?)

 むむぅ、と考えたけれど思い出せなくて、まっ、いっか。とほたるは考えるのをやめた。

 代わりに、さっきの妄想イケメンをもう一度思い浮かべようとしたけれど、さすがは幻想。
 もう、曖昧になっている。

 ちょうど、鮮明な夢を見て目覚めた直後ははっきり覚えていたのに、ものの数分後には、忘れてしまっているような感じ。
 ちょっと残念。と、ほたるは小さくため息を吐いたのだった。
 
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