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神明三家の昔ばなし

むかーし、むかし。

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 むかーし、むかし。この神明山をぐるりと囲むように、佐世保家、花岡家、村山家という三つの有力地主があったそうな。

 下々の者たちは、三つの大地主を神明三家と呼んでおった。
 神明三家の当主たちは、虹色に輝く土地むしを体内に宿しておった。
 土地むしとは、宿主の土地を豊かに潤すむしじゃ。
 神明三家の当主は、代替わりの儀式を行い先代から土地むしを代々受け継ぐことで、長雨や日照りに悩まされることなく土壌を肥やし、豊富な作物を得ておった。
 土地むしの恩恵を賜った神明三家は、世代を重ね、豪農と呼ばれる金持ち農家になったのじゃった。

 ところが、時代がうつろい、神明山界隈に商人が住み始めると、やがて町ができた。瞬く間に商人の町は潤い、神明三家よりも金持ちの商人が現れ始めたのじゃ。
 すると、これまで神明三家を神様のように崇めてきた小作人たちが「これからは商人の時代じゃ」などと口にするようになった。
 このままでは、由緒正しい神明三家の威厳が損なわれてしまうと、焦りに焦った神明三家の当主たちは、寄り合い所に集まってどうしたものかと夜ごと相談しておったのじゃ。

 そんなある日、いつものように神明三家の当主たちが、酒を飲み飲み寄り合いを開いていると、トントン。と、戸を叩く者があった。

「こんな夜更けに誰じゃ」
 いぶかしみながら、戸を開けてみれば、そこには目の覚めるような緋色の山伏装束を纏った、世にも美しい顔立ちの男が立っておった。
 肌は雪のように白く、涼し気な目元には、歌舞伎役者のようにすーっと紅を引いている。

「狐が化かしに来よったか」
 近くの鍬に手をかける村山家当主に、深々とお辞儀をした緋色の山伏の男は、若葉が芽吹くような声で言った。

「わたくしは、むし屋にございまする」
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