ようこそ、むし屋へ2 ~麗しの碧ちゃん&むしコンシェルジュの卵編~

箕面四季

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ひいじいじの来客

椿の血を引く女の呪い

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「ふうむ。土地むしとカゲロウ虫で人工むしを作ったとなれば……あんたの先祖は、バタフライ効果療法を試したのだなぁ」

「ええ……。椿の血を引く女は男児を産み、その子が7つになる年の春に命が尽きる。これは、椿家の女が男児出産直後に聞かされる呪いです。椿の家の男児は生まれつき身体が弱いため、母親の命で男児の生命力を補い成人させる必要がありました。その命のやり取りを妊娠中に行うため、代々椿家の女は体内に『カゲロウ虫』を棲まわせていたようです。生まれた男児は立派に成人しますが、命を渡した母親は、子どもが7つになる年に命が尽きます。母親の命と引き換えに成人した息子は、嫁をとり、やがて二人の間に娘が生まれると、その娘は椿の親戚の家に嫁ぎます。そして娘は、椿の血を引く男児を産む。そうやって、椿の血筋は途絶えることなく続いていました。椿の血を引く女たちは、子を出産した直後に大金を渡され、カゲロウ虫の事を知らされました。加えて、子供を産んだ後にカゲロウ虫を取りだせば、生まれた子が死ぬとも告げられる。わが子が死ぬかもしれないと言われれば、カゲロウ虫を取りだすこともできず、母親たちは、泣く泣く宿命を受け入れるしかなかったのです」

「ふうむ……カゲロウ虫は、幼い男児を失った母親の深い悲しみに呼応するむしなんじゃ。一度子どもを失った母親が、次の子は、自分の命をささげてでも守りたいと強く願う。その母親の心にカゲロウ虫は巣くう。そうして、代々女系の子どもに受け継がれていくんじゃが、カゲロウ虫は、世代を重ねて受け継ぐほどに癒着が進んで引き剥がせなくなるんじゃ。憑りついた母親の娘の世代で腕利きのむし屋に頼めば取り出せるんじゃが『個』より『家』に重きを置いとった日本では、カゲロウ虫がついとると知りながら、飼い続ける家も多かったようじゃのう」
「ええ」と、優太君のお母さんが目を伏せる。

「椿の家でも『カゲロウ虫』を『跡取りむし』と呼んで、受け継がせていました。でも、ある時、事実を知って嘆き悲しむ母親の前に、緋色の山伏の恰好をしたむし屋と名乗る男が現れ、体内からカゲロウ虫を取りだして人工むしの外骨格を作り、そのカゲロウ虫と相性の良い土地むしを入れて、人工むしを誕生させれば、人工むしが及ぼす影響が巡り巡って、母子共々の命を助けることができると助言したそうです。さっき、蜻蛉さんが言ったバタフライ効果療法ですね。その母親は藁をもすがる思いでむし屋の話に飛びついた。そして椿家に気づかれないよう、密かにむし屋にカゲロウ虫を取り出してもらい、むし屋の不思議な力を借りて、母子は蝦夷地に渡りました。私はその母子の子孫にあたります」

「なるほどのう。闇のむし屋の隠れ蓑が蝦夷地にあるという噂は、あながち間違いではなかったか」
 ひいじいじは、赤ちゃんの優太君を眺め「ふうむ」と顎を撫でた。
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