ようこそ、むし屋へ2 ~麗しの碧ちゃん&むしコンシェルジュの卵編~

箕面四季

文字の大きさ
81 / 97
ひいじいじの来客

運命の出会い

しおりを挟む
「私はシングルマザーの家庭で育ちました。仕事が忙しい母に変わり、私を育ててくれたのは祖母です。祖母は、寝物語に椿の家の昔話を語り、本土のどこかにいる人口むしと、むしに縁のある人たちに近づいたらいけない。北海道から出たらいけないよと、私に言い含めました。もとより私は北海道が大好きだったので、本土に行くつもりはありませんでした。高校卒業後は地元企業に就職する予定だったんです」

「うぶ~」
 抱っこ紐の中から愛らしい声がした。

「あら、起きたのね」
 優太君のお母さんが赤ちゃんを覗き込んで、にっこりする。愛おしさがあふれ出ていて、見ているだけでこっちまで笑顔になる表情だった。

「あぶ~、あは」
 ご機嫌に喋る赤ちゃんをあやしながら、優太君のお母さんは続けた。

「私の通っていた高校は進学校でした。学業優先で修学旅行もなかったんです。でも、それじゃ寂しいよねって、友達が修学旅行を計画したんです。その旅行が、人生初にして最後の本土旅行になる予定でした。その旅行中、私は、友達とはぐれてしまったんです。携帯と財布を入れたバッグまで失くして、挙句、金髪のヤンキーに絡まれていた私を助けてくれたのが夫です。もやしみたいにひょろひょろな身体を精一杯踏ん張って、足をガクガクさせながら、弁護士の名刺をもんどころみたいに突き付けて、必死に追い払ってくれたんです。そのあと一緒にバッグも探してくれて、友達のところまで送り届けてくれた。歳も離れていて、全然カッコよくないのに、私には王子様に見えました。ビビビと来たっていうのはこういうことかって、運命を感じちゃったんですよね」

 可笑しそうにクスクス笑う優太君のお母さんに、ひいじいじもショボショボの目でにっこりする。

「旦那さんのこと、愛しとるんじゃねぇ」
「はい。とっても」
 清々しく言い切って「だから予感があったんです」と、優太君のお母さんは続けた。

「出会った瞬間、私の中のぽっかり空いた穴のような部分が、じんじん疼くような感覚もして、この人は、祖母の昔話に関係のある人に違いないと、ピンときました。出会ってしまったのだ、と、直感したんです。同時に、もう離れられないと、思いました。次の日、貰った名刺を頼りに、彼が立ち上げたばかりの個人事務所に、お菓子を持ってお礼に行きました。再び彼に会い、他愛のない話をする中で、私は絶対にこの人を好きになって、いつかこの人の子どもを産むことになると、確信しました。だから、私は、半ば押し掛けるように夫の事務所で事務員に雇ってもらい、仕事の合間に佐世保家と椿家の過去や、私たちが家族になることで起こる未来の可能性について、徹底的に調べることにしました。夫の地元にある神明大学では、地元の伝承を学べる郷土歴史学部の夜間コースがあって、そこにも通った。そして」

 優太君のお母さんは、意思のこもった瞳で、ひいじいじを見つめた。

「すべてを知った上で、私は夫と結婚し、この子を産み、今、蜻蛉さんを訪ねています。決して、やみくもにお願いしているわけでも、やけくそになっているわけでもありません」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

美少女仮面とその愉快な仲間たち(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
未来からやってきた高校生の白鳥希望は、変身して美少女仮面エスポワールとなり、3人の子ども達と事件を解決していく。未来からきて現代感覚が分からない望みにいたずらっ子の3人組が絡んで、ややコミカルな一面をもった年齢指定のない作品です。

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

エリちゃんの翼

恋下うらら
児童書・童話
高校生女子、杉田エリ。周りの女子はたくさん背中に翼がはえた人がいるのに!! なぜ?私だけ翼がない❢ どうして…❢

たったひとつの願いごと

りおん雑貨店
絵本
銀河のはてで、世界を見守っている少年がおりました。 その少年が幸せにならないと、世界は冬のままでした。 少年たちのことが大好きないきものたちの、たったひとつの願いごと。 それは…

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

処理中です...