その都市伝説を殺せ

瀬尾修二

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一章

四話

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「サボればいいじゃん。しかも、隣の家にいた化け物って山田さんだろ? ビビリ過ぎ」
 二人は、学校の校舎裏に移動していた。この場所は特別教室のすぐ側なので、一時限目が始まる前は閑寂としており、化け物云々という話をしやすい。
 和義が深刻な顔付きで事情を伝えると、達也は笑い出した。その動きに合わせて、明るく脱色された茶髪が僅かに揺れる。
 和義は急に恥ずかしくなり、(もしかして俺は、過敏に反応していたのか?)と思いつつ、何とか言葉を絞り出す。
「訳分からん状況に、いきなり放り込まれたんだから、仕方ないだろ…」
「それにしたって、お前…」
 達也は、急に黙り込んで俯くと、虚空を見上げてプルプルと震えだした。仕舞には、「あ、あぁっ! 化け物が! た、たすけてぇ!」と情けない悲鳴を上げる。
 自分の真似を大袈裟にしていると気づいた和義は、
情けなさを誤魔化すために、にやけた達也の腹を小突いた。
「そこまで、ビビってなかっただろうが」
 だが、和義も段々とおかしくなってきて、笑い出してしまう。いつしか、達也の顔に浮かんだ笑みの種類が変化していた。
(もしかして、気を使ってくれたのかな)
 和義は、校舎の壁にもたれ掛かったまま腰を落す。同じく犬走りの上に座り込んだ達也が、落ち着きを払ってこう言った。
「まぁ、すぐ慣れるって。俺もそうだったし」
 「そうか」と短く返事をして、和義は何となく空を仰いだ。そのまま、隣に座った少年のことを考える。

 去年の春、当時和義が通っていた中学校に、達也が転校してきた。まだ知り合って間もない頃、和義は達也にあまり良い印象を持っていなかった。ざっくばらんで明るい性格をしているが、無遠慮なところが煩わしい人間だと思っていたのだ。
 しかし、数週間も学校生活を共にする内に、多くの意外な側面を知ることとなる。 
 達也は、集団に混じると悪乗りしてしまう事もあるが、時に迎合しない芯の強さを見せた。彼の行動や態度からは、繊細さと図太さや、優しさと冷たさなど、両義性が窺えた。
 和義は、とらえどころのない奴だと思い始め、達也の姿を何となしに目で追うようになる。
 それでも必要最小限の会話しかしない時期が続いたが、ある切っ掛けから少しずつ話をする様になると、彼らは大した時間を掛けずに、爾汝の交わりとなった。

 控え目だが気持ちのいい日差しが、辺りに降り注ぐ。暫くの間、二人は黙って空を見上げていた。 
 不可思議な世界の事情に通じている友人と運良く出会えたので、大きな安心感を得たのだろう。和義は、心中にあった雨雲の様な不安が、段々と晴れていく事に気づいた。
 しかし疑問は山ほどあり、何から尋ねたらいいものかと考え込んでしまう。一方達也も、どこから説明しようかと悩んでいた。
 やがて、予鈴のチャイムが鳴り始める。
「いろいろ訊きたいだろうが、話せば長くなりそうだ。放課後にしてくんね?」
 相手が同意したのを見ると、達也は校舎に向かった。ところが歩きだして直ぐに振り返り、思い出したように口を開く。
「あ、でも早紀ちゃんが説明すると思うわ。やっぱ俺じゃなくて、あのこに訊いて」
 淡泊な調子でそう言うと、その場を後にした。「投げやがったな」と呟き、和義も腰を上げる。
 繊細な気遣いが出来る少年は、唐突にそれを止める図太さも持ち合わせていた。
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