4 / 39
一章
四話
しおりを挟む
「サボればいいじゃん。しかも、隣の家にいた化け物って山田さんだろ? ビビリ過ぎ」
二人は、学校の校舎裏に移動していた。この場所は特別教室のすぐ側なので、一時限目が始まる前は閑寂としており、化け物云々という話をしやすい。
和義が深刻な顔付きで事情を伝えると、達也は笑い出した。その動きに合わせて、明るく脱色された茶髪が僅かに揺れる。
和義は急に恥ずかしくなり、(もしかして俺は、過敏に反応していたのか?)と思いつつ、何とか言葉を絞り出す。
「訳分からん状況に、いきなり放り込まれたんだから、仕方ないだろ…」
「それにしたって、お前…」
達也は、急に黙り込んで俯くと、虚空を見上げてプルプルと震えだした。仕舞には、「あ、あぁっ! 化け物が! た、たすけてぇ!」と情けない悲鳴を上げる。
自分の真似を大袈裟にしていると気づいた和義は、
情けなさを誤魔化すために、にやけた達也の腹を小突いた。
「そこまで、ビビってなかっただろうが」
だが、和義も段々とおかしくなってきて、笑い出してしまう。いつしか、達也の顔に浮かんだ笑みの種類が変化していた。
(もしかして、気を使ってくれたのかな)
和義は、校舎の壁にもたれ掛かったまま腰を落す。同じく犬走りの上に座り込んだ達也が、落ち着きを払ってこう言った。
「まぁ、すぐ慣れるって。俺もそうだったし」
「そうか」と短く返事をして、和義は何となく空を仰いだ。そのまま、隣に座った少年のことを考える。
去年の春、当時和義が通っていた中学校に、達也が転校してきた。まだ知り合って間もない頃、和義は達也にあまり良い印象を持っていなかった。ざっくばらんで明るい性格をしているが、無遠慮なところが煩わしい人間だと思っていたのだ。
しかし、数週間も学校生活を共にする内に、多くの意外な側面を知ることとなる。
達也は、集団に混じると悪乗りしてしまう事もあるが、時に迎合しない芯の強さを見せた。彼の行動や態度からは、繊細さと図太さや、優しさと冷たさなど、両義性が窺えた。
和義は、とらえどころのない奴だと思い始め、達也の姿を何となしに目で追うようになる。
それでも必要最小限の会話しかしない時期が続いたが、ある切っ掛けから少しずつ話をする様になると、彼らは大した時間を掛けずに、爾汝の交わりとなった。
控え目だが気持ちのいい日差しが、辺りに降り注ぐ。暫くの間、二人は黙って空を見上げていた。
不可思議な世界の事情に通じている友人と運良く出会えたので、大きな安心感を得たのだろう。和義は、心中にあった雨雲の様な不安が、段々と晴れていく事に気づいた。
しかし疑問は山ほどあり、何から尋ねたらいいものかと考え込んでしまう。一方達也も、どこから説明しようかと悩んでいた。
やがて、予鈴のチャイムが鳴り始める。
「いろいろ訊きたいだろうが、話せば長くなりそうだ。放課後にしてくんね?」
相手が同意したのを見ると、達也は校舎に向かった。ところが歩きだして直ぐに振り返り、思い出したように口を開く。
「あ、でも早紀ちゃんが説明すると思うわ。やっぱ俺じゃなくて、あのこに訊いて」
淡泊な調子でそう言うと、その場を後にした。「投げやがったな」と呟き、和義も腰を上げる。
繊細な気遣いが出来る少年は、唐突にそれを止める図太さも持ち合わせていた。
二人は、学校の校舎裏に移動していた。この場所は特別教室のすぐ側なので、一時限目が始まる前は閑寂としており、化け物云々という話をしやすい。
和義が深刻な顔付きで事情を伝えると、達也は笑い出した。その動きに合わせて、明るく脱色された茶髪が僅かに揺れる。
和義は急に恥ずかしくなり、(もしかして俺は、過敏に反応していたのか?)と思いつつ、何とか言葉を絞り出す。
「訳分からん状況に、いきなり放り込まれたんだから、仕方ないだろ…」
「それにしたって、お前…」
達也は、急に黙り込んで俯くと、虚空を見上げてプルプルと震えだした。仕舞には、「あ、あぁっ! 化け物が! た、たすけてぇ!」と情けない悲鳴を上げる。
自分の真似を大袈裟にしていると気づいた和義は、
情けなさを誤魔化すために、にやけた達也の腹を小突いた。
「そこまで、ビビってなかっただろうが」
だが、和義も段々とおかしくなってきて、笑い出してしまう。いつしか、達也の顔に浮かんだ笑みの種類が変化していた。
(もしかして、気を使ってくれたのかな)
和義は、校舎の壁にもたれ掛かったまま腰を落す。同じく犬走りの上に座り込んだ達也が、落ち着きを払ってこう言った。
「まぁ、すぐ慣れるって。俺もそうだったし」
「そうか」と短く返事をして、和義は何となく空を仰いだ。そのまま、隣に座った少年のことを考える。
去年の春、当時和義が通っていた中学校に、達也が転校してきた。まだ知り合って間もない頃、和義は達也にあまり良い印象を持っていなかった。ざっくばらんで明るい性格をしているが、無遠慮なところが煩わしい人間だと思っていたのだ。
しかし、数週間も学校生活を共にする内に、多くの意外な側面を知ることとなる。
達也は、集団に混じると悪乗りしてしまう事もあるが、時に迎合しない芯の強さを見せた。彼の行動や態度からは、繊細さと図太さや、優しさと冷たさなど、両義性が窺えた。
和義は、とらえどころのない奴だと思い始め、達也の姿を何となしに目で追うようになる。
それでも必要最小限の会話しかしない時期が続いたが、ある切っ掛けから少しずつ話をする様になると、彼らは大した時間を掛けずに、爾汝の交わりとなった。
控え目だが気持ちのいい日差しが、辺りに降り注ぐ。暫くの間、二人は黙って空を見上げていた。
不可思議な世界の事情に通じている友人と運良く出会えたので、大きな安心感を得たのだろう。和義は、心中にあった雨雲の様な不安が、段々と晴れていく事に気づいた。
しかし疑問は山ほどあり、何から尋ねたらいいものかと考え込んでしまう。一方達也も、どこから説明しようかと悩んでいた。
やがて、予鈴のチャイムが鳴り始める。
「いろいろ訊きたいだろうが、話せば長くなりそうだ。放課後にしてくんね?」
相手が同意したのを見ると、達也は校舎に向かった。ところが歩きだして直ぐに振り返り、思い出したように口を開く。
「あ、でも早紀ちゃんが説明すると思うわ。やっぱ俺じゃなくて、あのこに訊いて」
淡泊な調子でそう言うと、その場を後にした。「投げやがったな」と呟き、和義も腰を上げる。
繊細な気遣いが出来る少年は、唐突にそれを止める図太さも持ち合わせていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。
選んだ職業は“料理人”。
だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。
地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。
勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。
熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。
絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す!
そこから始まる、料理人の大逆転。
ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。
リアルでは無職、ゲームでは負け組。
そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる