その都市伝説を殺せ

瀬尾修二

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一章

六話

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 8ヶ月ほど前に、和義の親友だった篠原一馬が殺された。
 犯人達は、下校中の一馬に因縁をつけて、現金を奪おうとした。だが強く抵抗をされたため、人気のない河川敷に連れ出し集団で暴行する。脳挫傷が直接の死因となり、遺体は数キロ離れた山中に遺棄された。
 未成年だった主犯格のAが、事件の三週間後に自首する。取り調べ中にAは、「時間が経ったら怖くなった」と供述した。
 Aと共に暴行した未成年の少年は、他に二人いた。それらBとCは、検察官送致後に強盗殺人と死体遺棄の罪で起訴され、公判は未だに続いている。
 唯一の成人であったDも暴行に加わり、車を運転して遺体を運んだ。強盗致死と死体遺棄の罪に問われて、Dには懲役十二年の判決が言い渡された。
 「何となく、態度が気に入らなかった」という遣り切れない犯行の動機や、遺族の焦燥した顔などの記憶を、和義はつい昨日の事のように思い出してしまう。

 のどかと言っていい街で起こった凶悪事件。捜査の進捗状況を、地元住民は固唾を飲んで見守った。
 そんな彼らの周囲には、影のように纏わり付く噂が絶えず存在した。噂は形を換え、街の有りと有らゆる場所で増殖していく事となる。
 この事件は、マスコミに連日取り上げられたため、大きな関心を呼ぶ。その結果、噂が飛び交う学校の教室で、井戸端会議に花を咲かせる住宅街の一角で、どんな[ネタ]をも欲しがるネット上で、強迫的と言っていいほど話題にされた。
 どんな形であれ人との繋がりを求める者達の、いい[ネタ]になったのだ。それは、顕示欲を満たすための手段でもあり、憂さ晴らしをするための手軽な標的でもあり、暇つぶしのための娯楽でもあった。
 事件発生から幾らもしない内に、[のどかな街]の中高生達が、被害者と加害者の人となりや個人情報をネットに流し始めた。
 一馬の同級生だったという匿名の人物が、詳細な情報をSNSで公開し、多くの同級生や元同級生がその後に続いた。一部の保護者や教師達まで彼らに追随していた事が、後に判明する。
 そこからは凄まじい早さで、[ネタ]がSNSや動画サイト、匿名掲示板に伝播していく。
 かくして、事実と不実がネット上にばら撒かれていった。
 とはいえ、事件の情報に鮮度が無くなると関心も薄れていき、狂乱めいたお祭りは一時下火となった。

 ところがある時期を境にして、事件への関心が再び高まっていく。
 主犯格のAが、就寝中に心不全で死亡したのだ。その直後から、こんな怪談が囁かれ始めた。

「被害者の怨念が、犯人を祟り殺した」

 [ネタ]が怪談に形を変えて、再び人々の前に姿を現したのだ。
 その怪談は、匿名掲示板の書き込みから生まれた。「未来視をした時に、犯人が死ぬ光景を見た」というものだ。当初、予知の書き込みは殆ど誰にも相手にされず、数人に嘲笑されるだけの反響しか起こらなかった。
 犯人が逮捕される前は、荒唐無稽な予想や予知を披露して、衆目を集めようとする者達が多くいた。その内の一つが、犯人の死亡をたまたま当ててしまったのだ。
 この書き込みは神格化されていく。大抵の人間は只の偶然だろうと思っていたが、ごく一部の人間が真に受けてしまった。事件への関心が再燃するにつれて、その[ごく一部]の人間もどんどん増えていった。
 事件にまつわる噂話の殆どが、事実を脚色したものだった。有り得そうだと思われる改変もされて、人から人へ受け渡ししやすい形式になっていく。そういった多くの噂話の中で、怨念が殺したという現実味のない怪談は、異彩を放っていた。

 被害者や遺族への誹謗中傷を煽るような噂も、数多くあった。むこの犯罪被害者を叩くために多大な労力を割く人間は、世の中に掃いて捨てるほどいる。
 不謹慎だと憤ったり自重する者も多いが、流言飛語を楽しむ輩も一定数存在する。一馬が通っていた中学校ですら、はばかる事なく流言を口にする者達がいた。
 そんな人物を見つけると、和義は激しく攻撃した。教師や友人達も、最初の内は彼に同情していたが、感情的な態度が一向に収まらないのを知ると、徐々に距離を取っていった。
 周囲とのトラブルが絶えず、両親や友人に心配と迷惑をかける。彼は、そんな日々を送っていたが、次第に家族が参っていったため、自制せざるを得なくなった。
 数ヶ月経っても、不謹慎な噂を聞くことがある。
そのような場面に出くわしても、周囲に掛ける負担を思うと、当たり散らす事が出来なくなっていた。

 だが彼は今、こう思っている。(死後の世界があるのなら、あの怪談を一概に否定出来なくなったのでは)、と。
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