その都市伝説を殺せ

瀬尾修二

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三章

二十四話

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 日中にも拘わらず、頼りない月明かりだけが唯一の光源となっていた。
 また、あらゆる音が消えている。それまで微かに聞こえていた車の走行音はおろか、草木が風に揺らされてざわめく音や、虫の鳴き声も途切れたままだ。
 いつの間にか和義は、小径すら無くなった竹林のど真ん中に突っ立っていた。
 胸騒ぎが、最高潮に達する。
 そして、右半身に何かが触れていると気づいた。ねっとりとした感触が体の表面を這い回るので、思わず恐気を催す。
 冷静になろうと努めていた彼の視線が、おもむろに右側へと向けられていく。
 眼前に広がったのは、信じ難い光景だった。猛獣のような三体の化け物が、和義の体を舐めるように見つめていたのだ。独特の嫌らしい目付きから、狐だと分かる。野生動物の狐とは違い、古い絵巻物や妖怪図に載っているような横長の目をしていた。無理矢理引き裂いたようにも見える口はだらしなく開き、異常に発達した爪からは殺傷能力の高さが窺える。
 体の形はどれも似たようなものだが、両端の二体は黄褐色、真ん中の一体は濃い朱色の毛色をしていた。真ん中の狐だけが三メートルを優に越える体長で、他のニ体はその半分程度しかない。悪狐・野狐・妖狐・化け狐と…様々な呼び名を持つこの妖は、人間が最も出会いたくない部類の化け物だった。

 放心している和義を尻目に、ニ体の護衛が悪狐達の前へ立ち塞がる。
 出し抜けに、火鼠と鎧の付喪神が霊力を急上昇させると、周囲一帯に火の粉が舞い始めた。
 これまで一切口を利かなかった火鼠が、恐ろしい金切り声を上げる。その鳴き声を切っ掛けにして、和義は弾かれたように走り出した。頭の中に直接響き渡った声が、彼を心底震え上がらせたのだ。
 追い打ちを掛けるように、更なる不測の事態が起こる。目で見ずとも離れた場所の状況を、粒さに捉えられる筈だったが、一定の範囲内しか感知出来なくなっていた。
 とりあえず彼は、化け物達から少しでも離れようと、暗闇の中を駆けていった。群生した竹が邪魔をするため、何度も転びそうになる。そうして懸命に走ったが、見えない壁に行く手を阻まれてしまった。
 透明な壁の外側には、陽光に照らされた雑木林や道路が見えた。ほんの一メートル先に、数分前まで彼が存在していた世界がある。壁は、直径二百メートル程ある半円球の一部で、和義が捕らわれた閉鎖空間をドーム状に覆っているようだ。内外で明暗がはっきりと分かれているため、二枚の風景写真を無理矢理くっ付けたかのような光景が、前面に広がっている。
 また、地面や竹など内側の世界にある全てのものは、外側の世界にある自然物や人工物とは、根本的に違うものだった。砂の一粒までにも、霊気を感じるのだ。それらをよく見れば、光源の方向を考えると有り得ない場所に影が出来ていたり、平塗りされた絵のような色彩をしている。
 後方では既に、熾烈な争いが始まっていた。和義は焦りながらも、出口はないかと探る。そうして化け物達の側にある不可視の境を、離れた場所から霊視した時に、違和感が芽生えた。内側の世界の道と外側の世界の道が、綺麗に繋がっている部分がある。(あの場所からなら、抜け出せるかもしれない)と、何故か思えたのだ。
 とはいえ、化け物達が殺し合いをしている側まで、ノコノコと出向く気にはならない。
 早紀から、このような現象の説明を受けていたのだが、彼は適当に聞き流していた。「異界」や「境界」という言葉だけは思い出せたものの、肝心の内容を忘れてしまった。
 (そうだ、電話で連絡を取れないか)と思い、ようやく携帯を取り出すも、アンテナは立っていない。
 結局彼は、護衛の化け物達をただ見守る事しか出来なかった。
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