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森の魔女が生きた理由(日常編)
第7話 プレゼント
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「ヴィーノさん、どうですか?」
クリロは、薬瓶が詰められた箱をヴィーノに見せる。
「ほぅ……これを全てクリロ君が? 色を見ただけで分かる。良い腕をしているようだな!」
「やった、ありがとうございます!」
「言った通りだろう? 次に来る時には、きっと他の薬の調合も覚えているぞ」
リエースも、自分の事のように誇らしげだ。
「そいつは楽しみですなぁ。ところで、今回は『森の雫』が多いですが、次に来る時……夏の前には来ますが、その時には例年通り、吸熱剤も頼みます」
「分かった。クリロに教えておこう。なに、クリロならすぐに覚える」
「クリロ君、かなり期待されているようだが、頑張ってくれよ!」
「が、頑張ります!」
クリロは、誰かに期待されるのは初めてだった。
リエースが自分に期待してくれる、能力を認めてくれていることが嬉しかった。
「ところで、今日は服は仕入れてあるか?」
「おやおや、リエース殿、ついにお洒落にお目覚めですかな? リエース殿も森住まいとは言え、年頃の女性ですからなぁ!」
「馬鹿、クリロの服だ!」
「えっ、僕!?」
「なるほど! 確かに、一緒に暮らすならばクリロ君も服はいりますなぁ! どちらも品揃えは万全ですぞ!」
「でもリエース、僕お金持ってないよ。リエースに買って貰うのもなんだか申し訳無いし……」
「ヴィーノ、先に買取分の清算を頼む」
「承知しましたリエース殿」
そう言うと、ヴィーノは計算機を取り出してカチカチと計算を始めた。
「今回はクリロ君の初回サービスって事でオマケして……こんなものでどうですかな?」
「え、オマケしてくれるんですか!」
「騙されるなクリロ。サービスと言いつつ、普段とあまり変わっていないぞ。まぁ、十分だ。いいだろう」
リエースはヴィーノから金を受け取ると、金貨を1枚取り出し、クリロに渡した。
「クリロ、これは君の報酬だ。これで好きな物を自由に選んで来るといい。君の報酬なのだからな、誰も文句は言わないぞ。さて、私は昼食の用意をして来よう」
「僕の、報酬……って、金貨!?」
クリロは、長らく金貨なんて触っていなかった。
金貨は銀貨100枚分の価値があるが、クリロはこれまで、丸一日働いても銀貨5枚程の稼ぎしか無かったのだ。
「クリロ君、それは君の仕事に対する正当な対価だ。驚くことは無い。君の仕事には、それだけの価値があるということさ。さて、どんなものをお求めかな?」
クリロは金貨を握り締め、しばしじっと見つめていた。
クリロは、今日程、自分が認められたと感じた日は無かった。
これまでのクリロは、他の労働者達と同じように買取所へ行き、僅かな報酬を機械的に受け取る日々しか知らなかったからだ。
誰も、クリロのことを見ていなかった。
ただ、薪を運んで来るだけの存在としてしか見られていなかった。
しかし今は違う。
クリロは嬉しかった。
そしてこの気持ちを、形にして伝えたいと思った。
「ヴィーノさん、僕が欲しいのは……」
クリロは、ヴィーノに在庫があるかを訊いた。
「ふむ。心配無い、行商人ヴィーノにお任せあれだ!」
しばらくした後、リエースが戻って来た。
「二人共、昼食の準備が出来たぞ」
「あ、リエース! ヴィーノさんに服を見立てて貰ったんだけど、どうかな?」
クリロは今までの擦り切れたシャツから着替えており、少し恥ずかしそうにしながらリエースの前でくるりと回って見せる。
派手ではなく、どちらかと言えばこれまで着ていたシャツに似たデザインだったが、見ただけで仕立ての良さが分かる、働く者の良い服だった。
「良いじゃないか。今までの物より生地も良さそうだし、何よりクリロによく似合っている」
リエースは、クリロの頭を撫でると、優しくそう言った。
クリロは気持ち良さそうに微笑むと、手の中に隠していた物を差し出した。
「あの、これ。リエースにお礼をしたくって」
クリロが差し出した手の中には、綺麗な緑色のブローチが輝いていた。
葉を模した台座に、透き通った緑の石が据えられたものだ。
「……」
リエースは、声が出ないようだった。
そして、その場にうずくまってしまう。
クリロの後ろでは、少し離れてヴィーノが微笑んでいる。
「あ、ごめん、リエース。急に、嫌だったかな」
クリロは焦って、リエースと同じ目線になるようにしゃがみ込んで問いかける。
「ちがう……嬉し過ぎて、どうしたら良いか分からない……」
リエースは、ぎゅっと両手で帽子を引っ張ったまま、ぽつぽつと呟いた。
「いつもリエースにはお世話になってばかりだから。リエースのお陰で、僕、救われたって感じたんだ。何か、この気持ちを形にして渡したくってさ。ヴィーノさんにいくつか見せて貰ったんだけど、この透き通った緑色の石を見た時に、きっとリエースに似合うと思ったんだ」
そう言うと、クリロはリエースの帽子にブローチを留めた。
「よくお似合いですよ。リエース殿」
「うん、やっぱり思った通り!」
ヴィーノとクリロは二人で、うんうんと頷いた。
「……救われているのは、私の方なのに……ありがとう……本当に……」
小さな声で、リエースは呟く。
それからしばらくリエースは泣き続け、クリロはどうして良いか分からず、ただ抱き締めていた。
クリロは、薬瓶が詰められた箱をヴィーノに見せる。
「ほぅ……これを全てクリロ君が? 色を見ただけで分かる。良い腕をしているようだな!」
「やった、ありがとうございます!」
「言った通りだろう? 次に来る時には、きっと他の薬の調合も覚えているぞ」
リエースも、自分の事のように誇らしげだ。
「そいつは楽しみですなぁ。ところで、今回は『森の雫』が多いですが、次に来る時……夏の前には来ますが、その時には例年通り、吸熱剤も頼みます」
「分かった。クリロに教えておこう。なに、クリロならすぐに覚える」
「クリロ君、かなり期待されているようだが、頑張ってくれよ!」
「が、頑張ります!」
クリロは、誰かに期待されるのは初めてだった。
リエースが自分に期待してくれる、能力を認めてくれていることが嬉しかった。
「ところで、今日は服は仕入れてあるか?」
「おやおや、リエース殿、ついにお洒落にお目覚めですかな? リエース殿も森住まいとは言え、年頃の女性ですからなぁ!」
「馬鹿、クリロの服だ!」
「えっ、僕!?」
「なるほど! 確かに、一緒に暮らすならばクリロ君も服はいりますなぁ! どちらも品揃えは万全ですぞ!」
「でもリエース、僕お金持ってないよ。リエースに買って貰うのもなんだか申し訳無いし……」
「ヴィーノ、先に買取分の清算を頼む」
「承知しましたリエース殿」
そう言うと、ヴィーノは計算機を取り出してカチカチと計算を始めた。
「今回はクリロ君の初回サービスって事でオマケして……こんなものでどうですかな?」
「え、オマケしてくれるんですか!」
「騙されるなクリロ。サービスと言いつつ、普段とあまり変わっていないぞ。まぁ、十分だ。いいだろう」
リエースはヴィーノから金を受け取ると、金貨を1枚取り出し、クリロに渡した。
「クリロ、これは君の報酬だ。これで好きな物を自由に選んで来るといい。君の報酬なのだからな、誰も文句は言わないぞ。さて、私は昼食の用意をして来よう」
「僕の、報酬……って、金貨!?」
クリロは、長らく金貨なんて触っていなかった。
金貨は銀貨100枚分の価値があるが、クリロはこれまで、丸一日働いても銀貨5枚程の稼ぎしか無かったのだ。
「クリロ君、それは君の仕事に対する正当な対価だ。驚くことは無い。君の仕事には、それだけの価値があるということさ。さて、どんなものをお求めかな?」
クリロは金貨を握り締め、しばしじっと見つめていた。
クリロは、今日程、自分が認められたと感じた日は無かった。
これまでのクリロは、他の労働者達と同じように買取所へ行き、僅かな報酬を機械的に受け取る日々しか知らなかったからだ。
誰も、クリロのことを見ていなかった。
ただ、薪を運んで来るだけの存在としてしか見られていなかった。
しかし今は違う。
クリロは嬉しかった。
そしてこの気持ちを、形にして伝えたいと思った。
「ヴィーノさん、僕が欲しいのは……」
クリロは、ヴィーノに在庫があるかを訊いた。
「ふむ。心配無い、行商人ヴィーノにお任せあれだ!」
しばらくした後、リエースが戻って来た。
「二人共、昼食の準備が出来たぞ」
「あ、リエース! ヴィーノさんに服を見立てて貰ったんだけど、どうかな?」
クリロは今までの擦り切れたシャツから着替えており、少し恥ずかしそうにしながらリエースの前でくるりと回って見せる。
派手ではなく、どちらかと言えばこれまで着ていたシャツに似たデザインだったが、見ただけで仕立ての良さが分かる、働く者の良い服だった。
「良いじゃないか。今までの物より生地も良さそうだし、何よりクリロによく似合っている」
リエースは、クリロの頭を撫でると、優しくそう言った。
クリロは気持ち良さそうに微笑むと、手の中に隠していた物を差し出した。
「あの、これ。リエースにお礼をしたくって」
クリロが差し出した手の中には、綺麗な緑色のブローチが輝いていた。
葉を模した台座に、透き通った緑の石が据えられたものだ。
「……」
リエースは、声が出ないようだった。
そして、その場にうずくまってしまう。
クリロの後ろでは、少し離れてヴィーノが微笑んでいる。
「あ、ごめん、リエース。急に、嫌だったかな」
クリロは焦って、リエースと同じ目線になるようにしゃがみ込んで問いかける。
「ちがう……嬉し過ぎて、どうしたら良いか分からない……」
リエースは、ぎゅっと両手で帽子を引っ張ったまま、ぽつぽつと呟いた。
「いつもリエースにはお世話になってばかりだから。リエースのお陰で、僕、救われたって感じたんだ。何か、この気持ちを形にして渡したくってさ。ヴィーノさんにいくつか見せて貰ったんだけど、この透き通った緑色の石を見た時に、きっとリエースに似合うと思ったんだ」
そう言うと、クリロはリエースの帽子にブローチを留めた。
「よくお似合いですよ。リエース殿」
「うん、やっぱり思った通り!」
ヴィーノとクリロは二人で、うんうんと頷いた。
「……救われているのは、私の方なのに……ありがとう……本当に……」
小さな声で、リエースは呟く。
それからしばらくリエースは泣き続け、クリロはどうして良いか分からず、ただ抱き締めていた。
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