縁は異なもの、味なもの

坂巻

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第6話 予期せぬ展開

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「ぜッん、ぜん楽な任務ちゃうやんか!」

高校から露払の家まで戻って来てみれば、子供の不満げな嘆きが耳に飛び込んできた。チャイムを押そうと持ち上げた腕を下ろし、わたくしは初訪問の時と同じように家の左側へと回り込む。
覚えのある声は庭から聞こえてきた。礼儀正しく玄関からお邪魔する機会がないな、と申し訳なく思いつつも黙って会話に耳を澄ませる。村雲もわたくしの足元で耳をぴんと立てていた。

「お嬢様口調の巫女服女に邪魔されたんやけど!」
「まあまあ、落ち着けよー」
「陽炎ちゃん来てくれへんかったら、うち1人で相手できてたか微妙やからな!」
「仕事も終わったし、その『陽炎』呼びもうやめてね。恥ずかしいです」
「なんでや!? かっこええやろ」
「その感性は、追々未来の自分を苦しめますよ」
「意味わからん」

訪れるのは本日2度目となる露払家庭は、予想通りの人物たちで賑わっていた。
セーラー服の二つ結いの美少女、月牙。その月牙に背中と膝を支えられ綺麗に横抱きにされている、護衛対象だった少年。黒のスーツと同色のパンプス、大人し気な美人といった風情の陽炎。そしてこの屋敷の主、めんどくさそうな様を隠そうともしていない露払。
女性陣は、別の名前で呼ばれたり、名前を否定したりしているので、本当の呼び名は正直わからない。

「あの」
わたくしの一言で、全員がこちらを振り返る。

「げえ!? ですわお嬢様系巫女服不審者!」
「その名称にはいささか傷つきます」

嫌そうに月牙は身を引く。隣にいる陽炎は表情を硬くし、わたくしを無言で警戒していた。

「おつかれさん。早かったな」
そんな中でも平然としているのは、露払狗彦、彼だけだった。

「依頼の目的を奪われて、しばらくは探してるかと思ったのに」
「露払さんが、失敗した場合は戻ってこいと言ってくださいましたし――何より、締結師のお2人が逃げた方向がこの家だったので、もしかしてと思いまして」
「え、それだけで?」
「最初に見せていただいたお写真ですが、食事中らしい彼女たちの自撮りを露払さんが持っていることの違和感と、あとそこにある机も写り込んでいました」
わたくしは、庭からでも見える居間の座卓を指先で示す。

「えーなになに、もしかして最初からバレてた?」
「いえ予想半分ぐらいで、ここに3人がいらっしゃったのでようやく知り合いだと確信致しました」
「そりゃそうか」

理解しあったわたくしと露払を、憮然とした面持ちで見学させられていたのは月牙と陽炎だった。

「露払せんせ、縦ロールお嬢様巫女不審者とお知り合いなん?」
「そこまで縦ロールにはしていませんわ」
髪がはねないように巻いてはいるが、縦ロールと表現されるほどの髪型にはしていない。

「うんそう。面倒見ることになったから、仲良くしてやって」
「仲良くって、ついさっき襲われたとこなんやけど。しかもたぶんあんたの命令で」
「だって普通に紹介しても面白くないだろ? ちょうど新参者が来たんだし、敵対してもらえれば普段できない対術者戦ができるしお得だろ」
悪びれることもなく、露払は学校での出会いの経緯をあっさり明かした。事情を理解したのか、陽炎は刺々しい雰囲気を解くとわたくしへと頭を下げる。

「初対面で露払先生に付き合わせて、その上蹴りいれてすみません」
「こちらこそ何の説明もできず、失礼致しました」
「いえいえ、全部露払先生が悪いので、大丈夫です」
陽炎の言い様に「おい」と露払から文句が入る。けれど彼女は気にした素振りもなく、話を続けた。
「ところで先生」
「なんだよ」
「私、4コマ目授業あるので着替えに帰ります。スーツで大学とか行きたくないんで」
「わかった。補助で入ってくれてありがとな」
陽炎はわたくしへ「では、また」と挨拶すると、左手を上へと伸ばす。何か呟くと学校で見かけた鳶の妖が彼女の手を掴んで上空へと持ち去った。そのまま飛び去った陽炎の姿は、どんどんと小さくなりやがて見えなくなる。

「……つまり、敵じゃないってことでええんやな?」
残された月牙は、念のための確認なのかわたくしと露払の顔をちらちらと窺っている。
「ああ、櫛笥にはそのように振舞ってもらったが、俺の指示だよ。もう気にしないで、楽にしとけ」
「もうほんま露払せんせのそーゆとこ嫌いやわ」
「命の危険もない貴重な対人戦闘だったろ!? お前したがってたし」
「確かにちょっとテンション上がったけど今台無しにされた」

「あのお、す、すみません……」

ここしばらく、意味もわからないであろう会話を聞かされている者が1名。
申し訳なさそうに会話を中断させたのは、自身よりも体躯が小さい月牙に抱きしめられている男子生徒である。
彼の発言に反応して、月牙が見下ろすとちょうど至近距離で見つめあうことになる。男子生徒は顔を赤くしたり青くしたりと表情をせわしなく変えた。

「ごめん、忘れてた」
黄色く輝いていた月牙の瞳が、元の茶色へと戻る。
途端、忘れていた重力を思い出したかのように地べたへと少年の踵が落下した。月牙はかけていた身体強化を解いたようだ。
抱きかかえていた人物を足元から下ろそうとしたようだが、綺麗に着地とはいかなかった。

「うわあ!」

バランスを崩した体勢を立て直そうとして。
男子高校生は足を踏ん張り、手をばたつかせる。

「あ」
「あ」

だからそれに故意など無く、全くの偶然だった。

彼が動かした右手が、近くにある月牙の身体に当たった。
部位的にいえば胸部に、である。

「ご、ごめん!」
「いや別にええけど」

結局うまく立ち上がれなかった少年は、その場で尻もちをついて赤面していた。
「わ、わざとじゃないから」
少女の胸に触れてしまったことを彼は素直に詫びている。

「そんな気にせんでも。男同士なんやし」
「え?」
「え?」

後半の「え?」はわたくしのものだった。

「ふ、ぐ、っくくく」
抑えきれないといった様子で、縁側に座る露払が肩を震わせ笑っている。

「わざとべたべた触られたら、そらいややけど」
「……おとこ?」
「ひっついとったのに気が付かんかった?」

少年の反応に、月牙は不思議そうに首をかしげ、不意に短いスカートの端を摘まみ上げた。

「ほれ」

幸いに、というべきかわたくしの立っている場所からは問題の箇所は見えなかった。
だが、露払家の庭で座り込む男子生徒の位置からは、ばっちり目撃してしまっただろう。

彼女――いや、彼のスカートの中身を。

「な、男やろ?」

固まって動けなくなる男子生徒と、腹を押さえて笑うことを隠さなくなった露払。
予期せぬ展開にわたくしと村雲は顔を見合わせた。
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