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第七章 王都編
第十九話 妹よ、俺は今王都の学校に来ています。
しおりを挟む「「王都だ!!」」
御者台に乗るミルとカルナが興奮を抑えきれずに叫ぶ。斯く言う俺も声こそ出していないが気分は二人と同じだ。
「トキオ先生、観て、観て、道がもの凄く広いよ!」
「うん、凄いね」
マジで広い。もう、広いと言うよりデカい!余裕でサッカーができるくらいの道幅はある。
「人も多いし馬車の数も凄い!世界中から馬車が集まってきたみたい!」
「こんなに沢山の馬車は俺も始めて見たよ」
世界中から馬車が集まったなんて、カルナは面白い例えをするね。
それにしてもよく考えられた設計だ。城門を潜ると馬鹿広い道、しかしその道は三百メートル程で強制的に左折させられる。道の両側と正面は高い建物で囲まれており、敵が城門を突破したとしても高所から狙い撃ちされる。しかも建物が高いため左折した先は目視出来ず、どれ程の戦力が待ち構えているかわからない。戦国時代に建てられた日本の城のような工夫だ。
これを「勇者」でもあった初代国王が考えたのなら本当に凄い。自らは「勇者」スキルを持つ強者でありながらも街の防衛にまで気を配れるとは恐ろしい才覚だ。きっとこの街には他にいくつも住民を守る為の工夫が凝らしてあるに違いない。
「「お城だ!!」」
三百メートル程進んで左折すると一直線に伸びる大通り、その先には白亜の城。これは子供達じゃなくても興奮する。流石は王都、想像していたより遥かに大きな街だ。これ、お城までまだ相当距離があるぞ。
「トキオ先生、俺達はこのまま冒険者ギルドへ向かいます」
「ああ、盗賊達の報告も任せるよ。じゃあ、またあとで」
護衛依頼書に任務完了のサインをして一旦勇者パーティーとはお別れ。とはいえ、俺もノーラン達も慣れない王都の地、学校の寮に泊まるミルとカルナを除き数日はブロイ公爵家が所有する王都の屋敷に泊めてもらえることとなっている。まあ、すぐに宿を取ってもよかったのだが、S級昇格試験を控えた勇者パーティーが要らぬトラブルに巻き込まれるのも嫌だったので、ここは素直に領主様のご厚意に甘えさせてもらおう。
「よし、俺達は王都の学校だ!」
「「うん!!」」
今迄見たこともない巨大な街、沢山の人と馬車、白亜の城、なによりセラ学園しか知らないミルとカルナにとっては初めての他の学校、興奮するなと言う方が無理である。テンション上げ上げのミルとカルナに俺やサンセラも自然と笑みが零れる。
「いざ、出発!」
「「おーう!!」」
フフフッ、子供達のことは言えないな・・・俺もテンション爆上がりだ。
♢ ♢ ♢
街並みを堪能しながら三十分程馬車で移動すると、遂に王都の学校が姿を現す。
「・・・セラ学園より全然大きい」
ミルさんや、そりゃそうだろう。何てったって国中の貴族が通う学校だからね。
「・・・凄い。でも、思っていたのと違う」
木造のセラ学園と違って王都の学校はレンガ造り。セラ学園しか知らないカルナからすれば想像と違っても不思議はない。だが俺には少し馴染みがある。この学校は前世の大学に似た雰囲気だ。学びの場としてだけではなく研究機関でもあるそうなので、あながち間違ってはいないだろう。とりあえず、変な垂れ幕とかは掛かっていないようなので一安心。
「トロンから来たトキオ セラと申します」
「ようこそお越しくださいました。イオバルディ学長より伺っておりますので、そのまま馬車でお進みください」
正門で守衛さんにイオバルディ学長から貰った手紙を見せるとあっさり通してもらえた。現在は夏休みということもあって敷地内にそれ程生徒は居ない。景色を楽しみながらゆっくりと馬車で校舎を目指し進んでいくと何やら四十人程の人だかりが。俺達の馬車に気付くと道の両端に列を作る。正面にはイオバルディ学長ともう一人。
一旦馬車を停め全員降りる。
パチ、パチ、パチ、パチ
すると両端から一斉に拍手。
微妙な表情でイオバルディ学長のもとへ向かう俺、サンセラ、ミル、カルナの四人。そんな俺達に満面の笑みで拍手を続ける両サイドの人達・・・なにこれ?
「皆様、ようこそお越しくださいました!」
齢五十を越えているイオバルディ学長が少女のような笑顔で俺達の来訪を歓迎してくれる。うん、それで・・・
「あのー、この方達は・・・?」
俺が話し始めた途端、ピタリと拍手が止まる。なんか、やりづらい・・・するとイオバルディ学長の隣に居た人物が一歩前へ。
「お初にお目にかかります。私はこの学校で副学長を務めておりますローガン フリードと申します。そしてそこに並ぶのは我が校の教授達です」
フリード副学長が俺に深々と頭を下げると、他の先生方も一斉に頭を深々と下げた。この人がフリード副学長か・・・たしかイオバルディ学長と共にミルの論文を中心になって精査してくれた人だ。
「セラ学園で教師をしているトキオ セラと申します。こちらは同じく教師のサンセラです。ミルの論文の際にはお力添え頂きありがとうございました」
サンセラと二人で頭を下げると、ミルとカルナも続いて頭を下げる。
「お、おやめください、トキオ セラ様!私共のような者にトキオ セラ様とサンセラ様が頭を下げる必要などありません!どうか、上位者としてお振舞下さい!」
「大恩ある皆様にそんなことはできませんよ。ましてや、俺もサンセラも教師としての経験は浅く、皆様に教えを乞う身です。俺達のことはトキオ、サンセラ、とお呼びいただき、フリード副学長こそ上位者としてお振舞下さい」
「な、ななっ、なりません!そのようなこと、あってはならないことです!」
えぇぇぇぇ・・・俺達、初対面ですよねぇ・・イオバルディ学長、いったい何を吹き込んだ!・
「フリード、気持ちは痛いほどわかりますが、トキオ セラさ・・いえ、トキオ先生もサンセラ先生も大変謙虚なお人柄です。無礼な態度は論外ですが、あまり遜っては居心地が悪いとお感じになられてしまいます。他の先生方もその辺りは弁えるように」
イオバルディ学長、ナイス・・・って、そもそもの原因あんただろ!
「それでフリード副学長、なぜ皆様がこちらに?」
「尊敬してやまないトキオ先生とサンセラ先生、たった一つの物語で国の識字率を上げたとさえ言われている文才をお持ちのカルナさん、そしてここに居る全ての者が心震わせ驚愕した論文の著者ミルさん。是非、一目でもそのご尊顔を拝見させて頂ければと朝早くからお待ちしておりました」
ご尊顔って・・・ミルとカルナは分からなくもないが、俺とサンセラは関係無くない?イオバルディ学長、俺達のこと何て説明したのですか・・・まあ、それはさておき・・・
「ミル、カルナ、皆様にご挨拶を」
「「はい」」
俺に促されミルとカルナが一歩前へ。ちゃんとした挨拶してくれよ・・・
「皆さん、はじめまして。セラ学園年長組、手裏剣同好会副会長のミルです。十二歳です」
ハァー、また言っている・・・手裏剣同好会の何がそんなにいいのか、俺にはさっぱりわからん。
「わたしの論文を精査してくれてありがとうございました。皆さんのおかげで沢山の人に読んでもらえて嬉しいです。学者さんを目指しているわたしにとって王都の学校を見学させてもらえるのは貴重な体験になると思います。短い間ですが、よろしくお願いします」
言い終わるとぺこりと頭を下げるミル。やればできるじゃん!いつも礼儀作法を教えているオスカーにこの姿を見せてやりたい。
「皆さん、はじめまして。セラ学園年長組のカルナです。十二歳です」
カルナは大丈夫・・・だよね?
「学会で論文が評価されたミルだけでなく、わたしまで招待していただきありがとうございます。将来作家を目指しているわたしにとって王都の学校の図書室で好きなだけ本を読ましていただけるなんて夢の様です。ここで得た知識や経験を将来役立てられるよう頑張ります。短い間ですが、よろしくお願い致します」
流石はカルナ。ミルより言葉遣いも丁寧で素晴らしい。満点!
では、二人が羽目を外さないように俺もひとこと言っておきますか。
「二人共まだ子供です。ルールを守れなかったり皆様の研究のお邪魔になるようであれば遠慮なく叱ってやってください。何卒、よろしくお願い致します」
さて、挨拶はこんな所か。では早速・・
「はい!はい、はい、はい!」
場が締まる直前、若い女性の教授が元気な声でアピールしながら手を挙げる。ホームルームの時のミーコみたいだ。
「・・・何ですか、ロートベット先生」
イオバルディ学長の面倒くさそうな対応、そんなことはお構いなしに満面の笑みでマジックバッグから何かを取り出そうとしている。なんとなくこの教授のキャラがわかった気が・・・
「ミ、ミーコミルシオン先生、サインください!」
取り出したのは「シスター物語」愛蔵版。まあ、そんなことだろうとは思った・・・
「あ、あなた、何を言い出すのですか!」
「だって、こんなチャンスもう二度とないかもしれないじゃないですか!」
「だからといって、お越し頂いたばかりなのに失礼でしょう!そもそも、カルナさんがミーコミルシオン先生であることは公表されていません!カルナさんとお呼びしなさい、カルナさんと!」
当然こうなる。イオバルディ学長も大変だ・・・
「そんなこと言って、イオバルディ学長もミーコミル・・カルナさんからサインをもらおうと思って「シスター物語」を持参していること、私知っていますからね。自分だけズルいじゃないですか!」
「な、何故、そのことを・・」
「やっぱり!」
「わ、わたくしは折を見てカルナさんの時間に余裕のあるときに・・・んっ?やっぱり・・・あ、あなた、山をかけましたね!」
「イオバルディ学長の考えなどお見通しです!そもそも、自分から布教しておきながら同志である私達を出し抜こうなど、いくら学長でも許されません。職権乱用です!ねえ、皆さん!」
「「「そうだ、そうだ!!」」」
うわぁ・・・ロートベット先生の呼びかけに何人かの教授が呼応して自分のマジックバッグからも「シスター物語」を取り出し始めた。しかも全員愛蔵版・・・これは計画性が窺えるなぁ・・・凄い人気でよかったね、カルナ。って、俺達は何を見せられているんだ・・・
「あ、あなた達まで・・いい加減に・・」
「あ、あのー・・・」
ここでご本人登場。
「皆さん、「シスター物語」を気に入っていただきありがとうございます。わたしのサインなんかでよろしければ、後ほどいくらでも書かせていただきますので・・」
「「「やったー!!!」」」
「あなた達・・・」
そう言うしかないわなぁ・・・まあ、折角サインの練習もしたことだし、ファンは大切にしないとね。
それにしても、なんか思っていたのと違う・・・
王都の学校では権力争いや派閥争いがあると聞いていたから先生方はもっとギスギスしているのかと思いきや、意外とそんなこと無いっぽい・・・
妹よ、イオバルディ学長とロートベット先生のやり取り、なんだか既視感があります・・・
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