水色と恋

和栗

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おいでおいで

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「練習結構ハード?」
まだ少し冷たい風が吹く夜、僕も真喜雄も重たい鞄を肩に担いで歩いていた。
公園へ入るとベンチへ腰掛け、さささっと辺りを見渡してから顔をそっと包まれて唇が重なった。
「むっ・・・真喜雄、」
「・・・ハードだけど楽しい」
「ならよかったよ。今いきなりすぎてびっくりしたけど」
「・・・ん」
ぎゅぅっと抱きしめられた。慌ててあたりを確認する。最近暖かくなってきてウォーキングをしている人が増えてきたのだ。
運良く誰もいないけれど、大胆すぎて驚いてしまう。
「最近どうしたの?よく抱きつくね」
「だって」
「うん」
「・・・なんでもない」
こういうこともしばしば。何かを言いかけてやめたり、口を開いて閉ざしたり。
くしゃくしゃと頭を撫でると、甘えるように胸に顔を押し付ける。
何かあったなら聞きたいと思った。僕が力になれることならなんだってするのに。
「ねぇ、明日部活なの?」
「午後から」
「僕も塾が午後からなんだけど、うちに泊まり、」
言い切る前に、ガバッと顔を上げて行く!と力強い返事が返ってきた。
目がキラキラと輝いている。
カバンを持ち勢いよく立ち上がると、ぐいぐいと腕を引っ張られた。
「早く行こう」
「う、うん。あ、服はうちで洗えばいいよ。あと、」
「早く」
せっかちだなぁ。まだ話をしてる途中なのに。
自転車を転がして家に帰ると、まだ起きていた澄人が飛びついてきた。
また真喜雄が甘やかすなぁと思ったら、ごめん勉強するんだ、とやんわりと腕を解いた。
ちょっと驚いた。
練習着を洗濯機へ放り込みシャワーを浴びてもらって部屋に上がる。僕もシャワーを浴びようと立ち上がると、ソワソワした真喜雄が見上げてきた。
「どうしたの?」
「・・・早くな」
「え?うん。あ、母さんがお腹減ってるならおにぎりあるよって言ってた」
「・・・ありがとう」
変なの。いつもならすぐ立ち上がるのに。
真喜雄はうちの母親の作るおにぎりが好きなのだ。具が大きいしいろんな種類があって楽しいのだそうだ。
シャワーを浴びながら頭の中で今日の講義のことを反芻する。
明日は午前中家で自習しよう。真喜雄も一緒にやるかな。
髪を拭きながら階段を上がろうとした時、母さんがリビングから顔を覗かせた。
「真喜雄くんどうしたの?」
「え?」
「ご飯食べに来ないから部屋に持って行ったんだけど、いつもならすぐに食べ始めるのに膝抱えてたのよ。悩み事?部活うまくいってないとか?」
やっぱり変だ。ここ最近の真喜雄を思い返す。
悩んでる感じではなかったけど、ご飯に手をつけないなんて重症だ。不安になって、今夜はゆっくり話を聞いてみるよと答えて早足に階段を駆け上がる。
ドアを開けると、真喜雄はお盆に載せられたおにぎりと唐揚げ、サラダを見つめていた。顔が上がり、パッと柔らかな表情になる。
「透吾」
「・・・食べないの?」
「ん?一緒に食べようと思って」
「・・・あの、なんかあったの?最近少し、変だよね?」
「え?変?なにが・・・」
「聞いても、なんでもないって言うし・・・あまり人目気にしないっていうか・・・すぐ抱きついてきたり・・・」
「・・・変か?」
寂しそうに首を傾げた。
隣に移動して肩をくっつける。ベッドから毛布を引っ張ってそっと包む。
「何かあったのかなって心配になった。ご飯にも反応しなかったし」
「・・・んん、・・・何もないけど」
「けど?」
「・・・何もないから、不満なのかもな」
「・・・えっ!?それって、」
「透吾のせいとか、悪いとかじゃなくて、・・・おれも透吾も忙しいから・・・会う時間とか、一緒にいる時間とか、少ないから・・・」
「・・・あ、そっか・・・そうだよね」
最近確かにあまり会えていなかった。
会えてもとても短い時間だったり。
電話やメッセージだけじゃ埋められない気持ちが溜まったのだろう。
言い淀んでたのは、わがままになると思ったからかもしれない。僕が困ると思ったのかもしれない。
それは僕も同じだった。練習がハードなのは分かっていたから、自分に余裕があるときに会いたいなんて図々しいこと、言えなかった。
「今日、一緒にいられるから、嬉しくて、早くこうやってくっつきたかったんだ」
「・・・うん。僕も一緒にいたかったよ。声かけてよかった」
「びっくりした。おれも声かけようと思ったんだけど、塾だろうなって思ってたんだ」
そっと唇を重ねると、お腹の音が響いた。
目を合わせて噴き出す。
やっぱこっちも我慢できなかった、と照れ臭そうに笑ったので、2人でおにぎりを頬張った。
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