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明日の僕らは4
しおりを挟む真喜雄は相変わらず塾へやってきて、僕が来るのを待っていた。
今日は少し早く終わったので、自転車を漕いで公園の前まで来て、ブレーキをかけた。
隣に並んでいた真喜雄は少し驚いた顔をして止まった。
「・・・なんでここで止まったか、分かるよね」
声をかけると、少し間を置いてこくんとうなずいた。
公園に入ってベンチに座る。
少し間を開けて、真喜雄も腰かけた。
「・・毎日、何で外で待ってるの?」
「・・・」
「僕たち別れたんだよ?」
「・・・から」
「え?」
「・・・一緒に、いたかったから・・・」
蚊の鳴くような声で、呟いた。真喜雄らしくない声。
すんっと鼻を鳴らすと顔を上げた。前よりも大人びた顔に見えた。なんでだろう。
「・・・真喜雄って、呼んでほしかったから・・・」
「・・・自分勝手だな」
「・・・うん」
「・・・」
「・・・・ごめんばっかりで、しんどかったんだ・・・」
ぽとりと涙が落ちた。街頭に反射して、光った。
ジーンズの上に落ちると、じわりとシミになる。
以前の関係だったらすぐに手を伸ばして拭っていたはずなのに、動かなかった。
僕はもう真喜雄のことが好きではないのだろうか。もう、嫌いなのだろうか。
「言わせるのも、言うのも、しんどかった・・・。断られるのも、断るのも、しんどくて・・・でも・・・透吾、橋本とか、田所とは、一緒に勉強してるから・・・おれは、透吾に何も教えられないし、力にもなれないし、そう思ったら、なんだかすごく惨めで・・辛くて・・・嫉妬して・・・」
「そんなこと今さら言われたって、どうにもできないよ」
「・・だって、言いたかったのに・・・透吾、ちっとも、・・・」
真喜雄は顔をしかめ、そのままうつむいた。
はっとした。
そうだ、ずっと真喜雄の誘いを断っていたのは僕だった。
ずっとこの話をしたかったのかもしれない。自分じゃ抱えきれなくて僕にぶつけようとしていたのかもしれない。それに気づかなかったのかもしれない。
電話に出られない時だってあったし、メッセージだって簡単に返すことしかできなかった。
真喜雄が自己完結したくなるのも分かる気がした。
僕の怠慢だった。
「・・・ごめん、そうだよね・・」
「・・・こ、やって・・・ごめんって・・そればっかりに、なって・・・それがすごく、しんどい・・・おれ、前みたいに、もっと・・・なんか・・・」
前みたいに・・・。
その一言がとても重かった。
僕は以前と変わらないつもりでいた。それはきっと真喜雄もそうだ。
でも、きっと僕が変わってしまったのだろう。
目先の約束ではなく未来の約束に向かって全力疾走していたのだから。
試合を見に行く約束をしていたのに、会いたい時は呼んでと伝えていたのに、飛んでいくと言っていたくせに、何もしなかった。
それどころか真喜雄のサインを無視し続けていた。
何が、大嫌いだ。
僕が言うべきセリフじゃない。これは、僕が言われるセリフなのに。
ずきずきと胸が痛んだ。僕は怒りに任せて真喜雄を傷つけたんだ。
「・・・透吾が、頑張ってるの、知ってる・・。だから、荷物に、なりたくなかった・・・。面倒な奴って思われたく、なくて・・・」
「・・・」
「・・・最後の試合、負けたとき・・・見てもらいたかったなって、すごく、思った・・・。でも、言えなかった・・。困らせたくなかった・・・ごめんはもう、嫌だったんだ・・・」
「・・・あの、」
「大嫌いって言われて、もう、どうにもできないって思った。もうきっと、透吾の中におれはいないんだって、消えちゃったんだって思った」
「真喜雄、」
「ずるいぞ!こんな時だけ名前呼んで!!」
びりっと体が痺れた。
怖くて何も言えなくなってしまった。
拳を握って膝に置くことしかできなくて、真喜雄から目を反らす。
僕はどうしたらよかったんだろう。どこから間違えたんだろう。
「・・・おれは・・・」
「・・・」
「・・・おれは、嫌いになんて、なれない・・・」
「・・・僕は、」
「我慢して、我慢して・・・受験が終わるまで、じっとしてればよかったのに、できなかったんだ。好きだから・・。一緒にいたかった・・。笑ってほしかったし、おしゃべりとかしたかったし、ちょっとでもいいんだ、時間を、共有したかった・・・。言おう言おうって思って、でも・・おればっかりなのかなって思ってしまった。だから・・別れようって、言った。別れたくないって、言ってほしかった。一緒にいたいって、求めてほしかった。・・・子供でごめん。幼稚すぎて、自分でも呆れてる」
「幼稚なんかじゃない。当たり前の感情だよ。ごめん、僕が言わせなかったんだ・・・」
「・・・あのな、今、結構、嬉しいんだ」
「え?」
「だって透吾が隣にいるんだ。顔見て、話ができてる。すっげ、嬉しい」
真喜雄がふわりと笑った。
あぁ、すごく、綺麗だ。
こんなきれいな笑顔、久しぶりに見た。大好きだったのに、見過ごしていた。見ようともしてなかったかもしれない。
ぶわっと体の奥から熱い空気が溢れた。
「真喜雄、」
「うん」
「僕、あの・・・あの・・・」
「透吾、A判定?って・・あの、模試の・・・よかったな。合格、確定ラインってことだろ」
「え・・?あ、うん・・・」
「・・・頑張れ、透吾」
「・・・真喜雄、僕、君が、」
「ダメだよ、透吾」
やんわりと拒絶された。ぽろぽろと涙が落ちる。
真喜雄の瞳からも涙が落ちていた。
「今のおれの話し聞いて・・透吾、絶対無理すると思う」
「しないよ、しない・・・」
「ううん。する。絶対する。おれだったらしちゃうから・・・このままでいよう。な」
「・・・後悔してる・・・。大嫌いって、言ったこと・・・すごく、すごく・・・」
「おれも、後悔してる。別れようって言ったこと。・・・自分で言ったのにな、バカみたいだ」
「そんなことない、言わせたのは僕なんだから」
「それは絶対に違う。・・・ずるいかもしれないけど、おれ、どんな形でも透吾が一番大事だ。透吾が呼んでくれたら、すぐ行くからな。だから・・・頑張れ、透吾」
「・・・本当に来てくれるの?」
「行くよ。どこにだって」
手が伸びてきて、僕の頬を包んだ。暖かい手だった。ずっと触れていなかった。ぎゅっとその手を掴むと、指が絡んだ。
あぁ、こんな小さなことだけで、すごく満たされる。
「頑張れ透吾。一緒にがんばろ」
「・・うん」
「・・・帰ろう」
「・・・うん」
立ち上がり、駐輪場まで歩く。今日はこのまま家に帰ると言うので、咄嗟に、明日は9時に終わるんだと声をかけた。
真喜雄は優しく笑って、分かったと言った。そしてポケットを漁ると、手を差し出した。
「何?」
「あげる」
「・・・ありがとう」
渡されたのはのど飴だった。くすっと笑ってしまう。
じゃぁな、と短く言って、真喜雄は走って行った。
飴を握って、目を閉じる。頑張ろうって、思った。
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*********
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