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おっぱい恐い!

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絆創膏が剥がされていたことで、私が泥酔し意識のない彼にイタズラしたことはおそらくバレているだろう。パンツの中もガビガビになってるだろうし。でも新人君はそんなことよりも乳首を見られたことがショックらしい。私は可愛らしくて好きだけど、コンプレックスなのかもしれない。

なんて返事をしたらいのか思案していたら、青い顔をした彼に震えながらまた謝られた。何度も『ごめんなさい』と。
取り敢えず、ごめんなさいしなきゃいけないのはこっちの方なので、ベッドの上で土下座した。本当は床の上の方がいいんだろうけど、私はベッドの壁側にいるので新人君を押し退けないと床には土下座できないので仕方がない。

「こっちこそごめんなさい。キミが酔っ払って意識がないのをいいことにイタズラして、しかもパンツの中に吐精させてしまって、ほんとにごめんなさい。いくらなんでもまずいなって思ったんだけど、感度がよくて色も綺麗なバフィーニップルがすっごい美味しそうで、舐めて吸って弄くってるうちに歯止めが利かなくなっちゃって、しかも喘ぎ声まで可愛いなんて神かよ、ってじっくり堪能しちゃってほんとすみません!!でも最後まではしてないので、出来れば穏便に済ませてください。」

弁解&謝罪である。全ての罪を認めましたのでご恩赦いただけないでしょうか、といった一種のパフォーマンスである。それに最後まではやってないということをハッキリさせておきたかった。

しかし、しばらく経っても何のリアクションもないので、土下座の体勢から顔を上げて新人君を見上げた。
彼は混乱した様子で真っ赤な顔で口をパクパクと開けたり閉めたりしている。何かを喋りたいが言葉にならないようだった。

うん、分かるよ。
会社の先輩に知らない間に凌辱されるとか混乱とか恐怖とか羞恥とか色々感情がまじっちゃって何言っていいかわかんないよね。

新人君は私がじっと見詰めているのに気がつくと、赤い顔を更に耳まで赤くしてしどろもどろに喋り出した。

「……あ、あ、あの、俺っ、てっきり、自分で勝手に服脱いで、…む、夢精でもしたのかと……。」

やっぱり昨夜のことは一ミリも覚えてないのかよ。黙ってれば良かったんじゃね?と悪い大人が頭の中で舌打ちをした。

「……新人君、話したいことは互いに色々あると思うけど、取り敢えず会社遅れちゃうから、お風呂入った方がいいよね?パンツの中ガビガビでしょ。」

私は脱衣所に無理やり彼を押し込めた。そして着替えて近くのコンビニまで行って、男性用パンツと大きめの絆創膏を買ってきた。それを風呂場の入り口に置いた瞬間、ちょうどシャワーを浴び終わったのであろう全裸の新人君と
出会でくわしてしまった。焦った私は思ったことが全部口から出た。

「ごめんっ、パンツ買ってきたからっ、良かったらこれ履いてっ。あと、絆創膏も。あの、…で、でもさ、やっぱりキミいい体してるよねっ。乳首もエロ可愛いし最高だよ!朝から眼福、ありがたいっ。」

しかも無意識に彼に向けて拝むように手を合わせてしまっていた。
何やってんだまだ酒が抜けてないのか、と自分を罵りながら、そそくさと脱衣所から出た。

やっべー、余計なこと言った。セクハラ重ねてどーすんだ。なんとなく穏便に済ませてくれそうな雰囲気あったのに。

二日酔いとは別の頭の痛みを感じながらも、なんとか体を動かして、自分も会社に行く準備を始める。

適当にメイクをして身だしなみを最低限に整え終えた時、脱衣所から新人君が出てきた。格好は昨日と全く同じでピシッとしている。けれど一点だけ、髭が伸びているのが気になった。

「あ、ごめん髭剃り買ってくるの忘れてた。でもどっかにあったはずだから、ちょっと待ってね。」
確かホテルのアメニティの剃刀があったはず。以前泊まった時に足剃り用にいいかと思って持って帰ってきてたんだよね。

それは洗面所の下の収納に収まっていた。

「これ使って。ジェルとかなくて大丈夫?」
「大丈夫です。何から何まですみません。」
「いやいやいや。何から何まですまないのはこっちだから!私、先に会社行くね。さすがに昨日と同じ服着たキミと一緒に出勤はできないからさ。アパート出て右に真っ直ぐ歩けば、10分で○×町の駅に着くから。□△線ね。あとこれ鍵。部屋出たらポストに入れておいて。それでは新人君、後程。あ、あともう一つ。もし会社に報告するならお手柔らかにお願いします。」

私は用件を一方的にばばばっと全部言って、頭をぺこっと下げて逃げるように部屋を出ていこうとした。けれどすぐに『堤(つつみ)さん』と呼び止められた。

振り返ると、少しだけ情けないような怒ったような顔をした新人君が私をじっと見ていた。

「な、なんだい?」
「……昨日のことは覚えてませんけど、セクハラとかって思ったりはしてません、から。だから、会社にも言ったりしません。」
「あ、助かります。新人君っていい奴だね。」

私はこれからも会社員でいられることにホッとして、顔から力が抜けてふにゃりとしただらしのない笑顔を彼に向けてしまった。新人君はそんな私を見てフィッと横を向いた。
顔を背けられるほど変な顔をしてしまったかと申し訳なく思いつつ、時間のことが気になったので『戸締まりよろしく』と付け加えて玄関で靴を履いた。

「あっ、堤さん、待ってください。」
「今度はなんだい、新人君?キミも髭剃らなきゃいけないんだし、時間あんまりないからね?」
「あ、あの、……俺っ、新人君って名前じゃないです。」
「うん…?知ってるけど。」

私が腕時計をチラリと見ながらそう答えると、その腕を掴まれた。

「じゃあ名前で呼んでください。俺の名前は、西川(にしかわ) 基樹(もとき)です。」

「わ、分かった。わかったら腕放して、に、西川きゅん。」

いつになく真剣な顔をして言われてちょっと恐くて声が裏返ってしまった。

「下の名前で呼んでください。」

腕は放してもらえない。

「あのね、西川くん。キミは入社したばかりで知らないんだろうけど、会社ではね、基本的には名字で呼び合うっていう暗黙のルールがあるのだよ。」

新人君、などと呼んでいたくせに先輩風を吹かせてみた。
ていうか早く腕を放してほしい。ドキドキしてるし顔が赤くなっていやしないだろうか。

「じゃあ、社外では下の名前で呼んでください。」

新人君は口を少し尖らせて、拗ねたような顔をした。そのとてもプライベート感のある表情に心臓を撃ち抜かれた私はコクコクと頷いてしまった。

何故そんなに下の名前で呼ばせたいのかわからないけど、多分『新人君』と呼ばれていたのが馬鹿にされているようで嫌だったから、何か仕返ししてやろうと考えたに違いない。私はそれにまんまと嵌まり動揺してしまったのだから、新人君の思うつぼだっただろう。

基樹くん、か。
多分そんな風に呼ぶ機会なんてないんだろうと思う。社外でなんて言ったってプライベートで会うことはないし、会社の飲み会なんかでもそんか風には呼べないのだから。

だったらせめて、心の中では『基樹くん』と、呼んでみようかなと思った。


でも、その機会はすぐにやってきた。

その日私は、基樹くんの動向に少しビクビクしながらも何事もなく一日を終えることができた。ぐったりと疲れたのでアパートの部屋であることをしながら寛いでいた。そんな中『基樹くん』はやってきた。私はインターホン越しに話をした。

「堤さん、来ちゃいました。」
「に、西川くん?」
「基樹、です。」
「基樹、くん、何で?」

基樹くんはインターホンの小さい液晶の中でニッコリと笑っている。

「堤さん、俺と一緒に週末を過ごしてもらえませんか。」
「え、無理です。お断わりします。」

基樹くんがどんなつもりで私の部屋を訪ねてきたのかはわからない。ひょっとしたら体の関係を求められるのかもしれない。それはそれでも構わないのだけれど、問題があるのだ。

私は今とてもムラムラしている。

さっき部屋のゴミ箱にあった基樹くんの使用済み絆創膏を発見してしまったからだ。それで昨夜のことを思い出し、匂いをすはすは嗅いでしまった。一気にムラムラハァハァして、頭の中が基樹くんの乳首の色のようなピンク一色になってしまったのだ。
だからもしも本物とセックス、なんてことになったら暴走してしまってどんな変態プレイが飛び出すか自分でも分からない。多分基樹くんのおっぱいからは媚薬が出てるんじゃないかと思う。それくらい我を忘れそうで怖い。

ドン引きされて、まだギリギリ保てている『会社の先輩』という体裁が崩れ去ってしまうのは恐い。おっばい恐い!

そういった思いで全力で拒否したのだけれど、基樹くんは引き下がらなかった。

私の部屋のドアは勝手にガチャリと開いた。鍵は掛けていたはずだった。
ギクリとして玄関を見ると、基樹くんがいた。朝渡した合鍵を指でつまみ、顔の前でゆらゆらと揺らしながら笑っている。

「朝、鍵、ポストに入れるの忘れちゃって。」

語尾に『てへっ』と一言付きそうな悪気の無さに、若いってすげーなという感想を持ちつつ、どうしたものかなと基樹くんの胸元をじろじろと見ながら考えた。

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