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二人目の悪魔
しおりを挟むアザリ君以外にも悪魔がいるかもしれないということは、なんとなく分かってはいた。
彼にお母さんがいるということは、お父さんだっているはずだから。
けれど、今の今まで私は、アザリ君がこの場に来てくれると信じて疑っていなかった。
アザリ君は、私のことをいつも想ってくれていた。だから、私が困って助けを呼べば、飛んで来てくれるとばかり思っていたのだ。
酷い自惚れだった。
私の思い切り落胆した姿を見て、悪魔は眉をつり上げた。
「アタシを呼んだのは、お嬢ちゃんでしょ?」
「あの、違うんです。私は、アザリ君に用があって。」
美形に睨まれてると、怖い。
私は冷や汗を流した。
「アザリ……、ああ、アザリシェルムね。」
「…そう、です。あの、彼はどこに?」
「知らないわ。でもこんなチンケな魔法陣じゃ今のアザリシェルムは呼べないでしょうね。」
悪魔は馬鹿にしたように、鼻を鳴らした。
「どういうことだ?」
いつの間にか側に来ていた拓夫さんが、話に入ってきた。
「あら、あなた、変なもの連れてるのね。」
拓夫さんの隣の空間に向かって悪魔は指を指した。
彼には幻覚のサーニャたんが見えているようだった。
「俺のことは放っておいてくれ。それよりあんた、この魔法陣のどこがだめなんだ。」
「ディルよ。」
「ディル?」
「アタシの名前。」
「……ディル、教えてくれ。」
拓夫さんは少し苛立ったようにディルを見た。
「ふふっ、全然だめよ。特に駄目なのは、この血ね。なんなのよこれ?」
「豚の、血だ。山羊の血が手に入らなくて。」
「山羊でもだめよ。」
ディルが、言うには使う血は人間のものが一番いいんだそうだ。豚の血や山羊の血で呼べるのは魔力が弱い者か、残虐で人間を傷つけたくて仕方のない悪魔だけらしい。
ではディルはどちらなのか。
後者だとしたら、私は初めて悪魔の本性を見ることになるのかもしれたい。
そんな私の不安を読み取ったのか、ディルは片眉を上げ私を睨んだ。
「アタシは、訳があって魔力が弱いだけよ?残虐な悪魔なんかじゃかいわよ?」
訳があって、とディルは言ったが、悪魔で魔力が弱い理由を私は一つしか知らない。
私は思わず呟いてしまった
「……童貞なわけね。」
「は?」
「なっ!」
ディルは、私を冷たい目で睨んだ。
言ってはいけないことを言ってしまったようだった。
何故か拓夫さんまで反応したのを見て、本当に失礼なことを言ってしまったと反省した。
「アタシより美しい女がいないのが悪いのよ。」
ディルは眉間にシワを寄せ、更に私を睨んだ。
地雷を踏んだ上に、美しくもなくてごめんなさい。
私はいたたまれなくなり、それまで一言も言葉を発していない青山くんを見た。
彼は緊張した面持ちだったけど、私と目が合うと一つ息を吐いた。
「なんで、二人とも普通に喋れるんだよ。」
彼は視線をディルに向けた、
私と拓夫さんはアザリ君に会ったことがあるから免疫があるけど、普通の人だったら悪魔と話なんてできないだろう。
「あら、あなたも厄介なことになっているわね。」
ディルに話し掛けられ、青山くんは体をビクッと震わせ後ずさった。
「そうなんです。彼はアザリ君に幻覚を見せられて、私に恋をしていると勘違いしているようで。」
ひょっとしたら、アザリ君でなくても、彼の幻覚を解けるのかもしれない。
アザリ君には会いたいけど、青山くんを一刻でも早く解放してあげるのが本来の目的なのだ。
「何度も言うように、勘違いなんかじゃないから。」
私の言葉を聞き、青山くんは傷ついたような顔をした。
「ディルさん、彼の幻覚解けますか?」
「…っ。」
私は青山くんの気持ちが、偽りのものだと知っている。ここで彼と話し合いをするよりも、幻覚を解いてもらった方が手っ取り早い。
「うーん。どうかしら?アタシ、童貞だから弱い悪魔なのよね。」
そう嫌味を言いながらもディルは青山くんをじっと見つめている。
「じゃあ契約ね。これを解くのが、お嬢ちゃんの願いってことでいいのよね?」
悪魔に願いを叶えてもらうには、やはり『契約』が必要なようだ。
「……はい。あの、でも見返りは、筆お――」
筆おろし以外で。と言おうとして私はまたディルに睨まれた。
恐い。
しかも今度は舌打ち付きだった。
「見返りは、お嬢ちゃんの大事なものを貰おうかしら。」
大事なもの?
私にとって大事なものってなんだろう。
「命、ですか?」
さすがにそれは無理だ。
「違うわよ。」
「お金?」
ディルはため息を吐いた。
「お嬢ちゃんが、持っているものでアタシが欲しいと思えるような大事な、…言い方を変えれば、"美しいもの"は二つしかないわ。」
私は息を飲んだ。
美しいものなんて私は持っていただろうか。
「何、ですか?」
「ふふっ、恋する気持ちは、誰のものでも美しいわ。それをアタシに頂戴。」
恋する気持ち。
アザリ君を思う気持ちのことだろうか。
「何故私が今恋をしているってわかるんですか?」
「恋、してないの?」
逆に聞かれてしまった。
「それが無くなると、どうなるんですか?精神に異常をきたすことになったりしませんか?」
「大丈夫よ。今、心に想っている人のことを、愛しいと思わなくなるだけだから。」
アザリ君を、好きじゃなくなる。そんなことがあるのだろうか。今は想像もつかない。
私は毎日家を出る時、帰ってきた時、ハーブティーを飲む時、味噌汁を飲む時、いつもいつも彼を思い出していた。
その度に切なくて苦しかった。
でも、そんな切なくて苦しい想いでも、アザリ君に対してのものなら、無くしたくないと思ってしまう。
「あの、あともう一つ、私が持っている美しい物って何ですか?」
「……おっぱい、よ。」
三人の視線が私の胸に集まった。
私は今日、きつめのキャミソールを着ていない。日帰りの予定できていたので、着替えを持って来なかった。だからコンビニで肌着を買って着替えたのだけれど、それは胸を締め付けるようなものではなかった。
「それが無くなると、どうなるんですか?乳首がなくなったりしますか?」
また同じ質問をした私に対して、拓夫さんと青山くんが『えっ!?』と同時に声を発した。
「本気なの?……貧乳になるだけよ。真っ平らの。」
私はホッと息を吐いた。
「じゃあ、胸の方でお願いします。」
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