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涙
しおりを挟む「青山くん、許してくれなかったの?」
アザリ君は疲れ果てているのか、顔色が悪い。
「ううん。すぐ許してくれた。」
「シャンプー渡してくれた?」
「あ、うん。喜んでたよ。」
会話も上の空だなんて珍しい。
「何かあった?」
「……う、実は、ディルが、僕の兄だった。今まで全然知らなくて。」
「えっ!?えっ、えっ、嘘っ。」
びっくりした。
でも、同時に頭のどこかでなるほどな、と納得した。
私に構う振りをしながら、弟の様子を気に掛けていたのだな、と。
アザリ君は凄くショックを受けているようで頭を抱えている。
「なんか、文句が多いし、変な喋り方だし、人の恋心奪ったりするから信用もしてなかったのに、まさかお兄さんだったなんて。」
ディルに対して随分な言いように、私は苦笑いをした。
悪魔も血の繋がりって気にするのね。
私はアザリ君の頭をヨシヨシ、と撫でてあげた。
「ディルは僕があのアパートに封印されていた時、何回も訪ねてきてたんだ。あんたまだ童貞なの?って、からかいに。今思えば結構な頻度で来てたけど、あれって、弟を心配して来てくれてたのかな。」
多分、そうだろう。きっとディルじゃ、魔力が弱くて魔法陣をどうすることも出来なかったんだろうし。
それでも、閉じ込められて孤独に耐えるアザリ君を元気付けたかった。そして成体になる為の手伝いもしたかったのかもしれない。
ひょっとしたら、私が行った召喚の時もアザリ君の関係者だと知っていて来てくれたのかもしれない。
「じゃあ私、ディルさんのことお義兄さん、って呼ばなきゃね。」
きっと、会うことは難しいのだろうけれど、優しいディルのことをそう呼ぼうと思う。
「ディルさんと話し込んでたから、こんなに遅かったんだね。」
「あ、ううん。時間がかかったのは、青山さんの、願いを叶えてきたから。」
青山くんは、あっさりと許してくれたものの、アザリ君の気が済まなくて、何かお詫びをしたいと申し出たらしい。
「何の願い?」
「…あ……うきょ…。」
「ん?」
「……暴れ乳、調教…、」
「……。」
聞き覚えのあるタイトルだ。
「……のDVDを見せられて…。」
もごもごと言いづらそうに喋るアザリ君の話をまとめると、そのえっちなDVDに出ている女優さんと一回セックスがしたい、と青山くんに言われたらしい。
それで幻覚の女優さんを青山くんのところに置いてきたらしいのだ。一晩限定で。
しかし、納得がいかないことがある。
「それ、DVD見る必要あった?」
あまり気分のいい話ではなかった。
私が部屋で待っているのに、男二人でAV観賞とは。
私の感情が伝わったのかアザリ君は、しょんぼりとした顔になった。
「ごめん、なさい。見たくなかったんだけと、僕、爽子さんの身体しか知らないから。そういうのは見本がないと、引き受けられないんだ。」
そう言われて納得した。
裸体のサンプルがないと顔はその女優さんに出来ても、身体が私の幻覚になってしまう、と。
「青山さん細かくて、なんか違うって何回もDVD見せられて。しかも、お、おっ、おっぱ……っ、胸の弾力が弱いとも言われて、幻覚だから仕方ないって言っても『お前ならできる』って何度もやり直しさせられて……。」
とにかく注文が多く、大変だったらしい。
アザリ君は『ある作業』を私に施しながら、青山くんとのやり取りを教えてくれた。
「……あの、DVD見た理由は分かったし、納得したけど、何で私は胸を縄で縛られてるのかな?」
私の胸は、アザリ君の手によって、赤い細い縄で縛られていた。胸が強調されるように、上下に縄を通すようにして。
服の上からされてはいるが、なかなか扇情的な出来になっている。
純真なアザリ君が、女体を縄で縛る、なんて思ってもみない行動で、どうするべきかと動揺し、結局されるがまま受け入れてしまった。
「青山さんが、お礼にくれた。新品だって。痛くない?」
「それは、大丈夫だけど…。」
「良かった。」
アザリ君は息をふぅと一つ吐いて、一仕事やり遂げた、みたいな満足げな顔をしている。
ちょっと可愛い。
「僕、爽子さんをいかせてあげたいんだ。」
「え?」
いかせる、とはセックスでのことだろうけれど、それと縄、何か関係があるだろうか。
しかし、すぐに思い当たる。
『暴れ乳調教』だ。
アザリ君は、DVDを見て女優さんが『いっちゃう、いっちゃう』と言っているのを聞いて、気が付いたらしい。
私を一回もいかせていないことに。
確かに、前戯らしい前戯は、今までなかったし、早めにアザリ君がいってしまう為、中で達することもなかった。
でも気にしなくていいのに。
性急なのは、必死に求められてる感じがして好きだし、早くいっちゃうのも私の中が気持ち良かったんだなと思えて嬉しい。
アザリ君を傷付けないような励ましの言葉を探していると、彼は顔を真っ赤にして私に向き直った。
「僕は、爽子さんをいっぱい気持ち良くさせたいし、いっぱい愛したい。僕が出来ることなら、なんでもしたい。爽子さんが大好き、だから。……ぼ、僕は爽子さんの、夫、だから。」
アザリ君の思いがけない言葉に私は涙腺が緩んでしまった。
実を言うと、私は少し後悔していた。
魔女になったことではなく、アザリ君を押し切るような形で、セックスをしてしまったことに。
私は焦っていたのかもしれない。悪魔と人間では時間の過ぎ方が違う。だからアザリ君に取り残されたくなくて事を急いでしまった。
でもこの言葉を聞いて、つかえていたものが取れた。
しかし、アザリ君は私の涙を違う意味に取ってしまったようだった。
「っ、泣かないで。…悪魔なんかの奥さんになるの、やっぱり嫌?でも、僕は爽子さんの傍にずっといたいし、爽子さんには笑顔でいてほしい。何でもするから、だから、お願い――」
「ちっ、違うの。こっ、これは嬉し涙、だから。アザリ君が、夫、って言ってくれたのが嬉しくて。……この間も嬉しくて泣いちゃったし、涙もろいのって歳のせいなのかな。」
「え、この間って、魔女になった次の日?あれって、魔女になったこと後悔して泣いたんじゃないの?」
「違うよ。これでアザリ君と同じ時を刻めるんだって思ったら感動しちゃって泣いちゃったの。」
「それ、ほんと?」
「私からあんなに迫ったんだし、魔女になって後悔とか、絶対ないから。」
「なんだ……、良かったぁ。」
アザリ君は、脱力したのかその場に座り込んでしまったので、私も隣に座った。
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