天空門のルシフィス 「天と地を裂かれし熾天使――その名はルシフィス」

かみちん

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惑星イオ 光国編

第1話 フラグ

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――夢を見ている。

 女の子「助けて……助けて……天使様……!」

 男の子「天使が助けてくれるって……言ったじゃないか!」

 天使「ルシフィス様! 大丈夫ですか! 大丈夫ですか!」

 ???「お前じゃ無理だ! 俺に代われ!」

 悪魔「お前がこっちに来るのは迷惑なんですよ! この槍で大人しく眠っていなさい!」

 ???「ぐぅ……私は……俺は……守れなかったのか……」

――視界が揺れ、音が遠ざかっていく。

 

「……あっ、またあの夢か」

 神山空(かみやま・そら)はゆっくりと目を開け、ため息をついた。
起きていても寝ていても、ふと頭に浮かぶあのワンシーン。
 誰なのかもわからない「ルシフィス」という名だけが、妙に耳に残る。

 警備の仕事で現場に立ちながら、空はその夢の意味を考えていた。
近くでは、小さな女の子が母親に「死んだらどこへ行くの?」と尋ねている。

 母親は笑って答える。

 「良いことをしていれば天国へ行くのよ。悪いことをしたら地獄へ行くの。天国には天使がいっぱいいて、とっても良いところなんだから、いっぱい良いことをしようね」

 天国と地獄――懐かしい響きだった。
   
 子どもの頃、空もそう信じていた。

 

「俺は神山空、25歳。会社員で独身。仕事は警備員……今も絶賛勤務中」

 現場は公園近くのマンション建設予定地。
出入りする車や作業員を誘導し、歩行者との事故を防ぐのが仕事だ。
 今度は資格試験も控えており、仕事と勉強に追われる毎日が続いていた。

 

 夕方、勤務後に警備会社へ戻ると、同僚の関本孝司が声をかけてきた。

「お疲れ~。試験、受けるんだって?」

「ああ」

「先を越されたな~。受かったら幹部だな。シフトお手柔らかに頼むよ?」

「任せてよ……って言っても、お互い担当現場は変わらないけどな」

 軽口を叩き合いながら、関本はふと真顔で尋ねる。

「そういや、お前、彼女いたよな?」

「ああ。付き合って三年になる」

「じゃあ資格取ったら、そろそろ結婚か?」

「……そうだな。取れたらプロポーズするつもりだ」

 ちょっと格好つけて言った瞬間、背筋を冷たいものが走った。
   
 振り返る――が、誰もいない。

「どした? 急に振り向いて」

「いや……なんか嫌な感じがした」

「お前、それフラグじゃね? 『この戦いが終わったら結婚するんだ』ってやつ」

「やめろ、それ死亡フラグだろ……」

 笑い飛ばしつつも、胸の奥に残るざらついた感覚は消えなかった。

 

 その夜、またあの夢を見た。

「ルシフィス様、大丈夫ですか!」――女性の声。

「お前じゃ無理だ、俺に代われ!」――男の声。

  頻度は以前より増し、三日に一度は見るようになっていた。

「ルシフィスって……誰だよ」

 空はぼやきながら出勤し、いつもの現場に立った。
   
 天気は下り坂で、午後から小雨の予報。

 十六時過ぎ、ポツポツと雨が降り始めた。
そのとき、車道の向こうに、昨日見かけた親子の姿があった。

 女の子がかぶっている新しい帽子が、突風に煽られて車道へ舞い上がる。
駆け出す女の子。タイミング悪く、左から車が――。

「危ない!」

 空は反射的に飛び出し、帽子を掴む。
車は急ブレーキで間一髪停止。
 母親が女の子を引き留めており、怪我はなかった。

 安堵したのも束の間、空の胸に鋭い痛みが走る。
 胸が苦しい。
 視界が揺れ、地面が遠ざかる感覚のまま、意識は途切れた。

 

――気づくと、空は自分の体を天井から見下ろしていた。

「……幽体離脱……?」

 呆然としていると、背後から肩を叩かれる。
 振り向けば、そこに立っていたのは――死神。

「そろそろ、逝きますよ」

「……逝く、って……」

 足元を見ると、肉体と繋がっていた糸がぷつりと切れていた。
 悟る――自分は死んだのだ。

 

 死神に腕を掴まれ、空は空へと昇っていく。
 やがて、雲海の向こうに巨大な門が現れた。

「こちらが天空界の入り口です」

 眩い光に包まれながら門をくぐると、そこには翼ある者たちが行き交う白い都が広がっていた。

 

「ようこそ、空様。私は揚老凛(よう・ろうりん)と申します」

 背の低い老人が近づき、深々と頭を下げる。
 武道着を纏い、鋭い眼光を放つその姿は、まるで達人だ。

 こうして、神山空は死神に導かれ、天空界で新たな運命と向き合うことになる――。
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