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惑星イオ 光国編
第12話 不死鳥神殿
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マンティコアの猛攻が終わり、空とマンティコアが対話を交わしている間、ミアたちは洞窟の中へと戻っていた。
「いや~……死ぬかと思ったというより、もう一回死んだね、あれは」
ミアが肩をすくめながら呟く。
「危なかったぜ」
トーリンも険しい顔で同意した。
サンダーストリームが放たれた瞬間、トーリン、ドーリ、オーリ、ニーイは即座にミアを囲み、盾となった。だが幸いにも、空が展開した《グラビティシールド》が雷撃を吸い込み、直撃の被害は最小限に留まった。
「それにしても……あの男、俺たちがいるのを知っていたのかどうかは分からねぇが、まるで全方位を守るような防ぎ方をしていたな」
「そうなの?」ミアが首をかしげる。
「ああ。もし単純に攻撃を吸収するだけなら、あんなに大きく展開する必要はねぇ。後方にいた女性を庇うだけならもっと小さく済むはずだ。だが奴は、周囲すべてを守るように展開していた」
トーリンの読みは正しかった。空は洞窟の出入口付近にいたスライムたち、つまり変身中の人間や動物が潜んでいるかもしれない存在を視認していた。それゆえ、可能な限りの範囲を防御し、被害を最小限に抑えようとしていたのだ。その意図は、結果としてミアたちを守ることにも繋がっていた。
(さすが天使様……それに空くんも、やっぱり女神様の使いだよね)
ミアは心の中で小さく頷いた。
「お嬢、どうする? 出るなら今がチャンスだぜ」
トーリンが問う。
「ううん。彼ら、どうやら洞窟の奥に向かうみたいだし、私たちはこのまま進んで天井に隠れて見ていよう」
「いいんですかい?」
「扉の中、ちょっと気になるし……それに、バレてもきっと助けてくれるよ。あの人たちなら」
「了解です。では先へ行きましょう」
そうしてミアたちは洞窟の奥へと進み、空たちの行動を密かに観察することにした。
一方その頃、ミラー領主館では、参謀ムドーが徐々にその本性を現し始めていた。
「メイソン以下、調査隊は樹海の奥に基地を設け、現在は周囲に向けて集合ラッパを鳴らしております。また、エレノアはギルド館にて何やら調べ物をしており、後から樹海の基地へ向かう予定です」
「……ふむ、まだ秘密を暴かれるには早すぎる。だが、念には念を入れておこう」
ムドーは机の引き出しから、一体の可愛らしい少女の人形を取り出した。だが、それはただの人形ではない。彼の信号に反応し、黒い霧を撒き散らす魔物と化す呪物だった。
「これをエレノアの荷物に忍ばせてこい」
「はっ!」
(これで樹海の調査隊をまとめて始末できれば、この領を掌握するのも容易い……人間どもを奴隷にして、贅沢三昧よ。グヒヒヒ)
その頃ギルド館では、エレノアが慎重に資料を読み込んでいた。
(やはり……領主様から出ている樹海調査のクエストはほとんどが失敗。成功した冒険者も、次のクエストで消息不明になっている。そして、失敗報告書や行方不明者リストに毎回サインしているのは……ムドー。怪しいけれど、決定的な証拠がない……)
エレノアが思考に没頭している間に、参謀諜報員はギルド館の倉庫へと潜入し、樹海への支援物資の中へあの人形を忍ばせていた――。
そして話は再び空たちへ戻る。
神聖力に満ちた洞窟の内部は、自然のままのようでいて、所々に人工的な加工の跡が見受けられた。不気味な罠もなく、順調に奥へと進んでいく。
「しかし空殿のスキルは見事なものですな。まさか体のサイズまで変えられるとは」
「馴れればもっと自在に使えると思うよ」
そう言いながら空は洞窟内を進んでいった。マンティコアの体は巨大で、この洞窟には入れないため、空が《無空間調律》を使い、その体を小さくしていたのだ。
そして、彼らはついに最深部の扉にたどり着いた。
「立派な扉ですね……」美加が感嘆の声を上げる。
「何があるんだろう?」
「魔結界が張られているみたいです」
「となると、マンティコアにこの場の守りを頼んだのは……魔族か、あるいは悪魔か」
「そのようですね」
「結界、破れる?」
「もちろんです」
美加が扉に手をかざすと、神聖力が流れ込み、魔結界が音もなく溶けていった。扉は黄色い光を放ち、ゆっくりと開いていく。
その向こうには、真珠のように輝く粒子が漂う神秘的な神殿が広がっていた。
中央へと伸びる石の階段を登ると、すり鉢状の巨大な皿――まるで鳥の巣のような構造物があった。
空がその中を覗くと――
「鳥がいる……! すごく綺麗な鳥だ」
それは両手で抱えられるほどの大きさで、白い羽根を輝かせていた。
「……どこかで見たことがあるような……」美加の目に閃くものがあった。
「我はこれを守っていたのか……」マンティコアが呟く。
空がそっと鳥に触れようとした瞬間、バチッという音とともに魔結界が反応した。皿の周囲には、こけしのような黒い木彫りの人形がいくつも並べられていた。
「封印の儀式か……?」
「この鳥……ただの鳥じゃない。これは……不死鳥です!」
「不死鳥って、あの……?」
「ええ。念のため、ガブリールを呼んでも良いですか?」
「もちろん」
美加が名を呼ぶと、ポンッという音と共に光が現れ、天使ガブリールが姿を現した――。
「お呼びに預かり光栄です。お久しぶりですね、美加お姉様。それと……」
ガブリールは静かに視線を横に向け、そこに佇む大柄な獣を見た。
「彼はマンティコア。いろいろあって洞窟の奥を見たいって言うから、一緒に来たんだ」
空が言うと、ガブリールは頷く。
「そうですか……」
だがその表情はどこか翳りを帯びていた。心の中でつぶやく。
(……彼は闇国の獣国王、マンティス五世。なぜこんな場所に……?)
「ガブリール、久しぶりだね」
空が笑顔で声をかけるが、ふと目を見張る。目の前のガブリールの姿に思わず見惚れてしまっていたのだ。
「空! 何ガブリールをジロジロと見ているんですか!」
美加の怒りの声が飛ぶ。
「い、いや、記憶違いかな? ずいぶん印象が違うような気がして……ははは」
空は誤魔化しながら笑う。下界モードのガブリールの姿に見惚れていたなどとは口が裂けても言えなかった。
美加はぷいとそっぽを向く。
「……それで、美加お姉様。ご用件は?」
ガブリールが問いかけると、美加はすり鉢状の皿にいる小さな鳥を見せる。
「この子のことなんですけど……不死鳥じゃないかしら?」
「どれどれ……確かに、不死鳥ですね。でもおかしいですね。本来なら勇者と契約し、魔王討伐の旅に同行しているはずですが」
「もしこの子が本物の不死鳥なら……今、勇者と旅してるのは偽物ってこと?」
「その可能性は高いですね。勇者は伝説に導かれ、町や村を巡る中で不死鳥と契約することになるはず。その過程で復活させるのが定めなのですが……」
空が目を細める。
「……勇者と契約って?」
「はい。勇者の持つ“加護”は不死鳥と契約しているかどうかで大きく変わります。契約していれば、命の危機に瀕した際、自動的に記録した町村へ転送され、短時間で回復します。しかし契約していなければ……加護によって魂魄が素粒子となって教会の棺に戻され、時間をかけて再構成され復活するものの、レベルは低下してしまいます」
「それは……致命的だな」
「ええ。おそらくこの子は、復活してすぐに封印され、周囲の呪物で呪いをかけられたのでしょう」
空が周囲を見渡す。
「このあたりにあるものは……?」
「これは……マンドレイクの木の根から生えた魔植物“マンドラゴラ”です。闇属性の木で、無念に散った動物たちの怨念を吸って育ちます。怨念は花を咲かせて昇華されるのですが、咲く前に無理に引き抜くと、強烈な悲鳴と共に周囲に怨念を撒き散らし、動物たちを魔物に変えるのです」
空が不死鳥の羽に目をやる。
「羽が黒くなってきているのは……」
「怨念を浴び続けたためでしょう。さらに続けば、“死の黒鳥”――デスフェニックスに変わっていたかもしれません」
「デスフェニックス……」
「フェニックスは命を与える存在ですが、デスフェニックスは逆。姿を見た者、鳴き声を聞いた者――即死耐性のないすべての存在に死をもたらす魔怪鳥です」
空はごくりと唾を飲み込んだ。
「早く発見できてよかったですが……一つ問題があります」
「問題?」
「ええ。不死鳥は不死不滅の存在。どの世界にも連れていくことができないのです。天界も、天空界も、魔空界も、魔界も――すべて不適です」
「つまり、下界以外は全部アウトか……」
すると美加がぽつりと呟く。
「空……あの場所はどうかしら?」
「あの場所?」
空は記憶をたどる。創造神から授かった特別な空間――亜空間の存在を。
「思い出した! ガブリール、この場所はどうだろう」
そう言って、空は掌に白いもやの亜空間への入口を生み出す。それは下界の一部でありながら、負の力が存在しない清浄な場所。持ち主の意思で広さを変えられる、理想的な聖域だ。
「少し見てきます」
ガブリールは白いもやの中に消え、しばらくして戻ってきた。
「素晴らしい所ですね。ここなら大丈夫です」
「よかった!」
「それでは、不死鳥の魔結界を解除して亜空間へ連れていきます。天使たちを呼んで神聖力を注ぎたいので、美加お姉様、結界解除をお願いします」
「分かりました」
美加は右手に神聖力を集中させ、優しく結界を解いた。不死鳥を抱き上げると、ガブリールへ手渡す。
「空様、その……マンティコアはどうされますか?」
「ん~マンティコアがよければ、一緒に来るか?」
突然の誘いに、マンティコアは戸惑った。
「我は魔獣。あなた方とは相容れぬ存在……我が共に行くなど……」
「でも、お前がいたおかげで不死鳥は無事だった。お前は“良いやつ”だ。一緒に来よう!」
「しかし……」
そのやり取りを見ていたガブリールが口を開く。
「空様が名前を与えれば、魔獣は“聖獣”へ属性変化することが可能です」
「……誠か?」
「ええ。主従の契約にはなりますが、名前を受け入れれば成立します」
「……よろしくお願いしたい」
「わかった」
空はしばし考えた後、静かに告げた。
「お前の名前は――ライガーだ!」
「ライガー……良い名だ。感謝する!」
その瞬間、ライガーの身体が光り、徐々に変化を始める。
「少しずつですが、聖なる姿へ変わっていくでしょう」
「ガブリール殿、美加殿、感謝します」
ガブリールは不死鳥を抱き、静かに亜空間へと消えていった。
「空、私も亜空間に行って様子を見てきてもいいですか?」
「うん、もちろん。思い出させてくれてありがとう」
「う、うん……」
美加は頬を赤らめながら亜空間へと足を踏み入れていった。
二人が去ったあと、空は小さく息をついた。
「さあ、外に出るか」
「はっ! 空殿!」
空は足を止め、祭壇の周囲に残された呪物を見た。
「……その前に、これらを回収しておくか」
彼はグラビティビットを展開し、呪物を回収していく。
(もしかして、これが黒い霧の発生源だったのかもしれないな……)
「どうしました? 空殿」
「いや、なんでもない。それじゃ、外に行こうか」
そう言って、空とライガーは、不死鳥の眠っていた神殿を後にした。
「いや~……死ぬかと思ったというより、もう一回死んだね、あれは」
ミアが肩をすくめながら呟く。
「危なかったぜ」
トーリンも険しい顔で同意した。
サンダーストリームが放たれた瞬間、トーリン、ドーリ、オーリ、ニーイは即座にミアを囲み、盾となった。だが幸いにも、空が展開した《グラビティシールド》が雷撃を吸い込み、直撃の被害は最小限に留まった。
「それにしても……あの男、俺たちがいるのを知っていたのかどうかは分からねぇが、まるで全方位を守るような防ぎ方をしていたな」
「そうなの?」ミアが首をかしげる。
「ああ。もし単純に攻撃を吸収するだけなら、あんなに大きく展開する必要はねぇ。後方にいた女性を庇うだけならもっと小さく済むはずだ。だが奴は、周囲すべてを守るように展開していた」
トーリンの読みは正しかった。空は洞窟の出入口付近にいたスライムたち、つまり変身中の人間や動物が潜んでいるかもしれない存在を視認していた。それゆえ、可能な限りの範囲を防御し、被害を最小限に抑えようとしていたのだ。その意図は、結果としてミアたちを守ることにも繋がっていた。
(さすが天使様……それに空くんも、やっぱり女神様の使いだよね)
ミアは心の中で小さく頷いた。
「お嬢、どうする? 出るなら今がチャンスだぜ」
トーリンが問う。
「ううん。彼ら、どうやら洞窟の奥に向かうみたいだし、私たちはこのまま進んで天井に隠れて見ていよう」
「いいんですかい?」
「扉の中、ちょっと気になるし……それに、バレてもきっと助けてくれるよ。あの人たちなら」
「了解です。では先へ行きましょう」
そうしてミアたちは洞窟の奥へと進み、空たちの行動を密かに観察することにした。
一方その頃、ミラー領主館では、参謀ムドーが徐々にその本性を現し始めていた。
「メイソン以下、調査隊は樹海の奥に基地を設け、現在は周囲に向けて集合ラッパを鳴らしております。また、エレノアはギルド館にて何やら調べ物をしており、後から樹海の基地へ向かう予定です」
「……ふむ、まだ秘密を暴かれるには早すぎる。だが、念には念を入れておこう」
ムドーは机の引き出しから、一体の可愛らしい少女の人形を取り出した。だが、それはただの人形ではない。彼の信号に反応し、黒い霧を撒き散らす魔物と化す呪物だった。
「これをエレノアの荷物に忍ばせてこい」
「はっ!」
(これで樹海の調査隊をまとめて始末できれば、この領を掌握するのも容易い……人間どもを奴隷にして、贅沢三昧よ。グヒヒヒ)
その頃ギルド館では、エレノアが慎重に資料を読み込んでいた。
(やはり……領主様から出ている樹海調査のクエストはほとんどが失敗。成功した冒険者も、次のクエストで消息不明になっている。そして、失敗報告書や行方不明者リストに毎回サインしているのは……ムドー。怪しいけれど、決定的な証拠がない……)
エレノアが思考に没頭している間に、参謀諜報員はギルド館の倉庫へと潜入し、樹海への支援物資の中へあの人形を忍ばせていた――。
そして話は再び空たちへ戻る。
神聖力に満ちた洞窟の内部は、自然のままのようでいて、所々に人工的な加工の跡が見受けられた。不気味な罠もなく、順調に奥へと進んでいく。
「しかし空殿のスキルは見事なものですな。まさか体のサイズまで変えられるとは」
「馴れればもっと自在に使えると思うよ」
そう言いながら空は洞窟内を進んでいった。マンティコアの体は巨大で、この洞窟には入れないため、空が《無空間調律》を使い、その体を小さくしていたのだ。
そして、彼らはついに最深部の扉にたどり着いた。
「立派な扉ですね……」美加が感嘆の声を上げる。
「何があるんだろう?」
「魔結界が張られているみたいです」
「となると、マンティコアにこの場の守りを頼んだのは……魔族か、あるいは悪魔か」
「そのようですね」
「結界、破れる?」
「もちろんです」
美加が扉に手をかざすと、神聖力が流れ込み、魔結界が音もなく溶けていった。扉は黄色い光を放ち、ゆっくりと開いていく。
その向こうには、真珠のように輝く粒子が漂う神秘的な神殿が広がっていた。
中央へと伸びる石の階段を登ると、すり鉢状の巨大な皿――まるで鳥の巣のような構造物があった。
空がその中を覗くと――
「鳥がいる……! すごく綺麗な鳥だ」
それは両手で抱えられるほどの大きさで、白い羽根を輝かせていた。
「……どこかで見たことがあるような……」美加の目に閃くものがあった。
「我はこれを守っていたのか……」マンティコアが呟く。
空がそっと鳥に触れようとした瞬間、バチッという音とともに魔結界が反応した。皿の周囲には、こけしのような黒い木彫りの人形がいくつも並べられていた。
「封印の儀式か……?」
「この鳥……ただの鳥じゃない。これは……不死鳥です!」
「不死鳥って、あの……?」
「ええ。念のため、ガブリールを呼んでも良いですか?」
「もちろん」
美加が名を呼ぶと、ポンッという音と共に光が現れ、天使ガブリールが姿を現した――。
「お呼びに預かり光栄です。お久しぶりですね、美加お姉様。それと……」
ガブリールは静かに視線を横に向け、そこに佇む大柄な獣を見た。
「彼はマンティコア。いろいろあって洞窟の奥を見たいって言うから、一緒に来たんだ」
空が言うと、ガブリールは頷く。
「そうですか……」
だがその表情はどこか翳りを帯びていた。心の中でつぶやく。
(……彼は闇国の獣国王、マンティス五世。なぜこんな場所に……?)
「ガブリール、久しぶりだね」
空が笑顔で声をかけるが、ふと目を見張る。目の前のガブリールの姿に思わず見惚れてしまっていたのだ。
「空! 何ガブリールをジロジロと見ているんですか!」
美加の怒りの声が飛ぶ。
「い、いや、記憶違いかな? ずいぶん印象が違うような気がして……ははは」
空は誤魔化しながら笑う。下界モードのガブリールの姿に見惚れていたなどとは口が裂けても言えなかった。
美加はぷいとそっぽを向く。
「……それで、美加お姉様。ご用件は?」
ガブリールが問いかけると、美加はすり鉢状の皿にいる小さな鳥を見せる。
「この子のことなんですけど……不死鳥じゃないかしら?」
「どれどれ……確かに、不死鳥ですね。でもおかしいですね。本来なら勇者と契約し、魔王討伐の旅に同行しているはずですが」
「もしこの子が本物の不死鳥なら……今、勇者と旅してるのは偽物ってこと?」
「その可能性は高いですね。勇者は伝説に導かれ、町や村を巡る中で不死鳥と契約することになるはず。その過程で復活させるのが定めなのですが……」
空が目を細める。
「……勇者と契約って?」
「はい。勇者の持つ“加護”は不死鳥と契約しているかどうかで大きく変わります。契約していれば、命の危機に瀕した際、自動的に記録した町村へ転送され、短時間で回復します。しかし契約していなければ……加護によって魂魄が素粒子となって教会の棺に戻され、時間をかけて再構成され復活するものの、レベルは低下してしまいます」
「それは……致命的だな」
「ええ。おそらくこの子は、復活してすぐに封印され、周囲の呪物で呪いをかけられたのでしょう」
空が周囲を見渡す。
「このあたりにあるものは……?」
「これは……マンドレイクの木の根から生えた魔植物“マンドラゴラ”です。闇属性の木で、無念に散った動物たちの怨念を吸って育ちます。怨念は花を咲かせて昇華されるのですが、咲く前に無理に引き抜くと、強烈な悲鳴と共に周囲に怨念を撒き散らし、動物たちを魔物に変えるのです」
空が不死鳥の羽に目をやる。
「羽が黒くなってきているのは……」
「怨念を浴び続けたためでしょう。さらに続けば、“死の黒鳥”――デスフェニックスに変わっていたかもしれません」
「デスフェニックス……」
「フェニックスは命を与える存在ですが、デスフェニックスは逆。姿を見た者、鳴き声を聞いた者――即死耐性のないすべての存在に死をもたらす魔怪鳥です」
空はごくりと唾を飲み込んだ。
「早く発見できてよかったですが……一つ問題があります」
「問題?」
「ええ。不死鳥は不死不滅の存在。どの世界にも連れていくことができないのです。天界も、天空界も、魔空界も、魔界も――すべて不適です」
「つまり、下界以外は全部アウトか……」
すると美加がぽつりと呟く。
「空……あの場所はどうかしら?」
「あの場所?」
空は記憶をたどる。創造神から授かった特別な空間――亜空間の存在を。
「思い出した! ガブリール、この場所はどうだろう」
そう言って、空は掌に白いもやの亜空間への入口を生み出す。それは下界の一部でありながら、負の力が存在しない清浄な場所。持ち主の意思で広さを変えられる、理想的な聖域だ。
「少し見てきます」
ガブリールは白いもやの中に消え、しばらくして戻ってきた。
「素晴らしい所ですね。ここなら大丈夫です」
「よかった!」
「それでは、不死鳥の魔結界を解除して亜空間へ連れていきます。天使たちを呼んで神聖力を注ぎたいので、美加お姉様、結界解除をお願いします」
「分かりました」
美加は右手に神聖力を集中させ、優しく結界を解いた。不死鳥を抱き上げると、ガブリールへ手渡す。
「空様、その……マンティコアはどうされますか?」
「ん~マンティコアがよければ、一緒に来るか?」
突然の誘いに、マンティコアは戸惑った。
「我は魔獣。あなた方とは相容れぬ存在……我が共に行くなど……」
「でも、お前がいたおかげで不死鳥は無事だった。お前は“良いやつ”だ。一緒に来よう!」
「しかし……」
そのやり取りを見ていたガブリールが口を開く。
「空様が名前を与えれば、魔獣は“聖獣”へ属性変化することが可能です」
「……誠か?」
「ええ。主従の契約にはなりますが、名前を受け入れれば成立します」
「……よろしくお願いしたい」
「わかった」
空はしばし考えた後、静かに告げた。
「お前の名前は――ライガーだ!」
「ライガー……良い名だ。感謝する!」
その瞬間、ライガーの身体が光り、徐々に変化を始める。
「少しずつですが、聖なる姿へ変わっていくでしょう」
「ガブリール殿、美加殿、感謝します」
ガブリールは不死鳥を抱き、静かに亜空間へと消えていった。
「空、私も亜空間に行って様子を見てきてもいいですか?」
「うん、もちろん。思い出させてくれてありがとう」
「う、うん……」
美加は頬を赤らめながら亜空間へと足を踏み入れていった。
二人が去ったあと、空は小さく息をついた。
「さあ、外に出るか」
「はっ! 空殿!」
空は足を止め、祭壇の周囲に残された呪物を見た。
「……その前に、これらを回収しておくか」
彼はグラビティビットを展開し、呪物を回収していく。
(もしかして、これが黒い霧の発生源だったのかもしれないな……)
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