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惑星イオ 光国編
第36話 帝国皇女 前編
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その日、勇者王国を発ち、近郊の町へと向かう一団の馬車あった。その中には、静かな気配を纏った少女がいた。
「しかし、急に各地をご訪問とは……姫様もご苦労が絶えませんね」
馬車の揺れに身を預けながら、近衛隊長エリアが口を開いた。
「来年にはティオーネ教団へ入信しますから、兄様が“今のうちに外の空気を吸っておけ”と……おそらく、それが優しさなのでしょう」
イザーナ・エレバン皇女はそう言って、わずかに微笑んだ。
「ハリア殿下のご命令、というわけですね」
「……ええ」
エレバン帝国の第四師団近衛隊長、エリアは若干二十代前半の神官剣士。肩までの銀髪を束ね、軽銀製のライトアーマーをまとっている。一方、皇女イザーナは十四歳。白の帝国礼装の下に、軽くて丈夫なミスリルの鎖帷子を仕込んでいた。
彼女が率いる第四師団は、僧侶と魔法使いからなる六千名の後方支援部隊。戦場の裏方や町の防衛、復旧活動など、決して目立たぬが欠かせぬ存在であった。
窓の外を見つめながら、イザーナは思いに沈む。
(優しかった兄様たちが……どうしてああなってしまったのか)
エレバン帝国皇帝ハリスには四人の子がいた。長男ハリア、次男ハイリス、三男ハノス、そして末の長女イザーナ。しかし、数年前の魔物の襲撃で、ハイリスとハノスは命を落とした。
以降、ハリアは復讐を胸に、シールド領の最前線に身を置き続けている――少なくとも、公式にはそう伝えられていた。
(私も……兄様の力にならなければ)
その沈黙を破ったのは、エリアの警戒心だった。
「……本日の護衛ですが、いささか手薄では? 第一師団兵が五人、加えて冒険者が六名とは」
出発当初は十五人の第一師団兵が護衛していたが、勇者王国を出る段階でその数は大幅に削減されていた。皇太子ハリアの命令であったという。
代わりに加わったのが、シールド領で名の知れた冒険者パーティー六名。その中には、ひときわ目立つ男がいた。
「これから向かうのはギルド総本部。冒険者も多く集まっていますし、大丈夫ですよ」
「……そうですか。そういえば、ミラー領のギルドに私の妹がいると話したのを覚えていますか?」
「ええ、耳にタコができるほど……ふふっ」
イザーナの笑みに、エリアも思わず頬を緩めた。
だが、その穏やかな空気とは裏腹に、馬車の外では不穏な会話が飛び交っていた。
「あ、兄貴、い、いよいよですね~」
浮かれた口調で話しかける男――ガレス。顔色が悪く、長い鼻と舌を持つその姿は不気味さすら感じさせる。
「……何がいよいよだ」
リーダー格の男、キールが鼻で笑った。
「も、もう、この日をどれほど待ったことか……!」
「まぁな。アイツなら、命令するだろうと思ってたさ」
彼らは「キールと愉快な仲間たち」と呼ばれるパーティー。表向きは英雄扱いの冒険者だが、その実態は――悪党だった。
数年前、シールド領北東樹海での大規模ゴブリン討伐。その際、樹海に入ったハイリスが行方不明となり、ハリアみずから捜索に出るもハリアが魔物に襲われそうなった時に、同行していたキール達がハリアを助け、無事にシールド城塞に連れ帰った。ハイリスは助けられなかったが、ハリアは樹海を恐れず勇敢に捜索した英雄となり、同時に弟を亡くし領民からの同情を得た。
しかし真相は異なる。
(ハイリスは、俺たちが“消した”。ハリアの命令でな……)
キールは冷ややかな目で遠くを見つめる。
(それをゴブリンの仕業に見せかけて、ハリアをお涙頂戴の英雄に仕立て上げる――見事な計画だったぜ)
そして今。彼らに下された命令はイザーナを消せ……。
(“殺せ”じゃない。“消せ”……か)
「あ、兄貴、どうかしました?」
「いや……何でもねぇ」
キールの唇に、ゆっくりと歪な笑みが浮かぶ。
(殺さなくてもいい。監禁して、子を産ませりゃいい。そうすりゃ……俺は皇族の“血”を手にできる。アジトは樹海の奥、誰にも見つかりゃしねぇ)
イザーナ皇女の運命が、大きく揺らごうとしていた。
キールの目に、凍てつくような邪気が宿る。
(予定は五日後か……楽しい旅になりそうだ)
――帝国皇女の旅路は、静かに狂気の影へと踏み出していた。
「しかし、急に各地をご訪問とは……姫様もご苦労が絶えませんね」
馬車の揺れに身を預けながら、近衛隊長エリアが口を開いた。
「来年にはティオーネ教団へ入信しますから、兄様が“今のうちに外の空気を吸っておけ”と……おそらく、それが優しさなのでしょう」
イザーナ・エレバン皇女はそう言って、わずかに微笑んだ。
「ハリア殿下のご命令、というわけですね」
「……ええ」
エレバン帝国の第四師団近衛隊長、エリアは若干二十代前半の神官剣士。肩までの銀髪を束ね、軽銀製のライトアーマーをまとっている。一方、皇女イザーナは十四歳。白の帝国礼装の下に、軽くて丈夫なミスリルの鎖帷子を仕込んでいた。
彼女が率いる第四師団は、僧侶と魔法使いからなる六千名の後方支援部隊。戦場の裏方や町の防衛、復旧活動など、決して目立たぬが欠かせぬ存在であった。
窓の外を見つめながら、イザーナは思いに沈む。
(優しかった兄様たちが……どうしてああなってしまったのか)
エレバン帝国皇帝ハリスには四人の子がいた。長男ハリア、次男ハイリス、三男ハノス、そして末の長女イザーナ。しかし、数年前の魔物の襲撃で、ハイリスとハノスは命を落とした。
以降、ハリアは復讐を胸に、シールド領の最前線に身を置き続けている――少なくとも、公式にはそう伝えられていた。
(私も……兄様の力にならなければ)
その沈黙を破ったのは、エリアの警戒心だった。
「……本日の護衛ですが、いささか手薄では? 第一師団兵が五人、加えて冒険者が六名とは」
出発当初は十五人の第一師団兵が護衛していたが、勇者王国を出る段階でその数は大幅に削減されていた。皇太子ハリアの命令であったという。
代わりに加わったのが、シールド領で名の知れた冒険者パーティー六名。その中には、ひときわ目立つ男がいた。
「これから向かうのはギルド総本部。冒険者も多く集まっていますし、大丈夫ですよ」
「……そうですか。そういえば、ミラー領のギルドに私の妹がいると話したのを覚えていますか?」
「ええ、耳にタコができるほど……ふふっ」
イザーナの笑みに、エリアも思わず頬を緩めた。
だが、その穏やかな空気とは裏腹に、馬車の外では不穏な会話が飛び交っていた。
「あ、兄貴、い、いよいよですね~」
浮かれた口調で話しかける男――ガレス。顔色が悪く、長い鼻と舌を持つその姿は不気味さすら感じさせる。
「……何がいよいよだ」
リーダー格の男、キールが鼻で笑った。
「も、もう、この日をどれほど待ったことか……!」
「まぁな。アイツなら、命令するだろうと思ってたさ」
彼らは「キールと愉快な仲間たち」と呼ばれるパーティー。表向きは英雄扱いの冒険者だが、その実態は――悪党だった。
数年前、シールド領北東樹海での大規模ゴブリン討伐。その際、樹海に入ったハイリスが行方不明となり、ハリアみずから捜索に出るもハリアが魔物に襲われそうなった時に、同行していたキール達がハリアを助け、無事にシールド城塞に連れ帰った。ハイリスは助けられなかったが、ハリアは樹海を恐れず勇敢に捜索した英雄となり、同時に弟を亡くし領民からの同情を得た。
しかし真相は異なる。
(ハイリスは、俺たちが“消した”。ハリアの命令でな……)
キールは冷ややかな目で遠くを見つめる。
(それをゴブリンの仕業に見せかけて、ハリアをお涙頂戴の英雄に仕立て上げる――見事な計画だったぜ)
そして今。彼らに下された命令はイザーナを消せ……。
(“殺せ”じゃない。“消せ”……か)
「あ、兄貴、どうかしました?」
「いや……何でもねぇ」
キールの唇に、ゆっくりと歪な笑みが浮かぶ。
(殺さなくてもいい。監禁して、子を産ませりゃいい。そうすりゃ……俺は皇族の“血”を手にできる。アジトは樹海の奥、誰にも見つかりゃしねぇ)
イザーナ皇女の運命が、大きく揺らごうとしていた。
キールの目に、凍てつくような邪気が宿る。
(予定は五日後か……楽しい旅になりそうだ)
――帝国皇女の旅路は、静かに狂気の影へと踏み出していた。
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