46 / 101
惑星イオ 光国編
第46話 光鏡砲改良計画
しおりを挟む
ドリード王国の国王アレクに挨拶をし、中立都市の意義と、謎の地下トンネルの存在を伝えた翌日。
空はミア、ドーリ、ニーイと共に、ミラー城を訪れていた。
目的は二つ。
一つは、シールド領から地下トンネルがミラー領まで伸びていないかを確認すること。
もう一つは、重要防衛兵器である光鏡砲の改良だ。
すでに事前連絡を受けていたリアムも現地に合流し、空たちは光鏡砲のある塔の周辺から地下の構造を探り始めていた。
「しかし……トンネルがもし光鏡砲を狙っているなら、進路はまっすぐ塔の地下を目指してくると思います」
図面を手に、リアムが眉根を寄せながらそう呟いた。
「やっぱりあったよ~。シールド領から来てる、そして進路は……光鏡砲の塔の下に向かってると思う~」
ミアが地下空間把握のスキルを使い、地下の構造をなぞりながら、確信めいた声で言い放つ。
リアムが深く頷き、静かに言った。
「なるほど。ではドリード王国と同じく、トンネルの出口に罠を仕掛ける作戦ですね」
そのとき、足音が響いた。
塔の入り口から、ミラー領の領主ルークと、彼に同行していた能天使カマイルが姿を現した。
「光鏡砲の塔の真下にトンネルの出口を誘導することはできないかな?」
ルークの唐突な提案に、リアムが目を丸くする。
「塔の真下って……それ、崩れる危険はないのか?」
「心配無用」
ルークは即座に首を横に振り、懐から塔の設計図を広げて見せた。
「塔の基礎には地魔法で打ち込んだ強化杭が使われていて、床に穴を開けるくらいじゃびくともしない構造なんだ」
さらにルークは続けた。
「光鏡砲は球体だから、真下にも撃てる。地下に抜ける穴を開けて、そこに魔法鏡を設置すれば、反射させてトンネルの出口から内部を狙い撃ちできるだろ?」
「なるほど、そういうことか……」
リアムは感心したように設計図を覗き込み、唸った。
ドーリとニーイも黙って頷き、ミアと共に作業の準備に取りかかろうとした――そのときだった。
空間に、妙な沈黙が満ちた。
どこか、ぴたりと“流れ”が止まったような……言葉にしがたい違和感。
最初に気づいたのはルークだった。
(……なんで空さんの頭に、スライムが乗ってるんだ?)
奇妙な光景。
空の頭の上に、ぷるぷると揺れる白いスライム。本人はまったく気づいていない様子だ。
(聞きたい……でも、天使様関連となると軽々しく口に出せない……)
リアムも同様に言葉を呑んだ。
ドーリが不安げに空を見つめ、ニーイだけが興味津々に目を輝かせている。
誰もがその異様さを感じながら、誰一人として声を発せずにいた。
その沈黙を破ったのは、ただ一人――
「空様?」
能天使カマイルの、凛とした声だった。
「どうかしましたか?」
「……いつの間にエバ様とお会いになったのですか?」
空は首をかしげた。
「エバ様? あのエバーテイン魔法国の国王様?」
「はい、そうです」
「……いや、近々挨拶には伺おうと思ってましたけど……まだお会いしたこともないですよ?」
カマイルは一瞬、返答に迷ったようだったが、静かに空の頭上を指さした。
「……空様の頭の上に、いらっしゃいますよ」
その瞬間、時間が凍ったかのように感じられた。
空がゆっくりと頭に手をやると、ひんやりとした柔らかな感触が指先に触れた。
「お久しぶりです、ルシフィス様! 私エバですよ」
スライムが喋った。
次の瞬間、それは空の頭からぴょんと飛び降り、地面に降り立つや否や、光が弾けた。
現れたのは十代後半ほどの少女――
しかしその瞳には、幾星霜の時を超えた者にしか持ちえぬ、深く鋭い光が宿っていた。
空は反射的に頭を下げた。
「は、初めまして。天使の空と申します」
「……む?」
エバはまじまじと空の顔を見つめる。
その眼差しには、過去を探るような気配があった。
(……やはり、記憶喪失。あの事件の影響か……)
数秒の沈黙のあと、エバはふっと微笑んだ。
「失礼しました。お初にお目にかかります。エバーテイン魔法国の国王、エバと申します。以後、よろしくお願いいたします。とりあえず天空門でお話しませんか?」
彼女の声は優しかったが、その場の空気は一変していた。
空が何気なく周囲を見渡すと、ミア、ドーリ、ニーイ、リアム、ルーク――皆が硬直している。
「光鏡砲の改良は……」
空が口を開き。その言葉に
「だ、大丈夫だよ~! ボク達でやっておくから、行ってらっしゃい~」
ミアが明るく返し、ドーリとニーイもそれに続く。
「任せてくれ」
「きっちりやっておくぜ!」
「ふんふん!」
背中を押すような彼らの声を受け、空はエバと共に天空門へと向かった。
その背中が見えなくなった後、残された者たちはついに緊張の糸を解いた。
「……まさかのエバ様か……」
ルークがぽつりと呟く。
「やっぱり世界の重鎮の一人だったか」
リアムが感慨深げに言う。
「空にぃ、良い意味で普通だから、つい気を許しちゃうんだよね~」
ミアが笑う。
「分かる気がする。なんていうか……人間らしいというか、あっ!」
リアムが咄嗟に口を押さえる。
“人間らしい”という表現は、能天使の前では不敬にあたるかもしれない。
だが――
「大丈夫ですぞ。余計なことは話しませんので」
カマイルは穏やかに、しかしどこか愉快そうに微笑んだ。
リアムは安堵の息を漏らした。
「……ルークは、エバ様に会ったことは?」
「アレス様と魔王封印の祝賀会で見ただろ! ほら、あのときの――」
「……あれ? もっと背が高かったような……」
エバーテイン魔法国の国王・エバ――
その存在は伝説のごとく語られ、滅多にその姿を現さない。
魔法使いでもない限り、人生で一度目にできるかどうかすら怪しいほどの存在だった。
だからこそ、今でも目の前にいたはずの彼女の印象が、誰の中でも曖昧だった。
そしてリアムたちは気を取り直し、改めて光鏡砲の改良作業へと戻っていく。
だがその胸の内には、国王エバの登場がもたらした得体の知れない“予感”が、静かに、しかし確かに灯っていた。
空はミア、ドーリ、ニーイと共に、ミラー城を訪れていた。
目的は二つ。
一つは、シールド領から地下トンネルがミラー領まで伸びていないかを確認すること。
もう一つは、重要防衛兵器である光鏡砲の改良だ。
すでに事前連絡を受けていたリアムも現地に合流し、空たちは光鏡砲のある塔の周辺から地下の構造を探り始めていた。
「しかし……トンネルがもし光鏡砲を狙っているなら、進路はまっすぐ塔の地下を目指してくると思います」
図面を手に、リアムが眉根を寄せながらそう呟いた。
「やっぱりあったよ~。シールド領から来てる、そして進路は……光鏡砲の塔の下に向かってると思う~」
ミアが地下空間把握のスキルを使い、地下の構造をなぞりながら、確信めいた声で言い放つ。
リアムが深く頷き、静かに言った。
「なるほど。ではドリード王国と同じく、トンネルの出口に罠を仕掛ける作戦ですね」
そのとき、足音が響いた。
塔の入り口から、ミラー領の領主ルークと、彼に同行していた能天使カマイルが姿を現した。
「光鏡砲の塔の真下にトンネルの出口を誘導することはできないかな?」
ルークの唐突な提案に、リアムが目を丸くする。
「塔の真下って……それ、崩れる危険はないのか?」
「心配無用」
ルークは即座に首を横に振り、懐から塔の設計図を広げて見せた。
「塔の基礎には地魔法で打ち込んだ強化杭が使われていて、床に穴を開けるくらいじゃびくともしない構造なんだ」
さらにルークは続けた。
「光鏡砲は球体だから、真下にも撃てる。地下に抜ける穴を開けて、そこに魔法鏡を設置すれば、反射させてトンネルの出口から内部を狙い撃ちできるだろ?」
「なるほど、そういうことか……」
リアムは感心したように設計図を覗き込み、唸った。
ドーリとニーイも黙って頷き、ミアと共に作業の準備に取りかかろうとした――そのときだった。
空間に、妙な沈黙が満ちた。
どこか、ぴたりと“流れ”が止まったような……言葉にしがたい違和感。
最初に気づいたのはルークだった。
(……なんで空さんの頭に、スライムが乗ってるんだ?)
奇妙な光景。
空の頭の上に、ぷるぷると揺れる白いスライム。本人はまったく気づいていない様子だ。
(聞きたい……でも、天使様関連となると軽々しく口に出せない……)
リアムも同様に言葉を呑んだ。
ドーリが不安げに空を見つめ、ニーイだけが興味津々に目を輝かせている。
誰もがその異様さを感じながら、誰一人として声を発せずにいた。
その沈黙を破ったのは、ただ一人――
「空様?」
能天使カマイルの、凛とした声だった。
「どうかしましたか?」
「……いつの間にエバ様とお会いになったのですか?」
空は首をかしげた。
「エバ様? あのエバーテイン魔法国の国王様?」
「はい、そうです」
「……いや、近々挨拶には伺おうと思ってましたけど……まだお会いしたこともないですよ?」
カマイルは一瞬、返答に迷ったようだったが、静かに空の頭上を指さした。
「……空様の頭の上に、いらっしゃいますよ」
その瞬間、時間が凍ったかのように感じられた。
空がゆっくりと頭に手をやると、ひんやりとした柔らかな感触が指先に触れた。
「お久しぶりです、ルシフィス様! 私エバですよ」
スライムが喋った。
次の瞬間、それは空の頭からぴょんと飛び降り、地面に降り立つや否や、光が弾けた。
現れたのは十代後半ほどの少女――
しかしその瞳には、幾星霜の時を超えた者にしか持ちえぬ、深く鋭い光が宿っていた。
空は反射的に頭を下げた。
「は、初めまして。天使の空と申します」
「……む?」
エバはまじまじと空の顔を見つめる。
その眼差しには、過去を探るような気配があった。
(……やはり、記憶喪失。あの事件の影響か……)
数秒の沈黙のあと、エバはふっと微笑んだ。
「失礼しました。お初にお目にかかります。エバーテイン魔法国の国王、エバと申します。以後、よろしくお願いいたします。とりあえず天空門でお話しませんか?」
彼女の声は優しかったが、その場の空気は一変していた。
空が何気なく周囲を見渡すと、ミア、ドーリ、ニーイ、リアム、ルーク――皆が硬直している。
「光鏡砲の改良は……」
空が口を開き。その言葉に
「だ、大丈夫だよ~! ボク達でやっておくから、行ってらっしゃい~」
ミアが明るく返し、ドーリとニーイもそれに続く。
「任せてくれ」
「きっちりやっておくぜ!」
「ふんふん!」
背中を押すような彼らの声を受け、空はエバと共に天空門へと向かった。
その背中が見えなくなった後、残された者たちはついに緊張の糸を解いた。
「……まさかのエバ様か……」
ルークがぽつりと呟く。
「やっぱり世界の重鎮の一人だったか」
リアムが感慨深げに言う。
「空にぃ、良い意味で普通だから、つい気を許しちゃうんだよね~」
ミアが笑う。
「分かる気がする。なんていうか……人間らしいというか、あっ!」
リアムが咄嗟に口を押さえる。
“人間らしい”という表現は、能天使の前では不敬にあたるかもしれない。
だが――
「大丈夫ですぞ。余計なことは話しませんので」
カマイルは穏やかに、しかしどこか愉快そうに微笑んだ。
リアムは安堵の息を漏らした。
「……ルークは、エバ様に会ったことは?」
「アレス様と魔王封印の祝賀会で見ただろ! ほら、あのときの――」
「……あれ? もっと背が高かったような……」
エバーテイン魔法国の国王・エバ――
その存在は伝説のごとく語られ、滅多にその姿を現さない。
魔法使いでもない限り、人生で一度目にできるかどうかすら怪しいほどの存在だった。
だからこそ、今でも目の前にいたはずの彼女の印象が、誰の中でも曖昧だった。
そしてリアムたちは気を取り直し、改めて光鏡砲の改良作業へと戻っていく。
だがその胸の内には、国王エバの登場がもたらした得体の知れない“予感”が、静かに、しかし確かに灯っていた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる