天空門のルシフィス 「天と地を裂かれし熾天使――その名はルシフィス」

かみちん

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惑星イオ 光国編

第46話 光鏡砲改良計画

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 ドリード王国の国王アレクに挨拶をし、中立都市の意義と、謎の地下トンネルの存在を伝えた翌日。


 空はミア、ドーリ、ニーイと共に、ミラー城を訪れていた。


 目的は二つ。

 一つは、シールド領から地下トンネルがミラー領まで伸びていないかを確認すること。

 もう一つは、重要防衛兵器である光鏡砲の改良だ。


 すでに事前連絡を受けていたリアムも現地に合流し、空たちは光鏡砲のある塔の周辺から地下の構造を探り始めていた。


「しかし……トンネルがもし光鏡砲を狙っているなら、進路はまっすぐ塔の地下を目指してくると思います」


 図面を手に、リアムが眉根を寄せながらそう呟いた。


「やっぱりあったよ~。シールド領から来てる、そして進路は……光鏡砲の塔の下に向かってると思う~」


 ミアが地下空間把握のスキルを使い、地下の構造をなぞりながら、確信めいた声で言い放つ。


 リアムが深く頷き、静かに言った。


「なるほど。ではドリード王国と同じく、トンネルの出口に罠を仕掛ける作戦ですね」


 そのとき、足音が響いた。

 塔の入り口から、ミラー領の領主ルークと、彼に同行していた能天使カマイルが姿を現した。


「光鏡砲の塔の真下にトンネルの出口を誘導することはできないかな?」


 ルークの唐突な提案に、リアムが目を丸くする。


「塔の真下って……それ、崩れる危険はないのか?」


「心配無用」


 ルークは即座に首を横に振り、懐から塔の設計図を広げて見せた。


「塔の基礎には地魔法で打ち込んだ強化杭が使われていて、床に穴を開けるくらいじゃびくともしない構造なんだ」


 さらにルークは続けた。


「光鏡砲は球体だから、真下にも撃てる。地下に抜ける穴を開けて、そこに魔法鏡を設置すれば、反射させてトンネルの出口から内部を狙い撃ちできるだろ?」


「なるほど、そういうことか……」


 リアムは感心したように設計図を覗き込み、唸った。


 ドーリとニーイも黙って頷き、ミアと共に作業の準備に取りかかろうとした――そのときだった。


 空間に、妙な沈黙が満ちた。

 どこか、ぴたりと“流れ”が止まったような……言葉にしがたい違和感。



 最初に気づいたのはルークだった。


(……なんで空さんの頭に、スライムが乗ってるんだ?)


 奇妙な光景。

 空の頭の上に、ぷるぷると揺れる白いスライム。本人はまったく気づいていない様子だ。


(聞きたい……でも、天使様関連となると軽々しく口に出せない……)


 リアムも同様に言葉を呑んだ。


 ドーリが不安げに空を見つめ、ニーイだけが興味津々に目を輝かせている。


 誰もがその異様さを感じながら、誰一人として声を発せずにいた。


 その沈黙を破ったのは、ただ一人――


「空様?」


 能天使カマイルの、凛とした声だった。


「どうかしましたか?」


「……いつの間にエバ様とお会いになったのですか?」


 空は首をかしげた。


「エバ様? あのエバーテイン魔法国の国王様?」


「はい、そうです」


「……いや、近々挨拶には伺おうと思ってましたけど……まだお会いしたこともないですよ?」


 カマイルは一瞬、返答に迷ったようだったが、静かに空の頭上を指さした。


「……空様の頭の上に、いらっしゃいますよ」


 その瞬間、時間が凍ったかのように感じられた。


 空がゆっくりと頭に手をやると、ひんやりとした柔らかな感触が指先に触れた。


「お久しぶりです、ルシフィス様! 私エバですよ」


 スライムが喋った。


 次の瞬間、それは空の頭からぴょんと飛び降り、地面に降り立つや否や、光が弾けた。


 現れたのは十代後半ほどの少女――

 しかしその瞳には、幾星霜の時を超えた者にしか持ちえぬ、深く鋭い光が宿っていた。


 空は反射的に頭を下げた。


「は、初めまして。天使の空と申します」


「……む?」


 エバはまじまじと空の顔を見つめる。

 その眼差しには、過去を探るような気配があった。


(……やはり、記憶喪失。あの事件の影響か……)


 数秒の沈黙のあと、エバはふっと微笑んだ。


「失礼しました。お初にお目にかかります。エバーテイン魔法国の国王、エバと申します。以後、よろしくお願いいたします。とりあえず天空門でお話しませんか?」


 彼女の声は優しかったが、その場の空気は一変していた。



 空が何気なく周囲を見渡すと、ミア、ドーリ、ニーイ、リアム、ルーク――皆が硬直している。


「光鏡砲の改良は……」


 空が口を開き。その言葉に


「だ、大丈夫だよ~! ボク達でやっておくから、行ってらっしゃい~」


 ミアが明るく返し、ドーリとニーイもそれに続く。


「任せてくれ」


「きっちりやっておくぜ!」


「ふんふん!」


 背中を押すような彼らの声を受け、空はエバと共に天空門へと向かった。



 その背中が見えなくなった後、残された者たちはついに緊張の糸を解いた。


「……まさかのエバ様か……」


 ルークがぽつりと呟く。


「やっぱり世界の重鎮の一人だったか」


 リアムが感慨深げに言う。


「空にぃ、良い意味で普通だから、つい気を許しちゃうんだよね~」


 ミアが笑う。


「分かる気がする。なんていうか……人間らしいというか、あっ!」


 リアムが咄嗟に口を押さえる。

 “人間らしい”という表現は、能天使の前では不敬にあたるかもしれない。


 だが――


「大丈夫ですぞ。余計なことは話しませんので」


 カマイルは穏やかに、しかしどこか愉快そうに微笑んだ。


 リアムは安堵の息を漏らした。


「……ルークは、エバ様に会ったことは?」


「アレス様と魔王封印の祝賀会で見ただろ! ほら、あのときの――」


「……あれ? もっと背が高かったような……」


 エバーテイン魔法国の国王・エバ――

 その存在は伝説のごとく語られ、滅多にその姿を現さない。

 魔法使いでもない限り、人生で一度目にできるかどうかすら怪しいほどの存在だった。


 だからこそ、今でも目の前にいたはずの彼女の印象が、誰の中でも曖昧だった。


 そしてリアムたちは気を取り直し、改めて光鏡砲の改良作業へと戻っていく。

 だがその胸の内には、国王エバの登場がもたらした得体の知れない“予感”が、静かに、しかし確かに灯っていた。



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