天空門のルシフィス 「天と地を裂かれし熾天使――その名はルシフィス」

かみちん

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惑星イオ 光国編

第52話 黄泉の小鬼とぎまんの英雄譚

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  黄泉の国――その地の境界、地獄とを隔てる和の雰囲気漂う回廊で、黙々と働く影の者たちがいる。

彼らは小鬼、通称「ゴブリン」。掃除、修理、運搬といった細やかな労働を請け負い、ただ静かに、誠実にその務めを果たしていた。


彼らを統べる存在がいる。

その名は――雅閻魔。


地獄の裁きを司る一方で、下界では地蔵菩薩としての顔も持ち、広大な慈悲の力で人々、特に迷える子供たちを見守っていた。

街道沿いに等間隔に置かれた地蔵は、いつしか人々にとって迷い子の道標となり、祈りの対象となった。


だが、その祈りを支えていた影の存在は、知られることはなかった。

雅閻魔は密かにゴブリンたちを下界へと派遣し、子供が町の外に出ぬよう、軽く驚かせては引き返させる――そんな、地味ながらも確かな人助けを任せていたのだ。


だが――数年前


その善意に、目をつける者が現れた。


冒険者キールとその一味。

彼らはゴブリンたちが子供を襲わないどころか、気絶した子供を保護し町の入口に送り返しているという行動を逆手に取ったのだ。


「子供を喰おうとしていた魔物を討った」――そう偽りの情報を流布し、賞賛と名声を得る仕掛けを編み出した。

彼らは子供を誘拐し、あらかじめゴブリンの近くに放置。そして、ゴブリンが抱き上げようとするその瞬間を狙って襲撃し、魔物退治を演出したのだ。


この偽善と欺瞞の物語は、瞬く間にシールド領を駆け巡った。


「ゴブリン=人喰い魔物」


この誤認識が定着し、シールド領主は討伐命令を下す。冒険者ギルドには正式なクエストが発行され、ゴブリン討伐の火蓋が切られた。


この機を逃すまいと、キールたちはすぐさまクエストを受け、自らが仕掛けた情報通りに、ゴブリンの棲み処を狙って襲撃を繰り返した。

功績を重ね、冒険者ランクは上昇し、彼らは一躍「英雄」となった。


この騒動は、やがてエレバン帝国にも届く。

若き皇太子――ハリア・エレバンは直ちに第一師団を率いてシールド領へと進軍。北東樹海において、大規模なゴブリン掃討作戦を開始した。


そこに呼応するかのように、弟であるハイリスとハノスも参戦。三つの師団が交差し、樹海はまさに戦場と化した。


キールたちはすでにハリアと繋がりを持っていた。

彼らはゴブリンの居場所を提供するふりをしつつ、密かに裏で動き、ハリアの動向をハイノスへ伝えた。


「北東樹海に、今、入りました」

それが合図だった。


樹海の奥、ハイリスは兄ハリアを助けに来たのだが、前に現れたのはキール一味の刺客たち、ハリアの命令を受けた彼らは、ハイリスの命を奪ったのだった――。


その現場を、隠れて目撃していたハリアは、咄嗟にキールたちと口裏を合わせた。

「ハイリスはゴブリンに殺された」

そう、シールド領主並びに皇帝ハリスに報告された。


キールは、樹海に入りゴブリンと戦っていたハリアを守り、町へ連れ帰った英雄として脚光を浴びる。


そして数日後、今度は樹海の基地本部で孤立していたハノスを、ハリアが直接殺し、キールたちの仲間が持ってきた数体のゴブリンの死骸を辺りに置き、ハノスは後ろからゴブリンに襲われたという報告をした。


ハノス死亡はすぐにシールド領主、皇帝ハリスに伝えられ、涙を流すハリアの演説に兵士や国民たちは心を打たれた。

「弟を救えなかったのは無念だが……ゴブリンの脅威をこの手で絶ち、弟の仇を討つ」

――すべてが、冷酷な演出だった。


その後、師団と冒険者たちが総力をあげてゴブリン討伐に乗り出した。しかしその様子を見たゴブリン数十体が命からがら樹海の奥へ逃げ延びていた。

傷つき、怯え、絶望に沈む彼らの前に、ひとりの悪魔が現れた。


極悪魔――アスモタン。


「お前たちの怒りと無念、しかと受け取った、我と契約してやろう」


そして契約は果たされる。

ゴブリンたちは体が茶褐色になり「ダークゴブリン」へと進化し、色欲の力を持ち下界で交配が可能となった。

それは種の拡大と、復讐の具現を意味していた。


さらに、上級悪魔ザイアックが交配対象となる者たちを運び込み、彼らは数を増やし続けた。


やがて、その中の一体が進化の果てに辿り着く。

「ブラック・ゴブリンキング」――


彼はかつて仲間を虐げたキールとハリアの名前を覚えていて、さらに同胞に危害を加えた師団兵士と冒険者たちへの復讐を誓う、闇の王の誕生だった。


彼は数で勝てない事を理解し、あえて一度シールド領から離れ、南西樹海の闇国側に身を潜めると、野党や冒険者を一人ずつ狙って倒し、さらに交配にて仲間を増やしていった。

慎重に、着実に、装備と情報を整えながら――。


一方、キールたちは、自分たちがゴブリンの標的になっているなど露ほども思わず、ハリアの筆頭パーティーとして君臨し続けていた。

名声と信頼を手に入れた彼らは、シールド領内外を自由に行き来し、報告書一つで人々を動かす力を得た。


弱き者を虐げ、助けたふりをし、時に命を奪ってまで英雄を演じた彼ら。

だが、そんな欺瞞に終止符が打たれる時が来る。


イザーナ・エレバンの襲撃に失敗し、キールたちは、地獄の使者に捕えられた。


雅閻魔の前で、その悪行の一部開示される。

だが雅閻魔は、彼らをすぐに裁こうとはしなかった。


「そなたらに、生きて善行をする機会を与えてやろう」


それは、贖罪ではなく、試練だった。


キールたちの行動を監視するのは、妖術使いの妖狐と、茶目っ気のある妖狸ぽん吉。


彼らはキールたちを逃がさぬよう管理下に置き、ブラック・ゴブリンキングとダークゴブリンの行方を探るよう命じられた。


復讐と欺瞞、そして地獄の正義が交錯する、因果の糸がいま、静かに動き出したのだった――。


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