上 下
9 / 21
【第一章】 新生活編

【第八話】 名も無き書物

しおりを挟む
 老婆は不敵に笑うと、目の前に置いてあった水晶玉に手をかざし、呪文を唱え始めた。
 
 
 占いはあまり信じないタイプだったけど、この老婆が満足してここからどいてくれるなら、それで良いだろう。
 
 
 老婆が呪文を唱えている間、水晶玉は様々な変化を見せた。
 
 青くなったり赤くなったり、光り出したかと思えば黒いモヤが出てきたり。
 
 
 水晶玉の周りには、売り物と思われるアイテムが幾つか並べられていた。
 
 
 どれも見ただけでは使い方が分からない物ばかりで、とにかく怪しかった。
 
 
 呪文が、止んだ。
 
 
「お前さんのスキルには、様々な可能性が秘められておるな」
 
 
「可能性・・・・・・?」
 
 
「そうじゃ。使い方次第では、世界を変えることも出来る」
 
 
 何だか大袈裟な事を言い始めたなと思い、うさんくさく感じる。
 
 
 やっぱり、占いは信じられないな。
 
 
「それで、僕は具体的に何をしたらいいんですか?」
 
 
 ズバリ僕は聞いてみる。
 
 
 抽象的なことばかりを言って誤魔化そうったって、そうはさせない。
 
 
「うむぅ、お前さん、信じておらぬな?」
 
 
「い、いえ、そんな事は・・・・・・」
 
 
 態度で分かってしまったのかもしれない。
 
 
 そう思ったが、老婆は機嫌を悪くしているようには見えなかった。
 
 
「お前さんはまだ成人したばかりだから、自分のスキルに不安を持つのも無理はない。人間とは、生まれた家柄とスキルによって縛られることも多いのだからな」
 
 
「は、はぁ・・・・・・」
 
 
 その生まれた家柄に、僕は追い出されたんだけどな・・・・・・。
 
 
「強いて言うなら、このアイテムを持っておいき」
 
 
 そう言うと、老婆は並べてあった怪しいアイテムの中から、分厚い書物を持ち上げた。
 
 
 革で出来た立派な表紙だったけど、題名は書かれていない。
 
 
「これ、いくらなんですか・・・・・・?」
 
 
「金は取らん。とにかくこれが、お前さんに道を拓かせるだろう」
 
 
 本当にお金は取らないのだろうか。
 
 
 心配しながらも、僕は書物を受け取った。
 
 
「こ、これは・・・・・・」
 
 
 ずっしりと重みがあるその書物を持った途端、書物が淡い光を放ちだした。
 
 
 しばらく見とれていると、今度は何も書かれていなかった表紙に、文字が浮き出してきた。
 
 
 【宝石図鑑】
 
 
 表紙には、このように刻まれた。
 
 
「占い師さん、これは・・・・・・」
 
 
「【名も無き書物】、そう呼ばれているマジックアイテムじゃ」
 
 
 老婆は、うなずきながらそう言った。
 
 
 ベルテ村の大人から、マジックアイテムについて聞いたことがある。
 
 
 膨大な魔力が込められた特別なアイテムのことで、めったにお目にかかる事は無いらしい。
 
 
 
 
「本当に、譲ってくれるんですか」
しおりを挟む

処理中です...