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【第一章】新生活編

【第六話】手配書

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「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
 
 
 僕は無我夢中で走り、さっきの噴水広場まで戻ってきた。
 
 
 残念ながら、戻る途中で袋は落ちていなかったのだ。
 
 
 昼食を食べたベンチの周りをしつこいくらいに探したが、それでも見付けることが出来なかった。
 
 
 僕は、落胆した。
 
 
 全財産を失ったのだ。
 
 
 これからどうすれば良いのだろうか・・・・・・。
 
 
「おい、そこの者」
 
 
 強い口調で声を掛けられ、僕は顔を上げた。
 
 
 兵士と思われる男が二人、しゃがんでいる僕を見下ろしている。
 
 
「さっきから何をしている。怪しいな、お前」
 
 
「あ、その・・・・・・」
 
 
 焦ってしまい、言葉が出ない。
 
 
「なんだ、その慌てようは。ますます怪しいぞ」
 
 
「ちょっと詰め所まで来てもらおうか」
 
 
 まずい事になった。
 
 
 ここで兵士に連行されるのは、どうにか避けたい。
 
 
 僕は追放されている身なのだから。
 
 
「お、落し物を探しているんですっ!」
 
 
 ついつい大きな声を出してしまい、一瞬兵士の動きが止まった。
 
 
 今だと思った。
 
 
 逃げよう。
 
 
 そう頭に思い浮かんだ時には、すでに走り出していた。
 
 
「こらっ、待ちなさい!」
 
 
 とにかく走った。
 
 
 悪いことはしていなかったが、あのまま捕まってはいけないような気がしたのだ。
 
 
「逃がさんぞ!」
「くそ、なんて足の速さなんだ」
 
 
 走り出してすぐに、噴水広場から離れ、路地裏に逃げ込んだ。
 
 
「・・・・・・あれ、僕って、こんなに速く走れたっけ」
 
 
 捕まりたくない一心で走ったからだろうか。
 
 
 普段の僕では考えられないスピードで駆けていた気がする。
 
 
 気のせい、なのだろうか。
 
 
 何はともあれ、兵士からは逃げ切った。
 
 
 逃げたことで、他の兵士からも追われることになるかもしれないが、とりあえずは大丈夫だろう。
 
 
 しかし、依然所持金は落としたままだ。
 
 
 これだけ人が多い街である。
 すでに拾われている可能性も大きい。
 
 
 ふと、路地裏の壁に目が行った。
 
 
 そこには、指名手配だろうか。
 人の似顔絵が書かれた手配書が貼られていた。
 
 
「あれ、これに書かれているのって・・・・・・」
 
 
 どこかで見たことがある顔だった。
 
 
 そうだ。
 
 
 噴水広場でサンドイッチをあげた少女だ。
 
 
 罪状には、盗みと書かれている。
 
 
 盗み。
 
 
 もしかして、この少女が僕のお金を盗んだのか。
 
 
 いやしかし、彼女はずっと僕の目の前にいたから、お金を盗むタイミングなんて無かったと思う。
 
 
 やっぱり、どこかで落としたのかもしれない。
 
 
「仕方ない、もう一度探すか・・・・・・」
 
 
 そう決めて振り向いた時だった。
 
 
「「あっ」」
 
 
 
 
 
目の前に、さっきの少女が立っていたのだった。
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