獣王国の外交官~獣人族に救われた俺は、狂狼の異名を持つ最強の相棒と共に、人間至上主義に喧嘩を売る!~

新橋 薫

文字の大きさ
32 / 129
ルベル王国編

獣人と人間の共同戦線【後編】

しおりを挟む



 獣人は身体能力が高いから、トロールの体を駆け上がって頭を攻撃するという芸当が可能だが……人間は当然、そんなことができるはずが無い。

 そこで、まずは体勢を崩すことから始める。

 兵士達には、トロールの片足へ集中攻撃を仕掛けて欲しいと頼んだ。それに加えて、俺がその片足にデバフを掛ける。


「グオォォゥ!」


 それを繰り返していると、ついにトロールの体勢が崩れた。地面に膝をついている。今だ!


「魔法で動きを封じろ! 地面に釘付けにするんだ。何の属性でも構わない!」
「分かった!」
「任せろ!」


 魔法使い達に指示を出し、トロールの動きを封じてもらった。……あとは、ひたすら叩くだけだ!


「一斉攻撃だ!」
「よっしゃあ! 叩き放題!」
「魔法使いや弓使い、遠距離攻撃ができる者はトロールの目を攻撃しろ! 硬い皮膚よりもそっちの方が効果があるはずだ!」
「了解!」


 近接武器を持つ者はひたすら武器を振り、魔法使いや弓使い達は、トロールの両目に攻撃を殺到させる。俺はデバフ効果が切れる度に掛け直した。


(俺の魔力が底をつく前に、終わってくれるといいんだが……)


 以前編み出した、魔力の自然回復力を高める補助魔法も使っているが、デバフの方が魔力の消費量が多いからな。少ししか効果がない。
 かといって、デバフを止めるとトロールの力が戻ってしまい、彼らが不利になる。

 だが、どうやらその心配は不要だったらしい。


「――グオオォォォ……」


 次第に弱っていったトロールが、断末魔の声を上げて倒れる。勝ったんだ!
 その直後、獣人達が戦っていたトロールも倒れた。……これで、ようやく終わりか。


「……勝った! 勝ったぞ!」
「人間だけで倒せた! はははっ! やったぜ!」


 兵士達は大喜びだ。……対して、向こうにいる獣人達は呆然と彼らを見ている。


「マジか……本当に人間だけで倒したぞ、あいつら……」
「それに、俺達よりも僅かに早かった」
「嘘だろ……」


 きっと、この出来事は人間にとっても獣人にとっても、良いきっかけになってくれるはずだ。人間は自信を持ち、獣人は人間を見直すだろう。

 増援が来る前に倒して、死亡フラグはへし折ってやったぞ。ざまぁみろ――


「お、おい! あれを見ろ!」
「え? ……な、なんだあれ!」
「でけぇ……!」


 突然騒ぎ出した奴らが示す方向を見ると、森林の奥から今倒したばかりのトロールよりもデカい、大型のトロールが現れた。……多分、体長は七、八メートルほど。

 二体のトロールの断末魔が、奴を呼び寄せたのかもしれない。


(死亡フラグ様、一体ご案内!)


 お帰りはあちらです、さようなら。とっとと帰れ! ……と言ったら、帰ってくれるような魔物じゃねぇよなぁ……


「ユート、どうする?」


 アドルフが背を向けて俺の前に立ち、そう聞いてくる。……ふさふさの尻尾は忙しなく揺れていた。


「お前、楽しんでるな?」
「そりゃそうだろ。強敵のおかわりだ。まだまだいけるぜ」
「この戦闘狂め」
「俺は獣人の中じゃ比較的ましな方だ」
「嘘つけ! 狂狼の異名があるくせに何を――」
「アドルフ!」


 威厳のある声が聞こえた。……振り向くと、予想通りカルロスがいた。その側には、ジョニーを含めた多くの獣人達の姿が見える。増援だ!


「よく来たな、カルロス! あれを見ろ。大物だぜ!」
「……ほう。確かに大物だな。トロールの肉はオークほどではないが、そこそこ美味い。良い狩りになりそうだ!」


 領主様が凶悪面で笑っていらっしゃる。怖い。……しかし、今は頼もしい!


「アドルフ! 俺は今から全員に補助魔法を掛ける!」
「おう!」
「今残っている魔力を全部使うから、間違いなくぶっ倒れる。あとは頼んだ!」
「分かっ――はぁ?」


 素っ頓狂な声を出したアドルフを無視して、術式の展開と書き換えを行う。自主訓練を続けているおかげか、前回よりも早く詠唱に移ることができた。


「我が魔力よ、勇敢なる、戦士達へ……大いなる、力と……強靭な肉体を、与え、たまえ――マジック・エイド・スプレッド!」


 術式展開と書き換えの時点で魔力が消費されていたため、最後は疲労困憊のまま詠唱することになった。
 カルロス達が雄叫びを上げると同時に、膝から崩れ落ちる。そんな俺の体を、アドルフが受け止めてくれた。


「ユート!」
「……アドルフ……すま、ない……」
「馬鹿が、無茶すんな! おい、カルロス! 俺はこの馬鹿を安全な場所まで運んでくる。その間、この場を任せてもいいか?」
「うむ、行け! ……ユート。己を犠牲にしてまで我らに支援を行ってくれたこと、大いに感謝する。お前のその献身、無駄にはしない!」


 俺はアドルフに抱えられて、前線から離脱する。

 その後。アドルフはプラシノスの門の前に到着し、街の中に入ってすぐに俺を下ろした。俺は街の周囲を囲む防壁の内側に寄り掛かり、座り込む。


「ここで待ってろ。すぐに終わらせて戻って来る!」
「ん……」


 アドルフは前線に戻っていった。俺は目を閉じて体の力を抜き、魔力の回復に努める。……すると、横合いから声を掛けられた。


「お、お前……大丈夫か?」
「ぐったりしてるぞ……!」


 ゆっくりとそちらへ首を動かすと、先ほど逃げて行ったはずの木こり達がいた。


「あんた達、か……何で、ここに……?」
「……お前達が戦っている様子を、ここから見ていた」
「ここから森林の入り口までは見晴らしが良いから、よく見えるんだ」
「……今、戦況は……どう、なってる?」
「…………」


 俺の問いに黙り込んだ彼らは、困惑した様子で次々とこう言った。


「兵士達が、獣人族と共闘してる……」
「それも、かなり優勢だ。ちゃんと協力し合っているんだ」
「信じられない……あんな光景、一度も見たことがねぇよ!」
「ふ、ふ……そうか……」


 思わず口元が緩んだ。……その光景が目に浮かぶ。彼らは互いに文句を言い合いながらも、共に戦っているのだろう。


「人間って、獣人と肩を並べて戦うこともできるのか……」
「できるさ……彼らは人間も、獣人も――どちらも同じ、勇敢な戦士だから、な……」


 種族の差など関係ない。一度戦場に出てしまえば、彼らは皆同じ戦士になるのだ。


「…………オレ達は、誤解してたのか」
「兵士達は皆弱いから、獣人族に負けたんだと思い込んでいた。でもあいつらは、本当は獣人と共闘できるぐらいに強かったんだな……」
「獣人は、いざとなれば人間を見捨てるだろうと思っていた。……けど実際は、領主が自ら戦場に出て、この街を守ろうとしてくれている」
「どうすればいいんだ……」


 情けない顔をしている男達に向けて、俺は口を開く。


「まずは……お礼、だな」
「お礼?」
「彼らが、無事に街へ戻ってきたら……街を守ってくれたことに、感謝するんだ……お礼を、伝えるんだよ」
「感謝、か」
「そこから、やり直せばいい……あんた達はまだ、やり直せる。兵士達とも……領主様を含めた、獣人達とも……やり直せるぞ」
「まだ、やり直せる……」


 その時。歓声が聞こえた。


「……勝った、のか?」
「あぁ。勝った! あいつらがトロールに勝ったぜ!」
「良かった……!」


 木こり達が安堵のため息をついた。俺も同じため息をつく。


「……そうだ。まずはお前に言わねぇとな!」
「ん……?」
「ありがとう! お前とあいつらが戦ってくれたおかげで、この街は守られた!」
「ありがとう!」
「ありがとな、あんた!」
「……あ、あぁ……いや……うん……」


 ようやく多少は動くようになった腕を上げて、熱が集まる顔を帽子で隠した。……照れ臭かった。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

農民レベル99 天候と大地を操り世界最強

九頭七尾
ファンタジー
【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。 仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて―― 「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」 「片手で抜けますけど? こんな感じで」 「200キロはありそうな大根を片手で……?」 「小麦の方も収穫しますね。えい」 「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」 「手刀で真空波を起こしただけですけど?」 その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。 日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。 「これは投擲用大根だ」 「「「投擲用大根???」」」

妖精の森の、日常のおはなし。

華衣
ファンタジー
 気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?  でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。  あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!? 「僕、妖精になってるー!?」  これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。 ・毎日18時投稿、たまに休みます。 ・お気に入り&♡ありがとうございます!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...