獣王国の外交官~獣人族に救われた俺は、狂狼の異名を持つ最強の相棒と共に、人間至上主義に喧嘩を売る!~

新橋 薫

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ルベル王国編

呪縛の崩壊

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「レイモンドが外交官になる前。カルヴィンが私に、獣人共の下へ君を行かせてもいいか、と伺いを立てて来たが……私は君のスキルの効果を確かめる良い機会だと思って、それを許可した。そして、他の外交官は帰って来なかったのに、君だけは生きて帰って来た! 私はその時、君のスキルの効果は確かなのだと確信したよ!」
「…………」


 父親が俺に外交任務を言い渡したのは、長男と次男を犠牲にしないためだと思い込んでいたが……その裏には教祖の思惑があったらしい。


「その後は私の子飼いの工作員達を送り込み、君と獣人達の動向を見張らせようとしたのだが……誰も帰って来なかったから、それはすぐに止めた。私の子飼いの者達は、あまり数が多くないのでね。無駄に減らしたくない。王国が差し向けた者達もまた、誰一人として帰って来なかったという。……腹立たしいことに、諜報関係は奴らの方が上手だったようだ」


 諜報……ミュースは諜報部隊隊長だと名乗っていたな。彼女の部隊が、教祖が送り込んだ工作員達を始末したのだろうか?


「君が最初の外交で持ち帰って来た、獣人側の代表者からの書状の内容。交渉が決裂するまで、獣人に殺されることが無かったという事実。そして人間を憎んでいるはずの獣人が、命掛けでたった一人の人間を助けようとした。……君のスキルは、確実に獣人に影響を与えている」
「…………」
「最近になってようやく、新天地に渡る準備が整った。あとは、君を連れて新天地に向かうだけだ」
「!」


 思わずベッドから下りようとしたが、教祖が俺の手首を掴んでそれを阻止する。やろうと思えば、柔道の技で逃げられるはず。

 しかし、俺の体は動かなかった。教祖の目に射抜かれ、まるで金縛りを受けたかのように身動きが取れない。


「くくっ! はははっ! ……私から逃げたら、奴隷となった獣人共がどうなるか分からないぞ? それでもいいのかい?」
「あ……」
「過去に死んだ君の大切な人――あの哀れな老婆のように、獣人共を処刑してやろうか?」
「やめろっ!」
「やめてください教祖様……の、間違いだろう?」
「くっ…………やめて、ください……教祖、様」
「ふふ、くく……っ! 君が私と共に来ると……私から二度と離れず、私に二度と逆らわないと誓うなら、やめてあげよう」


 ニヤニヤと嗤う怪物が、俺の言葉を待っている。


(……どうする? どうすればいい?)


 やはり教祖は、俺の心境の変化に気づいたんだ! 奴隷達を人質に取り、俺を完全に自分の所有物にしようとしている!


「君がいれば……君のスキルがあれば、不浄な種族達はいずれ敵ではなくなる。偉大なる女神エクレール様のために、君と私の手で、奴らを支配しようではないか! なぁ!」
「私、は……」
「奴隷となった半獣共を死なせたくなければ、この私に従えっ! レイモンド!」
「…………私は――」


 その時。部屋の外から扉を叩く音が聞こえた。


「きょ、教祖様! 至急ご報告したいことがあります!」
「…………ちっ」


 急に機嫌が悪くなった教祖は、俺の手を離して荒々しく立ち上がる。


「私は少々席を外すが、逃げないでくれよ? もっとも、この部屋の扉は内側からは開けられない仕組みになっているから、逃げようとしても逃げられないがね」
「…………」
「私が戻るまでに、答えを出しておきなさい。私と共に来るか、奴隷共を犠牲にしてまで逆らうのか。それから念のために忠告しておくが、自害は許さない。君が自害すれば、その直後に王都にいる奴隷の獣人族は全員、処刑してやる」
「!」
「おっと。ついでに教えてあげよう。この神殿にはエクレール様の加護によって特殊な結界が張られており、それが人間以外の種族や動物の侵入を防いでいる。つまり、神殿内にいる限り助けはやって来ない。君に与えられた選択肢は、二つに一つだ。……分かっているね? レイモンド」


 教祖が部屋から出て行った後、俺は一息ついた。

 神殿の結界については初めて聞いたが、それを聞いてむしろ安心した。
 もしも万が一、ミュースのように俺を助けようとする者がいたとしても、諦めてくれるだろう。俺のことはそのまま放って置いてくれ。

 あとは、俺が覚悟を決めればいい。俺のために、大切な存在を犠牲にするなんてあり得ない。
 俺が教祖に従えば、彼らは処刑されずに済む。自害も許されないなら、最初から選択肢などあって無いようなものだ。

 だから――


「止まれ。……止まれよ……っ!」


 震えるな、怖がるな。これではまともに覚悟を決められないだろ! 俺一人が我慢すれば、奴隷達は救われる。それでいいじゃないか!


(あの教祖から二度と離れない。二度と逆らわない)


 俺がそう誓えば、誰も傷つかないで済む……!




*****




 俺が閉じ込められている部屋には窓が無く、今が夜なのか、朝なのかも分からないが……教祖が部屋を出てから、体感で数時間が経過した頃。教祖が戻って来た。

 しかし、その様子がおかしかった。


 バンッ! という音と共に扉が開く。真っ赤な顔をした教祖が室内に入るや否や、ベッドに座っていた俺の胸ぐらを掴んで、無理やり立たせたのだ。


「教祖様、何を――」
「奴隷共が逃げ出した。……貴族が飼っていた奴らも、奴隷商人が管理していた奴らも、一人残らずだ!」
「っ!」


 獣人達が逃げ出した? 一体どうやって? がある限り、逃亡は不可能であるはず……!


 奴隷達に付けられたマジック・アイテム――服従の首輪は、一度付けられたら最後、死ぬまで外すことができない首輪だ。

 奴隷は首輪の効果によって、基本的に誰かに何らかの害をもたらすことも、自害することも禁止される。
 行動を許されるのは、主人に何かしらの命令をされた時だけだ。

 この首輪があるから、獣人は人間に何をされても抵抗することができないのである。

 もしも禁止されている行動を取ろうとすれば、その行動は阻止される。主人の命令に背いた時も同様だが、それに加えて体中に死なない程度の激痛が走る……

 そんな、酷い効果があるマジック・アイテムなのだ。

 さらに、首輪が外れるのは奴隷自身が亡くなった時のみ。奴隷の主人が死んでも首輪は外れない……はずなのだが、何故か獣人達は逃げ出した。どうやって逃げたんだ……?


「奴らは何処に逃げた? どうやって逃げた! 何か知っていることがあるなら教えろ!」
「ぐ……っ!」


 普段の余裕は何処へやら。教祖は恐ろしい形相で俺を問い詰めている。怒りで我を忘れているようだ。
 今は胸ぐらどころか、首を捕まれている。その行動のせいで俺が窒息しかけていることには、気づいていないらしい。


「この私が命令しているんだぞ! さっさと吐くんだ!」
「う……ぅっ……!」


 呼吸が上手くいかず、死にそうになっているというのに……何故か頭は冴えていた。


(このクソ教祖、俺のスキルを利用したいんだろ? それなのに、俺を殺しかけてどうすんだ。馬鹿か?)


 いくら頭に血が上っていても、やって良いことと悪いことの区別ぐらいつけろよ。
 短慮を起こして自身の目的を忘れるとは……普段の様子との落差があり過ぎて、呆れて物も言えない。

 あ、今は物理的に物を言えない状態だったな。うっかりしてたぜ。


「……貴様、何だその目は! 若造風情が私を見下すな!」
「ぐ、うっ……!」


 どうやら、今の心境が目に出ていたらしい。教祖がさらに怒り狂って力を籠める。苦しいが、俺は冷静だ。さっきからおかしいな。
 一度死んでいるから、死ぬこと自体は怖くない。……そう思っているせいだろうか?


 ――そうだ。俺は一度死んでいる。見た目は若造だが、その中身は爺だ。目の前にいる教祖も見た目は若いが、その中身はそれなりの年齢の大人であるはず。

 そんな大人が今、子供のように癇癪を起こしている。……まぁ、俺から見たらこの男の方が若造なのだが。


 そして、俺は思う。


(所詮はこいつも人間で、中身は俺よりも若いただの若造か。蓋を開けて見れば大したことはないな、屑教祖様よ。――全然、怖くないじゃねぇか!)


 刹那。――頭の中で、何かが割れる音がした。



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