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獣王国ヴァイス編
鳥人族との交渉~ハードモード~
しおりを挟む「――スキル、発動」
その言葉と共に、アドルフの深紅の瞳が淡く光る。
「思った通りだ。これなら霧に惑わされずに済む。……ここには怪しい場所は無さそうだな。先に進むぞ」
先程と同様に、彼が先頭となってしばらく歩き続ける。……すると突然、足が止まった。
「見つけたぜ。今までは一本道だったが、左側に横道がある」
「……道なんてあるか?」
「かろうじて、茂みしか見えないんだけど……」
アドルフが指差した方向を見ても、レンツやクラウディアが言うように、横道なんて見えない。……だが、アドルフの言葉を信じよう。
「こっちだ。ついて来――いっ……!」
「アドルフ!」
言葉の途中で、アドルフの表情が歪んだ。両目を手で覆っている。
「ふ、副団長!」
「……大丈夫、か?」
「……あぁ、問題ない。行くぞ」
問題ないって言ってる奴ほど、実は大丈夫じゃないんだよな……無理はしないで欲しいが、言って聞くような男でもないし……困った。
せめて、アドルフの身に何かがあった時に対処できるようにと、彼の側を歩くことにした。
どうしても痛みが酷くなるようなら、補助魔法の回復で痛みを軽減できないか試してみよう。俺のスキルのおかげで、異種族に対しては効果が高まるようだし、試す価値はある。
アドルフの後を追い、茂みの中を進むが……不思議なことに、アドルフの後ろを歩くと茂みが体に当たる感覚が全く無かった。それに、足元から道を歩いている感覚が伝わってくる。
彼の言う通り、実際には見えないが、新たな道がここに存在しているのだ。この幻惑魔法は、人の感覚を騙すことはできないらしい。
「ぐっ、はぁ……っ、は……!」
曲がりくねった道を歩いたり、坂を上ったり……先へ進む度に、アドルフの息が荒くなっていく。彼は頭を手で押さえながら、ふらふらと危なっかしい足取りで歩いていた。
「アドルフ。まだ先は長いのか?」
「あぁ……まだ、だ。……今さら、止めるなよ。俺は、霧を抜けるまで、やめないからな……!」
意地を張るアドルフに対してため息をついた俺は、彼の腕を取って無理やり肩を貸す。
「……レイ?」
「この私が、特別に肩を貸してやる。なお、霧を抜けるまで返品は不可だ、馬鹿犬」
「なんで、お貴族様……」
「うるさい。黙って私に体を預けろ」
「……へいへい、分かったよレイ様」
「様付けはいらん、気色悪い」
「レイ」
「何だ」
「――ありがとう」
「…………ふん!」
いつもならもっと嫌味を言ってやるところだが、今はこのくらいで終わらせてやろう。こいつの痛みを悪化させないために。……あ、そうだ。
「? ……今、何した?」
「補助魔法で、頭に回復を掛けてみた。……どうだ?」
「……少しだけ、楽になった」
「効いたのか! 良かった。また痛みが酷くなった時に、もう一度掛ける」
本当は何度も掛けてやりたいが、そうするとこいつは俺の魔力消費量を気にして、いらない気を遣うかもしれない。だが、たまに掛ける程度なら許容してくれるはずだ。……案の定、納得してくれたらしい。大人しく頷いた。
さらに進むと、目と頭の痛みが酷くなってきたようだ。補助魔法も、あまり効かなくなってきた。ついには歩くのもやっとという状態になり、途中からレンツが俺の反対側に回り、アドルフに肩を貸すようになる。
「くそ、まだか! しんどそうなお前を見てると、こっちも辛いんだよ!」
「アドルフさん!」
「……もう、よせ……!」
「副団長……!」
レンツ達、護衛隊の四人が自分のことのように苦しんでいる。……俺も、彼らと同じ気持ちだ。
「――スキル、解除……!」
その時、アドルフがそう言って脱力した。レンツと共に慌てて支える。
「アドルフ!」
「ど、どうした?」
「……見え、た。……向こう……真っ直ぐ」
「えっ、本当?」
「向こうに真っ直ぐ歩けば、霧を抜けるんだな?」
「あぁ。……悪い。視界が、霞んで……ぼんやりとしか、見えねぇ……後は頼む」
「……分かった」
その後。隊列を変更し、今まで先頭にいた俺とアドルフとレンツが真ん中に移動した。前列と後列の者が、アドルフを守れるようにしたのだ。
周囲を警戒しながら、アドルフが示した方へ真っ直ぐ歩く。……すると、霧が晴れてきた。その先で、俺達を待ち受けていたのは――
――武器を構えて俺達を取り囲む、翼を持つ者達の姿だった。
「そこまでだ! 止まれ、侵入者共!」
「ここから先は通さん!」
「ま、待ってください! 我々はあなた方に危害を加えるつもりはありません!」
思わず声を上げると、鳥人族は俺の存在に気づき、驚いた様子を見せる。
「人間だと!」
「人間がいる……!」
「……まさか、噂に聞くルベル王国とやらの人間か?」
「それが獣人族を率いて、我らの村に攻め込んで来たのか!」
「いえ、違います! 我々はあなた方との交渉のために――」
「黙れ、人間! 貴様の甘言に、誰が耳を貸してやるものか!」
駄目だ、こっちの話を全く聞こうとしない! 鳥人族は皆、酷い興奮状態だ。冷静ではない。
「もういい! 殺される前に殺せ! 村を守るんだ!」
「突撃ぃっ!」
「くっ……総員、迎撃しろ! ただし、一人も殺すな! レイモンド、お前は副団長を頼む!」
「分かった!」
前もって、アドルフが動けない間はレンツが指揮を取ると決めていた。その指示に従い、獣人達が彼らに立ち向かう。こちら側が望んでいなかった戦闘が、始まってしまった。
アドルフと共に後ろに下がり、彼を気遣いつつ補助魔法で支援する。……しかし、あまりやり過ぎると鳥人達が怪我をしてしまう。
ここはウインド・ウルフと戦った時のように、敏捷性と命中率を上昇させる魔法の方がいいだろう。それを全体に使った後は、アドルフに回復を掛けることに集中した。
万が一、アドルフが狙われた場合。多少は回復していないと、彼の身が危ない。
「あぁーもう! いい加減に降参してよ! 僕達は君達を殺さないように必死なんだってばぁ!」
「というか俺達の話を聞けぇっ!」
前線から、レベッカとレンツの苛立つ声が聞こえた。俺達を守ってくれるオリバーとクラウディアもイライラしているのか、彼らから不穏な空気が漂ってくる。
鳥人族は翼を使って飛び回り、獣人達を翻弄している。補助魔法のおかげで、彼らの攻撃を避けることは簡単だが、空に逃げられたらこちらの攻撃は通らない。
敵対する魔物のように、殺してもいいならいくらでも手段があるだろう。だが、今回は交渉相手を殺すわけにはいかない。手加減するしかないのだ。さらに、向こうの方が数も多く、その分手数も多い。
こちらも必死だが、向こうも敵の襲撃から彼らの村を守ろうと必死になっている。無論、こちらが敵だというのは、向こうの勘違いなのだが。……何か、誤解を解くきっかけは無いのか!
その時。鳥人族の弓師が空高く飛び上がり、矢をつがえた。狙われているのは……俺とアドルフだ!
咄嗟にアドルフを背に庇った瞬間、矢が放たれ――俺の後ろから伸びてきた手が、それを掴み取った。
「……ア、アドルフ?」
そして俺の目の前で、その手が矢をボキリと折る。
背後から、獣のような唸り声が聞こえた。あ、この声聞いたことがある。前世で飼っていた犬が、本気で怒った時の声に似ているんだ。
つまり。俺の後ろにいる狂狼様が、ガチギレしていらっしゃる……?
「レイ」
「は、はい」
「お前のおかげでかなり楽になった。ありがとな」
「い、いえ、どういたしまして……?」
「ちょっと待ってろよ。……鬱陶しい蝿を潰してくるから」
俺の頭を軽く撫でる手つきは優しいのに、その声音は冷えきっていた。……声を掛けるのも頭を撫でるのも俺の後ろからだったため、俺にはアドルフの顔が見えなかった。
しかし、俺の前にいる獣人や鳥人達の顔色が一気に悪くなっていたから、相当恐ろしい顔をしているのではないかと思う。
よく見ると、獣人は種族によっては毛を逆立てている。尻尾も内股に入り込んでいた。分かりやすい。
「よくも俺の心友に手を出してくれたな……!」
刹那。木を上手く足場にして、アドルフは空へと跳んだ! 未だに空にいた弓師の背後を取っている。
「まずは……てめぇだぁっ!」
「ひっ――ぐえっ!」
そう言って、奴を蹴り落とした。そのまま地面に激突した弓師は気を失っている。
俺達が恐怖で震える中、すたっと着地したアドルフ。彼は次の獲物達に鋭い目を向けた。鳥人達は後退りしている。
「てめぇらが、レイの話をちゃんと聞いてくれたらこうはならなかったんだが、もう遅い。――ぶっ潰される覚悟はできてるんだろうなぁ! 鳥頭共!」
「た、頼む! 誰も殺さないでくれアドルフ!」
狂狼は俺の言葉に返事をしないまま、鳥人達に向かって一人で突っ込んで行った。
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