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戦争編
扱いに困る物
しおりを挟むその後も会談は続き、具体的な同盟内容について話し合い、それを書面に残した上で、三種族同盟は正式に成立した。
後は人払いをして、シエルを交えて予言について話し合うだけだが、アルベルトがそれに待ったを掛ける。
「少し休憩しよう。そろそろ昼時だからな。城の料理人に軽食を作らせたから、それを食べながら歓談するとしよう。この場にいる全員が食べられるようにした。存分に楽しんでくれ」
獣王陛下の粋な計らいのおかげで、魚人も鳥人も大喜びだ。さっそく軽食が運び込まれ、立食形式の食事会が始まった。
しかし、軽食のほとんどが、前世でよく見た食べ物ばかりなのが気になる。
魚人と鳥人は物珍しそうにしているが、俺としては苦笑いだ。……そう思いながら、とりあえずたこ焼きを確保する。
「やっぱりお前、それがお気に入りか」
「うわ! ……アドルフか。驚かすな!」
いつの間にか、背後にアドルフがいた。音もなく忍び寄って来やがって、こいつめ。猫かよ。いや、狼だけど。
「やっぱりって何だよ」
「レイと初めてオリソンテを散歩した時のことを思い出した。お前、たこ焼き食った時だけは微妙にテンション高かったから、覚えてたんだよ」
バレてる。俺の好物バレてるぞ。
「レイモンド様!」
と、呼ばれて振り向いた先には、シエルがいた。その後ろにソラン、ヒジリとクロマルの姿がある。
「どうした? 四人揃って、俺に何か用事か?」
「はい。第一旅団戦闘部隊の副隊長に就任したと、ロッコ様から伺いました。おめでとうございます!」
「いつの間にか昇進してたんだな。おめでとう」
「おめでとうございます、レイモンド様!」
「おめでとうございます」
わざわざ祝いに来てくれたのか。ちょっと照れ臭い。
「まぁ、成り行きだよ。こいつが俺を推薦しなかったら、今も平団員のままだった」
「何言ってんだ。俺が言わなくても、レイなら遅かれ早かれ昇進してたはずだぜ」
「まさか。俺は特に大したことは――」
「褒め殺しの刑」
「――やってたな、大したこと! 交渉とか頑張ったし!」
「そうだそうだ。頑張ってんだよ、お前は。……あ、お前らも覚えておくといい。レイの弱点は褒め殺しだ。こいつ、自分を卑下することが癖になってるからな。褒められたり、高く評価されたり、面と向かってお礼を言われたりすることに慣れて無いんだ」
「余計なことを言うな!」
シエル達に笑われた。これは見世物ではない。笑うな。
その時。クロマルが何かを思い出したように手を打ち、ヒジリに話し掛ける。
「ヒジリ様。忘れないうちに、レイモンド様にあれをお渡しするのはどうでしょう?」
「それもそうだな。……レイモンド様、これをお納めください」
「これは……? 中を見てもいいか?」
「はい、どうぞ!」
何が嬉しいのか、ニコニコと笑うヒジリとクロマルから目を離し、渡された物……古いノートのような物を開いた。さて、中身は何だ――
「――んん?」
これって……えっ? まさか?
「どうでしょう? 気に入っていただけましたか?」
「…………念のために、確認したいんだが」
「はい! 何ですか?」
「この手記は――幻惑魔法の秘術が記された物……か?」
「その通りです! 今日はその一冊しか持って来ませんでしたが、村にはまだまだありますよ。よろしければ、そちらもお渡ししましょうか?」
「…………」
「……レイモンド様?」
ギギギ、と。錆びた音が出そうな動作で、アドルフと顔を見合わせた俺は、彼の引きつった顔を目にして、彼も俺と同じような心境であることを察する。
「ア、アドルフ……こっ、これ、どうしよう?」
「――とりあえずロッコ爺に見せて一緒にアルのところに行け! でもって国に丸投げだ!」
「了解です、隊長! あとヒジリ達への説明は任せる!」
「任せろ!」
テンポの良い会話を済ませ、アドルフ達から離れた後、俺はさっそくロッコ爺を探す。
鳥人族のもとへ交渉しに行った時。ヒジリが持つ幻惑魔法の技術を、獣王国の魔法師が学べば、戦力増強に繋がると考えたことがある。
ヒジリ達と信頼を深めていき、いずれその秘術を少しでも教えてもらい、国のために役立てることができたら……そんな下心を抱いていたのも、事実だ。
だがしかし。まさか関係を深める段階をすっ飛ばして、いきなり秘術が記された書物を渡されるとは思わなかった!
これは魔法師なら、何がなんでも手に入れたくなるような品だ。才能のある魔法師なら、これを読んで失われた魔法を習得することも不可能では無い。
あとは、もしも商人あたりがこの手記を手に入れたら、高値で売り払って儲けようとするだろう。
つまり。非常に、扱いに困る物なのだ。
(ロッコ爺、ロッコ爺――いた! しかもアルと一緒だ! ラッキー!)
大賢者と獣王を発見し、急いでそちらに向かった。
「ロッコ爺!」
「おお? どうしたのじゃ、レイモンド」
「とりあえず、これを読んでくれ!」
「ん? ……かなり古い手記のようじゃが――」
俺が渡した手記に目を通した瞬間、ロッコの閉じられた目がカッと開かれ、琥珀の瞳が見えた。
「レイモンド! これを何処で手に入れた!」
「ヒジリから『お納めください』って渡されたんだよ!」
「な、何と……! 幻惑魔法の使い手から直接!」
「ロッコ。それは何だ?」
「アルぼ――いやいや獣王陛下! これは失われた魔法、幻惑魔法の秘術が記された、大変貴重な手記ですぞ!」
「ほう、それは大変――って、マジか!」
あまりのことに素に戻って驚愕したアルベルトだが、次の瞬間には王の威厳を取り戻し、俺に指示を出した。
「レイモンド。ヒジリ殿を呼んで来てくれ」
「かしこまりました!」
それから元いた場所に蜻蛉返りすると、既にアドルフから大体の事情を聞かされていたヒジリは、二つ返事で俺について来た。クロマルとアドルフも一緒に、アルベルトのもとへ向かう。
「深く考えずに手記を渡してしまい、大変申し訳ありませんでした!」
「申し訳ありません……!」
「いやいや。謝罪は無用だ。……それより、ヒジリ殿。本当にいいのか? これほど貴重な物を、個人に渡してしまっても」
「それは構いません。レイモンド様への恩を返すためなら、村にまだ残っている書物も差し上げます。私は書物の内容の全てを記憶しているので、読み返すこともありませんから」
ヒジリが規格外の天才魔法師であることは、よく分かった。ちらっと見ただけでもかなり複雑な内容だったのに、あの手記も、村に残っている書物も、全て記憶しているとは……
「ふむ……レイモンドはどうする? お前が貰ったのだから、所有する権利はお前にあるぞ」
「国に献上いたします。この手記も、鳥人族の村にある書物も、全て」
「全て? 村にある物はまだ中身を確認していないというのに、そんなことを言ってもいいのか?」
「はい。――私の望みは、獣王国ヴァイスの今以上の発展です。幻惑魔法に関する書物を、全て献上いたします」
「……分かった。では、それらの書物は国で厳重に保管するとしよう。お前の気持ちに感謝する」
アルベルトは真面目な顔でそう言ってくれたが、本音を言うと、扱いに困る物を手元に置いておきたくないだけだ。国の発展を望んでいることも、嘘では無いが。
「おお……!」
「貴重な品を手に入れても、私利私欲に走らず奉公のためにそれを献上するとは……! さすがです、救世主様!」
そこのコンドルとキジ。キラキラした純粋な目で俺を見ないでくれ! 勘違いするな。俺は面倒事を回避したかっただけなんだぞ。
だが、その隣にいるアドルフはちゃんと分かっていた。俺を見て、声には出さずに口だけを動かす。
(う・そ・つ・き……『嘘つき』か)
スキルで俺の本音を知ったのだろう。ニヤニヤと笑う狼には、苦笑いを返した。
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