異世界転移しました。元天才魔術師との優雅なお茶会が仕事です。

渡辺 佐倉

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天才とは2

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オーウェンさんは静かに話し始めた。

自分のことなのにまるで客観的事実のみを話す方がいいみたいに淡々と、まるで他人のことを話すみたいな言い方だった。


◆ ◆ ◆

この世界は、魔術の才能があるかという事がかなり重要視されている。
勿論他の能力が世の中の役に立ったり、出世の要素になったりすることもある。

けれど、魔術の力というものが一番に重視されている。
例えば勇者召喚も魔術の一種である魔導で行っているけれど、それができるという権威を他の国に示すことが出来るし、高い女神の権能を得たものを召喚できれば報酬は莫大なものになっている筈。

特に貴族は魔術の素養が必須とも言われている。
親から子に引き継がれる様なものが多いからというのは勿論あるけれど、国の力を見せるのに一番だというのもある。

魔術は戦争の道具にもなるから。

ここはそんな世界だ。

その中で、ある貴族の家の次男坊として魔術の素養のあるものが生まれた。
その子は高位貴族の平均的な魔力量のおおよそ100倍という魔力を持って生まれた。

それだけでも珍しいのに、彼は幼いころから新しい魔術の開発に興味を持っていた。
自国だけではなく他国の魔導書も沢山読み、いくつかの新しい魔術と、魔術理論を生み出した。
論文もそれなりに書いた。
その中には今もそれを基礎理論として研究が進んでいる物もある。

魔術の素養があまりない人向けの魔道具の発明もそれなりの数した。
それはその子息のうちが抱える商会が今も売っている。


順風満帆に見えた。
人々は彼を天才だと、神童だともてはやした。

けれどある日、彼が13歳になる年のことだった。
彼の研究中、彼が研究に使っている屋敷が突如爆発炎上してしまった。

その時に研究していた物、新しく開発しようとしている物の全てが燃えてしまった。

彼も大けがを負った。

それから彼は魔法を1回も発動していない。
新しい発明も何もしていない。
新しい論文も何も発表していない。

世間は彼は事故で魔法が使えなくなったと言った。
天才だったけれど、その源泉は尽きてしまったのだと言った。

神童も大人になればただの人なのだと言った。

その貴族子息は成人した今も何もせず家にいるという。



そういう話だった。

「という訳だけど……」
「それのどこが“元”なんですか?」

これは価値観の違いの問題なのかもしれない。異世界だからという話ではない。
俺の元いた場所でも元天才という人もいるかもしれない。

けれど俺にはあまり元という言葉がしっくりこなかった。


「発明品を売ってる商会は今も商品を売ってるし、論文は今の研究の土台になっている。充分現役でしょう。
少なくとも大人になればただの人なんていうひがみはちょっと批評としても外しすぎじゃないですか?」

例えば若き日に書いた小説がずっと売れ続けている作家がいたとしてそれが最も売れている場合、元天才作家などとは言われない。
その作品が評価され続ける限りその人は天才作家だ。
勿論天才の定義があるかもしれないけれど、彼は少なくとも話を聞く限りこの世界を何らかの形で変えた人なのだろう。


「天才と呼ばれるのが好きか嫌いかはあると思いますが、少なくとも元は違うと思いますよ」


実は仕事を受けた際、何らかの後遺症の様なものを負ってしまったのかもしれないと思っていた。
もしかしたらそういうものはあるのかもしれない。
けれど彼の話からは直接そういう事についての話は無かった。

それに彼はこの話が翻訳されて俺に伝わると知っている。
抑制したみたいな話し方は多分俺に正しく伝えるためでもあったのだろう。

彼は魔法が使えなくなったとも、新しい発明が出来なくなったとも言っていない。
それのどこが元なのだろう。

アーティストが活動を休止して海外留学する際に、才能が枯渇したからだと憶測を言う位には馬鹿なことだと思う。

オーウェンさんはこちらをまっすぐに見る。

「本当にそう思うの?」

そしてそう聞いた。

「思いますね。ちなみに商会の売り上げはあとどの位は続きそうなんですか?」
「少なくとも10年は」
「なら一生遊んで暮らせるでしょうに、誇っていい事じゃないですか?
少なくとも一つも成し遂げたものが無い人間に何か言われる筋合いはないですよ」

実際どの程度の品なのかは知らないけれど、何もしてないとは言わないだろう。

オーウェンさんは泣きそうな顔をしてくしゃりと笑った。顔面国宝はそんな顔をしても顔面国宝なのだなと思った。

「それよりも事故の時の怪我は大丈夫だったんですか?」

彼の怪我のその後について彼は何も言わなかった。
顔はきれいに見える。
この世界に心の治療という概念があるのかは知らない。

けれど意図的に言わなかったようにも聞こえてしまった。
だから聞かないことが正解なのかもしれないけれど彼が何か傷を隠しているのであればと思った。

「それは、大丈夫です。全く。」

全くは誤訳かな、と思ったけれど聞き返すことはしなかった。
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