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嫁入り
**********************
お社での光景を見た後、すぐに俺は父親に、自分が生贄になる旨を打ち明けた。
父は、渋い顔をしていたが、兄は働いており、職場にも迷惑がかかる事と、やはり沙良さんが居ることを説明すると、渋々頷いてくれた。
俺にも決まった相手が居るんじゃないか?と聞かれたが、居ないと答えた。好きな人はいるけど、男同士だし、何より挨拶をする程度の関係だ。婚約者の居る兄と比べるのもおこがましい。
俺の『嫁入り』が決まってからの周りは、まるで腫れものを触るかのような状態だ。
まあ、当然と言えば当然だが。
『嫁入り』についての説明も、彼方の父親から受けた。彼方の家は代々お社を守る家系らしい。
説明の内容をまとめると、
【『嫁入り』はお社様との契約の儀式である。
お社様は蛙が神格化した神様だ。
『嫁入り』は満月の日に行われる。
『嫁入り』後、俺は神様の世界で暮らす。
神様の世界とこちらの世界は時の流れが違う。(神様の世界の方が時間の流れが遅いらしい。)
お社様の許可があれば手紙は望月家を通していつでも届けられるという事。
年に一度里帰りが許可される場合が多い事。(ただ、時間の流れが違うため、疎遠になってしまうことも多いらしい。)】
こんな感じだった。
てっきり、その場で取って食われるような想像をしていたので、少し拍子抜けした。
まあ、もうほとんど両親にも、友人にも、そして戯さんにも会えないであろうという事はわかる。
ぐぅっと胸を締め付けられた気がした。
嫁入りは2週間後の満月の日に決まったが、俺はその日ぎりぎりまで、高校に通うことにした。何かをしていないと、おかしくなってしまいそうだった。
それに、放課後彼方の家に行くのも続けていた。最後に戯さんの顔を記憶に焼き付けておきたかった。
彼方は「大丈夫か?」「告白しないのか?」と気を使ってくれていたが、とても告白なんてできなかった。ただ、彼方のその気持ちが嬉しかった。
『お嫁入り』の前日、母は泣きながら、俺の好物ばかりの夕食を食べさせてくれた。
皆が寝静まった後、父が静かに部屋で泣いていたことも知っている。
だけど、俺は泣くこともできずただ月を見ていた。
**********************
外は、小雨が降っている。
『お嫁入り』は毎回こんな天気になると、おじさん(彼方の父親)が言っていた。
嫁入り衣装といことで白無垢でも着させられたら、恥ずかしさで憤死できると思ったが、神社の巫女さんの衣装の色身を抑えたような着物で少し安心した。
それを、彼方とおじさんに着せてもらう。
荷物は旅行鞄を一つ、最低限必要なものだけが入っている。携帯はどうせ使えないだろうから置いてきた。
山の麓からお社まで徒歩で歩いていきお社で儀式をするそうだ。
お社まではおじさんを含めて、4人の大人が一緒についてきてくれるらしい。彼方が苦々しそうに、「逃走防止の見張り役だ……。」と呟いていた。
彼方と別れを惜しむ。彼方は思いつめたような顔で「大丈夫だから。」と言ったが、俺には意味が分からなかった。真意をただそうとしたが、彼方は口を開こうとして、おじさんに止められていた。
山道、前に二人、おじさんともう一人彼方の親戚のおじさんが平安時代のような着物に、顔を布で隠し、烏帽子をかぶっている。布には顔のようなものが書かれているが、鼻は妙にリアルなのに目は一つだったり、口は三角だったり、不思議なものが書かれている。
間に俺が進み後ろから、大きな傘を俺にさしかけてくれている人と、もう一人、荷物を持ってきている人がいる。後ろの二人は、着ている物は同じだが、顔を隠している布には「影」と書いてあった。
全員一様に無言だ。
こういうことを観察できるというのもずいぶん俺も冷静なのかなと思うが、たぶん違う。感情というものがごっそり抜けおちて、モノクロの世界にいるようだ。諦の境地というのはこういう事を言うのだろうか?
もう、それすら俺には分からない。
しばらく歩くと、お社についた。社殿の方に向かって進むとそこにあり得ない人物が座っていた。
驚いて、足をとめる俺にかまわず後ろの二人が荷物を社殿に運び入れる。
おじさんが振り向き俺の近くまで来て小声で「私たちがいけるのはここまでた。済まない。」といってそのまま社から出ていく。
俺と目があったままのその人物は片足を反対側の膝に乗せて、くつろいだ様子で座っていたが、スッと立ち上がりこちらへ向かってくる。
「何で、戯さんがここに……。」
状況が全く飲み込めず目の前にいる相手の名前を呼ぶ。そもそも本当に目の前の人は戯さんだろうか?
いつもの笑みは全くなく無表情で、目が金色に爛々と光っている。
「とりあえず、社殿の中に入ろうか、濡れてしまう。」
人の子は弱い。
そう言って、戯さんは俺の手を引いて社殿の中に入って行った。
お社での光景を見た後、すぐに俺は父親に、自分が生贄になる旨を打ち明けた。
父は、渋い顔をしていたが、兄は働いており、職場にも迷惑がかかる事と、やはり沙良さんが居ることを説明すると、渋々頷いてくれた。
俺にも決まった相手が居るんじゃないか?と聞かれたが、居ないと答えた。好きな人はいるけど、男同士だし、何より挨拶をする程度の関係だ。婚約者の居る兄と比べるのもおこがましい。
俺の『嫁入り』が決まってからの周りは、まるで腫れものを触るかのような状態だ。
まあ、当然と言えば当然だが。
『嫁入り』についての説明も、彼方の父親から受けた。彼方の家は代々お社を守る家系らしい。
説明の内容をまとめると、
【『嫁入り』はお社様との契約の儀式である。
お社様は蛙が神格化した神様だ。
『嫁入り』は満月の日に行われる。
『嫁入り』後、俺は神様の世界で暮らす。
神様の世界とこちらの世界は時の流れが違う。(神様の世界の方が時間の流れが遅いらしい。)
お社様の許可があれば手紙は望月家を通していつでも届けられるという事。
年に一度里帰りが許可される場合が多い事。(ただ、時間の流れが違うため、疎遠になってしまうことも多いらしい。)】
こんな感じだった。
てっきり、その場で取って食われるような想像をしていたので、少し拍子抜けした。
まあ、もうほとんど両親にも、友人にも、そして戯さんにも会えないであろうという事はわかる。
ぐぅっと胸を締め付けられた気がした。
嫁入りは2週間後の満月の日に決まったが、俺はその日ぎりぎりまで、高校に通うことにした。何かをしていないと、おかしくなってしまいそうだった。
それに、放課後彼方の家に行くのも続けていた。最後に戯さんの顔を記憶に焼き付けておきたかった。
彼方は「大丈夫か?」「告白しないのか?」と気を使ってくれていたが、とても告白なんてできなかった。ただ、彼方のその気持ちが嬉しかった。
『お嫁入り』の前日、母は泣きながら、俺の好物ばかりの夕食を食べさせてくれた。
皆が寝静まった後、父が静かに部屋で泣いていたことも知っている。
だけど、俺は泣くこともできずただ月を見ていた。
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外は、小雨が降っている。
『お嫁入り』は毎回こんな天気になると、おじさん(彼方の父親)が言っていた。
嫁入り衣装といことで白無垢でも着させられたら、恥ずかしさで憤死できると思ったが、神社の巫女さんの衣装の色身を抑えたような着物で少し安心した。
それを、彼方とおじさんに着せてもらう。
荷物は旅行鞄を一つ、最低限必要なものだけが入っている。携帯はどうせ使えないだろうから置いてきた。
山の麓からお社まで徒歩で歩いていきお社で儀式をするそうだ。
お社まではおじさんを含めて、4人の大人が一緒についてきてくれるらしい。彼方が苦々しそうに、「逃走防止の見張り役だ……。」と呟いていた。
彼方と別れを惜しむ。彼方は思いつめたような顔で「大丈夫だから。」と言ったが、俺には意味が分からなかった。真意をただそうとしたが、彼方は口を開こうとして、おじさんに止められていた。
山道、前に二人、おじさんともう一人彼方の親戚のおじさんが平安時代のような着物に、顔を布で隠し、烏帽子をかぶっている。布には顔のようなものが書かれているが、鼻は妙にリアルなのに目は一つだったり、口は三角だったり、不思議なものが書かれている。
間に俺が進み後ろから、大きな傘を俺にさしかけてくれている人と、もう一人、荷物を持ってきている人がいる。後ろの二人は、着ている物は同じだが、顔を隠している布には「影」と書いてあった。
全員一様に無言だ。
こういうことを観察できるというのもずいぶん俺も冷静なのかなと思うが、たぶん違う。感情というものがごっそり抜けおちて、モノクロの世界にいるようだ。諦の境地というのはこういう事を言うのだろうか?
もう、それすら俺には分からない。
しばらく歩くと、お社についた。社殿の方に向かって進むとそこにあり得ない人物が座っていた。
驚いて、足をとめる俺にかまわず後ろの二人が荷物を社殿に運び入れる。
おじさんが振り向き俺の近くまで来て小声で「私たちがいけるのはここまでた。済まない。」といってそのまま社から出ていく。
俺と目があったままのその人物は片足を反対側の膝に乗せて、くつろいだ様子で座っていたが、スッと立ち上がりこちらへ向かってくる。
「何で、戯さんがここに……。」
状況が全く飲み込めず目の前にいる相手の名前を呼ぶ。そもそも本当に目の前の人は戯さんだろうか?
いつもの笑みは全くなく無表情で、目が金色に爛々と光っている。
「とりあえず、社殿の中に入ろうか、濡れてしまう。」
人の子は弱い。
そう言って、戯さんは俺の手を引いて社殿の中に入って行った。
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